青い海、白い砂浜、照りつける太陽。
 うん、やっぱり夏といったら海やな〜



海水浴



 海って言うもんは小さい頃から憧れやった。足が動かんようになってからは海にいけるはずもなく、毎年この時期になると行楽シーズンでテレビが海が映るんやけどそれはわたしにとって手の届かないものやった。
 ヴィータやシグナムたちがわたしのもとにやってきた去年も家と病院、図書館ばかりでどこかに出かけたりはせんかった。足も少しは動くようになったとはいえ今年も同じようなもんやと思っておった。
 やのに……やのに…………

「海だー!」

 そうや、海や。今年はなんとみんなで海に来とるんや。

「ヴィータちゃん大喜びだね」
「そうね、あれだけ喜んでくれると招待した甲斐もあったわ」
「ほんまおおきにな、アリサちゃん。まさか海に泳ぎにこれるなんて思いもせんかったわ」

 そう、今日こうやって海にこれたんはアリサちゃんとアリサちゃんのお父さんのおかげや。魔法で強化すれば歩けることを知ったアリサちゃんはわたしが周りを気にせんでもええようにアリサちゃん家の別荘に連れてきてくれたんや。

「わたしももう何年も来てないところだけどプライベートビーチもあるし景色も良くていいところよ。ここならはやてが車椅子無しで歩いていても問題ないわ」
「でもどうして使わなかったんだ?」

 せやな、こんなええところなら毎年でも来たいと思うんやけど?

「みんな忙しいのに一人出来たってつまらないでしょ。それに向こうでならいつだってすずかやなのはがいるんだからわざわざ来ようとも思わないわ」
「うん、私も同じ。お姉ちゃん達と旅行に行くのもいいけどやっぱりみんながいるほうがいいから」
「うんうん」
「私も、なのはやはやてたちと一緒だと嬉しいよ」

 そっか、みんな同じなんやね。わたしもみんなで一緒やから嬉しいんやし、例え歩けるんやとしてもみんながおらんと寂しいもんな。

「……和気藹々としているところ悪いが君達も少しは持ってくれ」
「クロノ君そんなこと言わないの。力仕事は男の仕事だよ」
「……エイミィ、君も自分の荷物ぐらいは自分で持て」

 ははは、そういえば手ぶらで飛び出してきたから荷物はまだ全部車の中やった。
 後ろを振り返ってみればクロノ君にザフィーラ、シグナムに恭也さん、ノエルさん、なのはちゃんのお父さんにアリサちゃんのお父さんと鮫島さんが両手いっぱいに荷物を持っとる。特に恭也さんは片腕を忍さんに取られていてノエルさんは危なげなファリンさんをサポートしとるしクロノ君の頭の上にはなぜかフェレトモードのユーノ君が乗っとる。それに私たちの手荷物まで全部持って来てくれたみたいや。

「フェレットもどき、百歩譲って荷物持ちは勘弁してやってもいいがせめて自分の足で歩け」
「だから僕はフェレットもどきじゃないって言っているだろう」
「その格好で言っても説得力は皆無だ」

 ユーノ君は昨日まで無限書庫でお仕事やったみたいで今回もぐったりしとるんや。人間の姿やなく楽なフェレットモードでおるんのもそっちの方楽やからみたいや。

「なのは、海は荷物を運んでからだ。さすがに今回は量があるからみんなも自分の荷物だけは持ってくれるかい?」
「はーい、ユーノ君はこっち。じゃあお父さん、私たちは先に中に入っているね」
「ああ、転ばないように気をつけるんだよ」
「はーい」

 ほなわたしたちも自分の荷物だけ持って中にはいろうか。




 今回の旅行は夏休みを利用した二泊三日のお泊り旅行や。メンバーは八神家全員と高町家全員、クロノ君とフェイトちゃんにアルフさんとエイミィさん、それとユーノ君。リンディさんは用事があってお休みや。それとアリサちゃんにアリサちゃんのお父さんお母さんに鮫島さん。すずかちゃんに忍さんにノエルさんファリンさんの総勢二十二名や。
 泊まるのはアリサちゃん家の別荘やけどなんでも数年前になのはちゃん家やすずかちゃん家と一緒にこれるように改装したとかで二十人近く泊まっても大丈夫なそうや。アルフさんやザフィーラは寝る時は子犬フォームやしユーノ君もフェレットモードになってもらえばええんやし十分や。
 気にすることは何もあらへんし、さっそくみんなで海に突撃や。水着を着たんは初めてやけど大丈夫やろうか。みんなで新しい水着を買いにいったんやけど似合っとるとええんやけど。
 ……クロノ君はどう思うんやろうか?
 こうした旅行に来るのは今回で二回目や。前回の温泉旅行ではあんまし話せへんかったし、今回こそクロノ君との距離を縮められるように頑張らんと。

「はやて、着替え終わった?」
「うん、終わったで」
「そう、パパとか男手はみんなもう海に行ったみたいよ。私たちも早く行くわよ」
「ほーい」




 砂浜ではクロノ君や恭也さん、ザフィーラたちがバーベキューの準備をしとった。桃子さんやノエルさんはキッチンで下ごしらえをしてから来るそうや。
 もうすでに何本かパラソルが立っていて準備は終わっとるみたいや。

「やあやあクロノ君、頑張っているね〜」
「エイミィ、君もさっさと手伝え」
「女の子の準備には時間がかかるの。そんなことより見てみて、今日の為に水着を新調したんだから」

 黒のビキニを着たエイミィさんがポーズをとるとクロノ君が視線を走らせる。エイミィさんもスタイルがええ。クロノ君もやっぱりああいうスタイルのええ女性が好みなんやろうか。
 自分の着てきた水着を見下ろしてやっぱりちょっと冒険してみるべきやったかと思う。わたしが着ている水着はワンピースタイプでちょっとフリルのついた薄い赤色の物や。これだとやっぱりインパクトがたりんやろうか。せやけど泳ぎに来るのは初めてやしああいうのはわたしが着ても似合わへんしな。

「……エイミィ、少し太ったんじゃないか? しっかり自己管理しろ」
「なっ!?」

 ってクロノ君、エイミィさんにみとれてたんやないんかい!?

「うら若きお姉さんの水着姿に対する感想がよりにもよってそれですかい? というか海に行くことが決まってから一週間少しでもやせようと頑張ったエイミィさんの苦労を一言でぶった切りましたね。もっと他に言うことはないの、似合っているとか素敵だとかそういうの!」
「君の水着姿なんか何度も見ている。今さらいうことなんか特にない。それよりそこの鞄から着火材をとってくれ。いまいち火のつきが悪いんだ」
「む〜」

 あはは……クロノ君いくらなんでもそれはひどいで。わたしも勇気出してクロノ君に水着が似合っておるか訊こうかと思っとったけど止めといた方がええんちゃうやろうか。うん、あんなこと言われたら立ち直られへんで。

「そこまで言うなら覚悟しなさい。フェイトちゃんはやてちゃんカモーン」
「え、どうしたの?」
「わたしも?」

 呼ばれる前からここにおったわけやけどエイミィさんはわたしの肩をつかむとクロノ君のすぐ前にフェイトちゃんとわたしの二人を並べた。

「さあさあクロノ君、わたしの水着なら見慣れているかもしれないけどこの二人は初めてでしょ。さあ、気張って感想言ってもらおうか?」
「…………」

 う、クロノ君がみとる。どうやろ大丈夫やろうか。横目で見るとフェイトちゃんも突然のことに硬くなっている見たいやし。

「フェイト、よく似合っているよ」
「本当?」
「ああ、こんなことで嘘をついてもしかたがないだろ。よく似合っている」
「ありがとう、これなのはたちが選んでくれたんだ」

 ええなフェイトちゃん、クロノ君に褒められて。わたしのことも褒めてくれるんやろうか? それともエイミィさんみたいにばっさりいかれるんやろうか?

「それではやてだが……」
「う、うん」

 ドキドキ……

「それはもしかしてヴィータとお揃いか?」
「う、うん、そうなんや。この前一緒に見に行ったら同じのがいいと駄々こねられたんや。わたしも別に嫌やなかったしそうしたんやけど……変やった?」

 おそるおそるクロノ君のほうを覗き見るとクロノ君は優しげに微笑んでいた。

「そんなことはないさ。ただはやてのイメージに赤はなかったから驚いただけだ。でもこうしてみるとはやてには赤も合うんだな。今後の参考にさせてもらおう」
「ほ、ほんまか?」
「だからこんなことで嘘はつかない。そんなに僕は信用がないのか?」
「そ、そんなことないよ」
「そ、そんなことあらへん」
「それならいい。まだ準備ができるまで時間がかかる。二人ともみんなと一緒に遊んでくるといい」
「うん、そうしてくる」
「ほなまた後でな」

 ふふふ、良かった。クロノ君褒めてくれたで。



 あ〜気持ちええな〜
 わたしはまだ泳ぐ練習をしてへんからシグナムが膨らませてくれた浮き輪を使って浮いているんやけどそれだけでも楽しいな。
 さっきまでは浅いところでアリサちゃんやすずかちゃんと一緒に水掛け合って遊んどったし、ヴィータも今はすずかちゃんと競争しとる。すずかちゃんごっつ速いからヴィータは全然勝てへんけど何度も何度も挑戦し取るみたいや。
 なのはちゃんもあんまり泳げんみたいでフェイトちゃんに教わっとる。わたしも後で教えてもらおうかな?

「はやて、こんな所にいたのか」
「あれ、クロノ君、準備は終わったん?」
「ああ、後は焼くだけだ。火の番は士郎さんたちがしてくれるそうだから僕もこうして泳ぎに来たんだ。それで、何の用だ?」
「えっ?」

 何の用って別にわたしクロノ君に用なんてあらへんけどな。そりゃ一緒に話をしたり一緒に遊んだりしたいんは確かやけどわざわざ呼んだ覚えはないんやけど。

「さっきシャマルから君が呼んでいる言われて探しに来たんだが……何かの間違いだったか?」
「あ、え、ええっと、それは……」

 シャ、シャマル、気ぃきかせてくれるんは嬉しいんやけどせめてわたしにも一言言って欲しいで。
 せやけどせっかくシャマルが用意してくれたチャンスや。何かないやろうか? ただ話がしたかったとか言ってもクロノ君変に思うやろうし……そうや!

「あんなクロノ君、わたしずっと足が動かへんかったから泳ぐの初めてなんや。もし良かったら教えてくれへん?」
「それは別に構わないが僕でいいのか? フェイトにしろすずかにしろ上手い人は他にもいると思うが」
「うん、クロノ君がええんよ。魔法もクロノ君に教わってよくわかるし、クロノ君に教えてもらったらきっとすぐに上手くなれると思うんや」
「買いかぶりすぎだ。全部君が努力したからだ。しかしまあそう言われて悪い気はしない。わかった、教えよう」
「うん、お願いするわ」

 こうしてクロノ君と二人での水泳教室が始まったんや。フェイトちゃんごめんな。




 足のつく所に移動してさっそく練習開始や。

「別に水に顔をつけるのが嫌とかそういうの大丈夫か?」
「うん、大丈夫や。せやから足の使い方を中心にお願いするわ」
「わかった、じゃあ僕が手を引くからバタ足から始めよう」

 そう言ってクロノ君がわたしの両手を握って後ろの下がっていく。わたしも水底を蹴って身体を横にして引っ張られる。そうすると身体が浮いていく。

「はやて、沈まないように足を動かしてくれ」
「は、はい」

 言われるまま足を上下に振る。バシャバシャと水音はするんやけどあんまり上手く言っているような気はせんな。

「はやて、膝を曲げるんじゃなくて腿を動かせ。それと足首も伸ばして足全体で水をかくんだ」
「はい」

 言われたとおりに意識して足を伸ばす。時々膝が曲がってしまうんやけど頑張って曲がらんように注意する。そうすると少しだけやけど速くなった。

「そうだ、それでいい」

 こ、これでいいんやな。うん、何とかいけそうやな。

「じゃあ手を離すぞ」
「えっ?」

 言われたことを理解するよりも早く手のひらから温かみが抜けていく。
 ちょっ、ちょっと待ってや。いくらんなんでも早すぎや。あっぷ、落ちついて落ちついてって無理やー!
 な、何か掴まるもんあらへんか? なんでもええからこの状況から助かる方法……
 何かが手に触れた。よし、これや。思いっきりそれを掴んで自分の身体をひきつけ、しがみつく。
 はあはあ、なんとか助かったわ。

「もうクロノ君、いきなり離さんといて。びっくりしたやん」
「それはすまなかった。まだもう少し慣れてからのほうが良かったみたいだな」

 ん? なぜか知らんけどクロノ君の声がものすごく近い所から聞こえるんやけど。なんというか耳元あたりから。
 そういえばわたし何にしがみついたんやろう? 肌に触れる感じやと金属ぽくあらへんし岩とも違う。がっちりしとるんやけど柔らくて……なんか似たような感触の物に触れたことがあるような気が。
 おそるおそる顔を上げてみるとすぐそばにあるクロノ君の顔と目が合った。

 ……………………え?

 今の状況を理解するのにちょっとかかってしもうた。
 今手にある感触は以前クロノ君に倒れこんだ時と同じがっちりしていながらも柔らかい感触。しかも今のクロノ君は上半身はむき出しやからわたしは直接クロノ君の肌に触れとる。しかもわたしも水着やからほとんど肌と肌が密着しとるわけやから…………

 あうあうあう、ど、どないしよう。そ、そうや、まずは離れんと。
 慌てて離れようとするんやけど手が離れてくれへん。
 掌に、腕に伝わってくるクロノ君の温もりから離れへん。
 心臓がバクバクしとるんやけど同時に心が落ち着いてもきとる。落ち着いてくれば地面に足がついとるのもわかるしこのまましがみついているのが変やってこともわかる。せやけど身体を離すことができへん。
 泳ぎを教わっとる事や他のみんなと一緒に来とることなんか忘れてこのままずっとくっついていたい。

「はやて?」

 せやけどクロノ君が口を開いたことで現実に帰る。
 そんなふうに思っているのはわたしだけ。クロノ君はわたしの気持ちなんか気がついてもおらへんし、わたしのことを特別に想ってくれとるわけでもあらへん。
 友人、仲間、(フェイトちゃん)の同級生、そして教え子。それがクロノ君から見たわたし。
 そんなことはとっくにわかっとったこちゃけどあらためて思い知った。わたしはこんなにドキドキしとるのにクロノ君はなんとも思っておらん。
 それがちょっと悲しかった。

「はやて、もしかして足でもつったのか?」
「そんなことあらへんよ」

 クロノ君から手を離し、身体を離す。くっついていられへんのも残念やけどそれ以上にここの距離があることが実感できてしまうことが辛い。

「そろそろ始まるんやないかな。みんなのところに戻らへん?」
「あ、ああ、そうだな。本当に大丈夫なのか?」

 クロノ君が心配そうな顔で見とる。わたしは頑張って笑顔を浮かべて応える。

「うん、大丈夫や」

 今はまだ二人の距離は遠いけど、これから頑張って縮めていくんや。
 例えすぐには無理でもちょっとずつちょっとずつ、時間をかけて。

「なあクロノ君、今日はもう無理かも知れへんけどまた泳ぎ方教えてもらってもええか?」
「ああ、また時間に都合ができた時で良ければかまわない」
「うん、よろしくな」

 日々膨らみ続けるこの思いを胸に秘めて。







 あとがき


 イベント真っ盛りの夏なのにお祭りも花火も書けなかったことにショックです。
 今回一番大変だったことはどうやってはやてを海に行かせるか。他の世界だとアリサやすずかを行かせていいものか悩むし近くの海だと足がまだ満足に動かないはずのはやてが歩いていたり泳いでいたりする姿が見られてしまう危険がある。しょうがないのでお金持ちさんにプライベートビーチを用意してもらいました。
 しかしアリサもすずかもお嬢様のはずなんだがやけに庶民的でこういうのもっているのが似合わない。家の規模を考えると持っていてもおかしくないと思うんですけど違和感もするんですよ。他の皆さんはどう思っているんですかね?

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