[PR]あの人との相性を計算機で診断:職場のあの人、嫌いなあの人との相性も!
誇り高き放浪騎士
かつてどれだけ栄えた文明であろうと終わりが来る。いや、あるいは栄えすぎたが故に滅んだのか。
草木の生えぬ砂漠と化した大地にはかつて誇った文明の痕跡を示すものも見つからない。
だがたしかにかつてこの地に栄た文明があり、そしてそこで生み出されたものは例えその文明が滅んだとしても何らかの形で残されている。
ロストロギア、そう呼ばれるそれらの遺産を調べ、危険であれば回収する。それが時空管理局と呼ばれる機関の仕事の一つである。
また、その仕事の中にはロストロギアを悪用し次元世界の平和を脅かす者を捕らえることも含まれている。
その砂漠の空を二つの人影が飛んでいた。一つは浅黄色の光に身を包み、もう一つは薄紫の光に包まれていた。
浅黄色の光が飛ぶ後ろを薄紫の光が追いかける。
浅黄色の光に包まれ空を飛ぶのは小柄な男だった。顎には無精ひげが目立ち、吊りあがった険しい眼光からは困惑と焦燥が読み取れる。時折懐へ手を伸ばし、そこにある物を確認しながらこまめに軌道を変え続けている。
薄紫の光に包まれているのは長身の女性だ。光と同じ色の長い髪を後ろで括り、同色のインナースーツと白を基調としたコートを羽織っている。端正な顔と鋭い瞳は見るものを気後れさせる。だが何よりも彼女を前にして驚くべきところはその手に携えた一振りの剣だ。
デバイス。それは魔法という技術が生まれ出でて作られた魔法の補助装置の一種だ。形状は多種多様、魔法も世界によって系統が違うなどのこともありデバイスといえばこれと決められているものではない。あえて言うならば杖としての形状が管理局でも多用され、主流であるミッドチルダ式の魔法に使われているのだから基本と言えないこともない。
決められていないのだから剣であってもいいのではないかと思うだろう。だが管理局が相手をするロストロギアの危険性を考えれば基本的に集団による行動が求められる。近接戦闘に特化している剣では集団で一つの目標を叩くには向いていない。射撃であれば波状攻撃もしやすいだろう。だが剣では振るう者の身体が邪魔になり波状攻撃に同時攻撃にも制限がつく。無論利点もある。だがそれを踏まえた上で剣型のデバイスを使うものは少ない。
だが何事にも例外というものは存在する。標準的な強さを遥かに越えた強力な魔導師は個人の力量だけで十分に渡り合える。そして彼女はその例外の一人なのだ。
女性の名前はシグナム。時空管理局においても局員の5パーセントといない魔導師ランクAAA、いやAAA+相手でも互角に渡り合えるだろう現場レベルでは指折りの実力者だ。特に近接戦闘では教導官のかわりとして武装隊員に教えを請われるほどだ。
そのシグナムであるが珍しいことに苦戦を強いられていた。
彼女の任務はこの次元世界で行われるロストロギアの不正取引を押さえる事だ。それは上手くいった。連れてきた武装局員は見事に取引に来た顧客たちを捕らえることに成功した。だがただ一人、売人の男を取り逃がしてしまったのである。
この場にいる者の中でもっとも速いシグナムが追っているのだがいまだに追いつけないでいた。
仕掛けてこないことを見ると腕に覚えはないのだろう。だがそれを補って余りあるほど逃走技術に優れている。もしここが障害物の少ない場所でなかったならばシグナムでも振り切られてしまうかもしれない。
だがその逃走劇も終わりが近づいている。シグナムが思念通話で合図をすると男の進行方向に結界が発生した。男は直前で気がついたがすぐに止まることはできず、結界に捕らわれてしまった。そして、シグナムもすぐに結界の中へと入り込んだ。
「ちっ」
男は逃走を続けながら結界を破ろうとしたが予想以上に強固で破れそうもなかった。これは武装局員が使う技術の一つ、強装による効果だ。同種の魔法を複数で展開することによってより高い効果を得ることができる。現在は六人で作っているがこの世界に来ている武装局員の数はシグナムは含めて二十四人、うち四人は捕らえた顧客の監視をしているので結界に回せるのは十九人である。この全員で作られた強装結界はシグナムも最大出力で結界破りの効果を持つ攻撃を使って破るしかない。それほど強力な結界なのだ。もちろん片手間で解けるようなものでない。つまり男が逃げるにはどうにかしてシグナムを無力化して結界破りに集中しなければならなかった。
男が六発の浅黄色に輝く光弾を放つ。直射型の魔法のようでかなりの速度で迫る。だがシグナムから見れば止まっているような速さだ。
わずかに身体を逸らし避け、男との直線状にある大きく避けなければならないものだけを切り払う。重みにかける光弾に触れた刃はまるでそこに何もないかのように通り抜ける。それだけで光弾は霧散する。
わずかな時間すら稼げなかったことに男は驚きながらも再び逃げようとする。だが攻撃の為に足を止めたロスは男の想像以上に大きかった。
『Schlangebeiβen』
シグナムの持つデバイス、レヴァンティンが変形する。弾丸と硝煙を吐き出し、刃が分離しワイヤーでつながれる。シュランゲファルムと呼ばれる連結剣形態だ。
足を止めレヴァンティンを振るうと加速しようとしていた男の足に連結剣が絡みつく。
男は連結剣を破壊しようと攻撃するがびくともしない。何度か攻撃した後、ついに男は諦めたのか攻撃を止め、飛行用に展開していた騎士甲冑を解除した。
シグナムは連結剣を引き戻し、男を捕らえようと手を伸ばした。だがそこで男が動いた。
手に集めた魔力を光弾に変え至近距離から放った。バリアやシールドを張る時間はない。騎士甲冑だけでは防げない。男はとっさに思いついた奇襲が成功したことに笑みを浮かべた。
だがその笑みもいまだに連結剣が足に絡み付いていること、そして煙の中から薄紫の輝きが覗いたことで固まった。
煙の中にはシグナムが薄紫の輝きに包まれて立っていた。
「残念だったな」
男は左手の鞘に打たれ意識を失った。
シグナムは捕らえた男を武装局員に引渡し、次元転送の準備が整うのを待った。シグナムだけならば一人で転移を行えるのだが捕らえた者達も運ばなければならないとなるとそうはいかない。そしてシグナムは個人レベルでの転移魔法は使えても集団を運ぶ転送魔法は習得していなかった。
準備が終わるまでは時間を持て余すしかないシグナムは手持ちのカートリッジを確認していると視線を感じた。
立ち上がりそちらに目を向けるが何も見えない。
「ど、どうしました?」
突然立ち上がり遠くに鋭い視線を向けるシグナムに傍にいた武装局員が慌てて声をかける。だが珍しくシグナムはそれを無視し、視線を動かさない。
しばらくすると視線の先に黒い塊が現れた。どうやらそれは移動しているようで徐々にその輪郭がはっきりと見えるようになってきた。シグナムが見る限り、それは人に見えた。
「ああ、あれはリビングアーマーですね。珍しい」
望遠装置を目に当てた武装局員がシグナムが見ている物について教えてくれた。
「あれは昔この世界に文明があった頃に作られた兵器です。今で言う傀儡兵と同じようなものですがスペックは向こうのほうがだいぶ上ですね。ただ複雑な命令はできませんし実用価値は低いので無視されています。兵器っていってもそれほど危険なものでもないですし人を襲ったって話も聞きませんから管理局もわざわざ回収したりもしていません」
「……だがこちらを見ているぞ」
「たまたま進路上にわれわれがいるだけではないでしょうか?
あの速度ならばここに来るまでに転送できますし気にする必要はないと思います」
「…………」
だがシグナムはリビングアーマーが自分を見ているように思えた。そこに敵意や殺意のようなものは見えないが間違いなく自分を見ているという確信があった。だが危険を感じていないのも確かだ。
「準備が完了しました」
「……そうか、では各自転送しろ。私は殿を勤める」
「はい」
武装局員が消えていく中、シグナムはリビングアーマーのほうを見ていた。転移魔法が発動してもリビングアーマーは歩む速度を変えたりはしなかった。やはり気のせいかと思い、シグナムも転移魔法を発動させる。
だがシグナムがこの世界から消える直前、シグナムにはリビングアーマーが足を止めるのが見えた。
不可思議なリビングアーマーとの邂逅から三日が過ぎた。
シグナムは捜査及び戦闘任務、デスクワーク及び武装局員の戦闘指導とそれなりに多忙だ。その日々の中でシグナムの頭の中にはどうしてもあのリビングアーマーのことが消えなかった。
この三日間毎日のように仕事の後あの世界に行っていた。少し探せばリビングアーマーはすぐに見つかった。そしてリビングアーマーもシグナムのことを見ていた。
だがリビングアーマーはシグナムの前まで来ると足を止め、じっと立ち尽くす。所々亀裂が走り、動くたびに金属のこすれる音が聞こえてくる。腰には鞘に納まった剣を下げているがそれを抜く様子もない。シグナムもしばらくそのままでいると八神家に帰るために次元移動を行った。
いったいあのリビングアーマーが何を求めているのか、そしてシグナム自身が何をしたいのかもわからないまま時間が過ぎていた。
今日の仕事も今手元にある書類をレティ提督に提出すれば終わりだ。そうすれば昨日までのようにあのリビングアーマーの様子を見て八神家に帰るのだろう。
扉を叩き返事をもらうと扉を開いて入室する。中ではレティ提督がいくつものモニターを浮かべながらキーボードを叩いている。
「失礼します」
「書類ならそこに置いて……ってシグナムか。ちょうど良かったわ、少し話があるのだけど時間のほうは大丈夫かしら?」
「話ですか? 今日の仕事はこちらの書類をレティ提督に提出して終わりですから時間のほうは大丈夫ですが」
「そう、それは良かったわ」
レティ提督は展開していたモニターを待機モードに変更し、シグナムまでの視界を確保する。煩雑と浮かんでいたモニターがなくなるとデスクの上にはキーボードのみが残り、先ほどまでの忙しそうな雰囲気が消えていく。
「あなた最近毎日のように742号次元に行っているそうね」
「……はい。規律違反でしたか?」
「そんなことはないわ。あそこも管理世界だもの、行き来は自由よ。ただあなたが珍しく気にしているようだから訊いてみただけよ。報告は受けているけどそんなにあのリビングアーマーが気になるの?」
「それは……」
返事を返そうとしても口ごもってしまう。
シグナムとしてもなぜああもあのリビングアーマーのことが気になるのかわからないのだ。だがなぜか頭をよぎり、あの場所へと足を運んでしまう。あえてその感覚を言葉にするならば呼ばれているように感じるということになるのだがそうなる理由もわからない。だからシグナムも答えを返すことができなかった。
「…………わかったわ」
しばしの沈黙の後、レティ提督は溜息を吐き数枚の書類の束を取り出した。
「これにリビングアーマーとあの世界のことをまとめておいたから帰る前に目を通しておきなさい。もしかしたら何かわかるかもしれないし。それとあまり気にし過ぎないようにね。管理局の仕事は山ほどあるんだから」
「レティ提督……」
「いいのよ、あなたは大事な部下なんだから。部下が気持ちよく働けるようにするのも私の仕事なのよ。だからあなたも早く自分の問題を解決してちょうだいね」
何か言いたげなシグナムにレティ提督が言葉を重ねる。その言葉の温かみにシグナムも書類を受け取り頭を下げる。
「はい、失礼しました」
退出するシグナムを見送り、レティ提督は再びモニターを呼び出した。
「それにしてもシグナム、本当に何が気になるのかしらね」
それはとても気になることであるが多くの部下をまとめるレティ提督には一人の部下の為に割ける時間はあまり多くない。今度プライベートで誘ってみようかしらと考えながら仕事に戻るのだった。
742号次元、かつては高度な魔法技術と科学技術を保有していた世界であるが戦争により崩壊。滅んだのはまだ管理局の足場がしっかりと固まるよりも前の話のため資料が不足しており詳しいことは無限書庫の整理終了後に再調査予定となっているが戦争末期に使われた戦略兵器が現在の砂漠を生み出したといわれている。リビングアーマーはその戦争で最前線で戦う白兵戦用近接特化型機動兵器だった。
高出力の魔力障壁と厚みのある重装甲の鎧によって距離を縮め、切りつける使い捨ての量産兵器だ。必要最低限の判断を行うための人工知能は搭載されているが自ら思考する機能なく、言葉を発することもない。ただ命令を聞き敵陣へと突撃する、ただそのためにある兵器だ。
だがその兵器は戦争が終わり、当時の人類が死滅した後もこの世界に残ってしまった。その兵器は倒すべき敵もなく、従うべき主もなくただ彷徨い続けていた。
資料に一通り目を通したシグナムは新たに何枚かの書類を作成してレティ提督に提出し、はやてに帰りが遅くなることを伝えると再び742号次元を訪れていた。
今回もリビングアーマーはすぐに見つかった。まだ距離があるが向こうからも距離を詰めてきている。すぐに埋まるだろう。その時間を使ってシグナムはカートリッジの確認とリビングアーマーの観察を行った。
リビングアーマーには昨日みた亀裂が残っていた。資料によると自己修復機能があるそうだがもはやまともには動いていないのかもしれない。
リビングアーマーがシグナムの前で止まった。その距離はいつもと同じ5メートル。シグナムにとって見れば高速機動なしでも瞬時に詰めることのできる距離だ。普段はこのままどちらも動かず時間が過ぎ、シグナムが帰る。だが今回は今までとは事情が違った。
これまでシグナムは次元移動の為に騎士甲冑を纏っていてもレヴァンティンは待機状態のまま首から下がっていた。だが今回はすでに鞘から抜かれた抜き身のままシグナムの手にあった。それはシグナムなりの意思表示であった。
リビングアーマーも腰の鞘から剣を抜いた。一切の装飾のない無骨な両刃の剣。だが亀裂の走る鎧とは異なり刃こぼれ一つしていない。そして鎧の亀裂からは琥珀色の魔力光が溢れ出した。
「私は八神はやてが守護騎士シグナム」
それに呼応するようにシグナムの身体を薄紫の魔力光が包み始める。
「参る」
動き始めたのは同時。シグナムが言葉を発すると共に前に出るのにあわせリビングアーマーも重厚な駆動音を鳴らしながら前に出た。
最初の接触は最高速でのすれ違いざまに行われた剣の応酬。リビングアーマーの剣は騎士甲冑の表面に現れた魔力障壁によって遮られ、レヴァンティンは鎧の表面に弾かれた。鎧にはわずかな線がひかれシグナムの手にはわずかな痺れが残る。
最初の応酬は技量としてはシグナムのほうが上、だが結果としては痛み分けだ。
地に足が着くと同時にシグナムは地をけり距離を詰める。リビングアーマーが振り向いた時にはすでに横薙ぎに払っていた。だがそれは剣で受けられる。さらに距離を詰めたままレヴァンティンを振るう。
一合、二合、三合と数を重ねていく。シグナムの斬撃は速くて重い。リビングアーマーは5合受ける間に一撃返す。だがシグナムは落ち着いてそれを払うとさらに攻撃を重ねていく。すでに何度か受けきれずレヴァンティンはリビングアーマーに傷をつけていた。だがそれがダメージになっているようには見えない。そもそも金属鎧というものは刃を通しにくいのだ。ましてやかなり厚みのあるリビングアーマーの鎧はそうそう斬れる物ではない。ヴォルケンリッターの中で言うならばこの手の相手はヴィータのほうが適任だ。斬るではなく砕く、あるいは穿つグラーフアイゼンの方がレヴァンティンよりも破壊力は大きい。だからこそ本来は鎧の継ぎ目を狙うのだが、相手は人ではない。隙間から刃を通せば倒せる保障はない。
もうすでに百近い攻防の中でシグナムは徐々に大きくなっていく音を聞いていた。リビングアーマーの内側から聞こえてくる魔力機関の駆動音だ。最初の斬り合いから聞こえてきた音が徐々に大きくなっていた。そして溢れてくる琥珀色の魔力量も多くなっている。最初聞こえていたはずの鎧が擦れあう音が消えていた。一撃一撃の速度が増し、重くなっていく。
おそらくこれがリビングアーマーの持つ本来の戦闘能力。永きにわたり自己を保存する為に落としていた機能をシグナムという強敵と戦うために本来の姿に戻しているのだろう。
シグナムのほうが押していた戦況が徐々に互角へと移っていく。手数が減り、今まで5回に一度は相手の鎧に届いていた攻撃が届かなくなった。互いに相手の攻撃を受け、あるいは避け、自らの攻撃を届かせようとするがそれでも届かない。
さらに数十と刃を重ね、ついに戦況に変化が訪れた。相手の攻撃を受け止めたシグナムの足が砂に取られ、バランスを崩した。
当然リビングアーマーがその隙を見逃すはずもなく、空いた手の拳がシグナムへと迫る。それをパンツァーガイストの局地防御で受け止めるが、追い討ちとして再び剣が振り下ろされる。
十分な体制が整っていない状況では避けられない。パンツァーガイストで受けようにもすでに拳を受け止めるのに使いってしまいすぐに発生場所を変えることはできない。倒れないように無理矢理こらえたため右手のレヴァンティンも横に流れており頭上からの攻撃を受け止めることはできない。
だがその状況でもシグナムは諦めなかった。
左手に鞘を構成し受け止める。斬撃を十分に受け流すには体勢が崩れている。受けきるには鞘の強度が足りない。鞘はひしゃげ、騎士甲冑の肩へ食い込む。だが刃を通しはしなかったし、衝撃も和らげた。そのわずかな時間を使ってシグナムは体勢を立て直し後ろへと跳んだ。そしてカートリッジをロードする。
リビングアーマーはすぐに距離を詰めに入り、砂塵を巻き上げ加速する。
だがリビングアーマーが来るよりもシグナムがレヴァンティンを振るう方が速かった。
レヴァンティンから放たれた衝撃波がリビングアーマーの前進を留める。爆発的な加速力を失ったリビングアーマーは着地する。だがシグナムの狙いはリビングアーマーの足を留めるだけではなかった。衝撃波は大地に積もる砂を巻き上げていた。砂漠に積もる砂を衝撃波によって抉り取られた場所にリビングアーマーは足を着いた。
斜めに抉り取られたばかりの柔らかい砂は重量のあるリビングアーマーを乗せることで斜面に沿って流れていった。そのため今度はリビングアーマーが足を滑らし、体勢を崩した。
「Explosion」
シグナムは両手でレヴァンティンの柄を握り地を蹴る。カートリッジが吐き出され振り上げられた刀身に炎が宿る。
「紫電」
リビングアーマーの防御は間にあわない。シグナムはリビングアーマーの鎧のただ一点を狙う。そこは今までの戦いの中で何十という斬撃を加えて場所であり、戦う前から亀裂ができていた場所でもある。その亀裂はこれまでの斬撃で広がっていた。傷のつけられない中ひたすらに刃を振るってきたのは必殺の一撃を確実に決めるための突破口を開くためだ。
「一閃」
振り下ろされたレヴァンティンの刃は寸分たがわず亀裂を抉り、鎧を砕いた。全身にひびが広がり、鎧の内側までも刃は引き裂き、炎が焼く。
内側から溢れていた琥珀色の輝きが徐々に消えていき、リビングアーマーは膝をつき、剣を落とす。
「見事だった」
シグナムはレヴァンティンを待機状態に戻すと膝をついたリビングアーマーに語りかける。
「貴公は最後まで騎士として戦い死ぬ。貴公の勇敢な戦いはこのシグナムが覚えておこう。だからもう、安らかに眠れ」
リビングアーマーは何も答えない。もとより言葉を発することはできないし、例え言葉を発することができたのだとしても今の状態ではできなかっただろう。だが琥珀色の魔力光が完全に消える直前、重厚な駆動音を響かせ、まゆばい光を放った。
「……さらばだ、誇り高き騎士よ」
シグナムはそれを自分の言葉の返事として受け取ることにした。
「それで結局どういうことだったかしら?」
後日、レティ提督の執務室でシグナムはレティ提督から今回のことについて訊ねられていた。
「わざわざ管理世界での戦闘許可とカートリッジの使用を申請してから行ったってことは最初から戦うつもりだったってことでしょう?」
レティ提督は先日シグナムが前もって提出していった二枚の書類をシグナムの前に出していた。それは管理世界による私的な戦闘行為の申請とそれに伴うカートリッジ使用の申請だ。これは別に前もって提出しなくても事後に出してもいいものだ。それをわざわざ出してから向かったのだから戦いになることが前もって決まっていたということだ。
「これはあくまで私の想像なのですが、あの騎士は死にたがっていたのだと思います」
「死にたがる?」
「はい、それも一介の騎士として戦ってです」
「……でもあれには意志なんかないのよ。それなのにそんなこと考えるものなのかしら?」
リビングアーマーは明確な意思のない自動人形だ。ただ戦うために作られた兵器でしかない。使い捨てられる道具だ。そんなものが死にたいという感情を持つとは思えなかった。
「私にもそれはわかりません。ですが私は自分がその相手として、最後に戦う相手として選ばれたのだと思います」
シグナムとしても根拠はない。だが資料を見て、リビングアーマーの境遇を知ったとき、そうではないかと思ったのだ。
主の為に死力を尽くして戦うために造られながらも主を失って生き延びてしまった。そして新たな主となる者もなく、敵として倒すべき者すら失ってしまった。シグナムならば恥を忍んで生き延びるのも苦痛であり、何もできずに滅ぶのも苦痛だ。それならばせめて最後は騎士として戦って騎士として散りたかった。もしかしたらリビングアーマーもそうなのではないかとないかと思ったのだ。
だからシグナムは一人の騎士として名乗りを上げ決闘を挑んだ。他の人から見れば他愛もないことだろう。放っておけと言われるかもしれない。シグナムが戦った理由なんてものはそんなものでしかない。ただシグナムにとってそれが重要なことであったというだけのことである。
「…………まあいいわ」
しばらく考え込んでいたがレティ提督は理解するのを諦めた。言ってみれば心の問題だ。それはどれだけ魔法技術や科学技術が進んだところで完全に理解しきることはできない。それよりも現状シグナムの悩みが解決したことのほうが重要なことだ。
「とりあえずシグナムの気が晴れたみたいだし、これからも頑張ってくれるでしょ」
「はい」
シグナムの返事はいつも通り静かで、そして力強いものだった。
あとがき
今回はシグナムオンリーのシリアスバトルものです。久しぶりに戦闘物でも書きたいなと思って選んでいたらやっぱりシグナムが一番しっくり来ました。次もシグナムかどうかわかりませんが時々書きたくなったらまた書きます。
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