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あまたの星々が漂う広大なる宇宙。その中でもっとも地球に近い星、月、その上で四つの影が動いていた。
その影は一言で言うならば人形というべきだろう。白く塗装された金属の皮膚を持ち、二本の足で地をかけ、二本の腕を動かす。頭部は口元こそ金属で覆われているが、目がある位置には二つの赤い光が灯っている。そして普通の人間と違うのは背中から翼が生えていることだろう。
四つの人形が二組に分かれてぶつかり合う。そのどれもが右腕から刃が伸び、左手には銃を握っている。たとえ刃が皮膚に傷をつけようとも、銃弾が白を黒く染めようとも、人形たちはまるで気にすることなく動き回る。それはまさに操り人形のようであった。しかしこれがただの操り人形であるはずがなかった。なんせこの人形の大きさは十メートルを大きく超しているのだ。重量も十トン以上はあるだろう。
これらはフィギュアと呼ばれる機械人形だ。もともとは宇宙空間での作業用として十年前に造られたもので、その作業能力の高さから、完成からわずか二年で大きな進歩を生み出した。フィギュアの完成によって宇宙文明の発達が三十年は早まったとさえ言われているぐらいだ。このフィギュアは今やその起動OS、各機関も格段に進歩し、今まで細かくとも単調な動きしかできなかったのだが今ではまさに人間のように柔軟な動きができるようになっていた。その結果たどり着いたのはフィギュアの武装計画である。今戦っている四機のフィギュアはその結果生まれたブレイブフィギュア、通称BFの、BF同士の戦闘を前提として造られた最新型の機体で、名をアークエンジェルVという。
その四機のアークエンジェルVが戦っているのを管制室から見ている人間がいた。
「アークエンジェルVの性能は申し分ないな」
多くの白衣を着た研究者たちが働いている後ろで、一人違和感を出しているスーツ姿の男がモニターに映し出されたデータを見ながら言った。
「ええ、パワー、運動性、機動性、どの面で見ても従来の量産タイプBFよりも優れています。かかるコストも若干増えてしまいましたが、それでも許容範囲内だという自信はあります」
それに答えたのは他の研究者たちと同じく白衣を着ている男が答える。こちらはずぼらなのか、それともそんな時間もないのか、無精ひげを生やしている。どちらの男もまだ若い。おそらく三十には届いてないだろう。
「確かにこれなら頭の固い連中も首を縦に振るだろうね。もっとも問題なのは他の社がどの程度のものを造ってくるかだけどね」
スーツを着た男はそれだけ言うと、出口の扉へと向かう。
「では次の試験にはアークエンジェルVで行かせてもらえますか?」
「OKだ」
白衣の男の言葉にスーツの男は一言だけ答えた。そしてそのまま管制室をあとにした。
「おお、ようやくついたな」
「そうだね」
月の宇宙港のロビーに二人の少年が手にスーツケースを持って歩いていた。片方は背が高く、体つきがよさそうな少年で、なぜか背中に大きく書かれている“翔”の一文字が人目を集めている。もう片方は逆に背はそれほど高いようには見えないが、体つきも悪くなく、先の少年が荒々しく見えるせいか、とても知性的に見える。名前は背の高いほうがレイイチ・シンドウ、知性的に見えるほうがアキラ・ベルガーだ。
「たしか姫さんが迎えをよこしてくれるはずだったよな」
「うん、こっちの到着時刻にあわせて迎えに来るって言っていたよ。船は遅れていなかったからもしかしたらまだ来ていないのかもしれない……あっ、いたよ」
レイイチがアキラの見ているほうを向くと、その先には若草色のシャツに、ブルーのロングスカートをはいた少女が立っていた。
「って、わざわざ姫さん直々に迎えに来たのかよ。そんなもん使いのもんでも出してくれれば十分だってのに」
「でも会うのは四年ぶりなんだよ、やっぱり早く会いたかったんじゃないかな? ユイってああ見えても意外と寂しがりやだし」
「はいはい、相変わらずお熱いねえ」
悪がきのような憎たらしい笑みを浮かべるレイイチの言葉に、アキラの顔が真っ赤に染まった。もっとも、まだ距離がある少女には気づかれてはいないだろう。
「も、もう、別に僕とユイはそんなんじゃないんだよ。ほら、くだらないこと言っていないで早くユイのところに行こう」
「へいへい」
少し早足でレイイチから逃げるように少女に向かっていくアキラのあとを追いながら、レイイチはアキラの顔が赤くなったままだけど大丈夫だろうかと心配したが、少女の顔がはっきりと見えるようになると心配するのを止めた。なぜなら少女のほうもアキラにまけず劣らず顔を赤くしていたからだ。あれでは相手の顔が赤いことになどどちらも気づきやしないだろう。
「はあ、ほんと相変わらずだな、二人とも」
レイイチは昔から変わらない二人の様子に苦笑を浮かべながら、なるべくゆっくりと時間をかけて二人のところに歩いていく。せっかくの二人の再会シーンの邪魔をする気など微塵もないのだ。
「…邪魔といえばすっかり忘れてたな」
ゆっくりとした歩みさえもとめて後ろを振り返る。先ほど二人がくぐってきたゲート付近はまだ混雑している。そしてその列の中にレイイチは目的の人物を見つけた。その人物はすぐにでもゲートを抜けてこちらに来るだろう。アキラと姫さんの二人が形成している二人の世界が終わるのとどちらが早いか比べればきっとその人物が自分のところに来るほうが早いだろう。そう判断したレイイチは二人からは少し離れ、そしてゲートのところからはすぐに見つけられる位置へと移動した。
そしてレイイチの狙い通り、その人物はゲートを抜けてすぐにレイイチに気が付いた。
「レーイーイーチー!」
レイイチに向けて恨みのこもったうなり声を上げて近寄ってきた人物――ミリア・ザルスはレイイチよりも頭ふたつ分小さい少女だが、なんのためらいもなくレイイチの襟を掴みあげた。
「あたしを無視して先に行くなんてずいぶんじゃ…ふが!」
最後まで言い切る前にレイイチは片手でミリアの口をふさぎ、もう片方で静かにするようにジェスチャーした。ミリアは目を険悪に吊り上げるが、レイイチが次に片手である一方を指差すと、そっちにあるものを見て絶句した。
そこにあったのは半径二メートル以内に人をまったく寄せ付けない特殊な空間を構成しているアキラとユイの姿があった。
「…あれは一体なんなの?」
ミリアの知る限りアキラ・ビルガーという少年は少々気が弱く、押しが弱いが基本的に冷静で、状況を瞬時に把握する能力に長けている。レイイチ・シンドウなどという大雑把でがさつな人間と一緒にいるせいで余計にそう見えるのも知っている。しかし今彼女が見ているアキラは明らかに違う。少なくともあんなに顔を真っ赤にして少女と一言も話さずにじっと見つめ合っている姿など想像もできない。
しかしレイイチにとってはすでに分かりきったことなので返答は簡単なものだった。
「愛しくてしかたがない恋人との四年ぶりの再会シーンだ」
実に要点だけしか入っていない答えだ。
「…なんていうか今時小学生でもあんなのはいないと思うわ」
「ああ、俺もそう思うが二人とも信じられないくらい奥手でな、俺の知る限り二人で出かけたこともないはずだ」
「…それって恋人って言うのかしら?」
少なくともミリアにとっては違うような気がして仕方がない。
「まあ相思相愛なのは間違いない」
レイイチにとってはそれ以外はどうでもいいことのようだ。
「ところで確か迎えが来るはずだったけど、まだ来ていないの?」
周りを見回すがそれらしい人は見当たらない。
「ああ、あそこにいるぞ」
「えっ!」
声を上げたミリアの内心がどうなっているのか、レイイチにはそれがよく分かった。
なぜならミリアの視線の先にいるのは他ならぬアキラと向かい合って顔を赤くしている少女がいるのだから。
「名前はユイ・F・ロニアス、俺らが今日から勤めるロニアス結社の会長の娘で月支部第九研究所所長、つまり、俺らの上司になるわけだ」
ロニアス結社、それはこの太陽系星系の中で三本の指に入る大企業である。生活用品から軍需産業まで幅広く手を広げ、フィギアができたときもいち早く開発に乗り出し、最初の工業用フィギュアの量産機を開発したのもロニアス結社であった。その後もBFの開発にも力を入れ、月に九つの研究所を持っている。はっきり言えばBF界の最高峰だ。実際に軍の採用機もここの物である。さらに言えば今年士官学校を卒業した三人が軍のエリートの道を蹴ってまで手に入れた就職先でもある。
そんなわけで迎えといってもそれこそ自分と同じような新米で、やたらと堅い人間が来ると思っていたミリアは会長の娘で就職先の所長、しかも一番最初に見た姿があの特殊空間構成中で、とどめとばかりに同僚であるアキラの彼女である。ミリアは一瞬で固まった。
もちろん最初から知っていたレイイチは特に思うことはないし、ミリアが固まったことでさえも静かでいいやぐらいにしか思っていない。
けっきょくミリアが正気を取り戻したのはそれから十分後、ユイとアキラが正気に戻り、レイイチによって迎えの車の中に押し込まれた後だった。
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