「ねえ、今の人誰?」

 驚きのあまり固まっていたミリアはレイイチの姿が見えなくなってから、ようやく口を開いた。

「アイザック・フランキー博士、レイイチさんが乗るBF、カマエルの製作者で異端の天才と呼ばれています。専攻はジェネレーターなんですがBF技術全般に関して多くの知識を持っています。あの性格のためどこに行ってもすぐに追い出されてしまうそうなので、うちに来てもらいました」

 こころなしか困惑しているように見えるのはやはりアイザックの扱いに困っているのだろう。

「まあたしかに、あたしはレイイチが押されるところ初めて見たわ。でも天才なんて呼ばれるやつなんか基本的にみんなそうなんじゃないの。天才と馬鹿は紙一重って言うし」
「はい、まあそうなんですけど、アイザック博士の一番の問題は開発のコンセプトにあるんですよ」
「コンセプト?」

 ミリアが首をかしげる。別にコンセプトの意味がわからないのではない。それが問題になるのがわからないのだ。

「はい、今世間で求められている技術は小型で高出力のジェネレーターなんですが、アイザック博士が開発したジェネレーターは高出力なんですけどもサイズが普通のジェネレーターの倍近かったりするんです」
「ああ、なるほど」

 ユイの言葉にミリアも納得した。今現在BFに限らず、フィギュアと呼ばれる機体全般の課題に小型化である。これにはコストの削減が目的でもあるのだが、なによりもフィギュアが抱えた大きな問題を解決させるためだ。

 その問題とは重量なのだ。

 作業を目的としたフィギュアはどうしても重くなり、十トンを普通に超えるフィギュアでは地球上での活動ができないのだ。別に出力が足りないわけではないので飛行型ならば問題はないのだが、その重量ゆえに地上で運用することができないのだ。
 重力の小さい惑星でならば使えるのだが、地球以上の重力を持つ惑星では運用ができないのだ。
 この解決のために小型化以外にも装甲の軽量化、より軽い材質を使うなどの工夫もしているのだが、一番期待されているのが小型化なのだ。そして最も小型化の中心となるのがジェネレーターなのだ。実際にどの会社でもジェネレーターの小型化にかなりの予算を投じているらしい。
 だがアイザックの考え方はそれを完全に無視しているのだ。そのくせ才能はあるのだから始末に終えない。異端の天才とはよくもまあ言ったものだ。

「ここにある四体のBFにも彼が造ったジェネレーターを使っています。サイズはやはり通常の倍近いのですが出力は従来の三倍は出ています。量産型ではドミニオンにしか積めないのが最大の欠点ですね」

 ドミニオンというのはロニアス社が製造した量産型BF<セレスティアシリーズ>の中でも最強を誇るシリーズだ。
 コンセプトはハイパワーハイスピードで、造られてからすでに三年が過ぎているが、それでもいまだ最強の量産機の名をほしいままにしている機体だ。
 セレスティアシリーズは他にも無人操縦型量産機エンジェル、汎用型量産機アークエンジェル、情報索敵型量産機プリンシパリティ、近接戦闘特化型量産機パワー、換装式量産機ヴァーチャーの五つがあり、BFではないが量産型戦艦オファニムがある。

「そんなことよりもこの人どうしたらいいのかな?」

 アイザックのことで話している二人を尻目に、アキラは倒れたライナスを見ていた。
 見たところかなり鍛えられているようなので大丈夫だとは思うが、レイイチでさえ感嘆の声を上げるほど最初の跳び蹴りはきれいに決まっていた。

「……行ったか」

 だがアキラの心配をよそに、ライナスはなんなく体を起こした。

「ちくしょう、あの野郎毎回毎回蹴りやがって。こっちは体が資本だってのに」
「あ、あの、大丈夫なんですか?」

 起き上がるやいなやぶつぶつと愚痴をもらし始めるライナスに、アキラは大丈夫そうな様子に驚きながら口にした。

「ああ、あの程度ならよくあることだ。あいつ本当に自分のことしか考えてねえから気に入らないとすぐに襲ってくるんだ。お前も気をつけろよ。そんな細い体じゃただじゃすまないからな」
「は、はい」
「よし。まあそんなことよりだ」

 アキラの返事に満足したライナスはもう一度周りを見回してアイザックと、ついでに厄介そうだったレイイチもいなくなったことを確認してアキラに向き直った。

「はっきり言って俺はおまえの腕を信用していない。悪いがおまえの仕官学校時代の成績はオレも見せてもらった。たしかに悪くはない。いい作戦を立てているし、実際にそれで勝ち続けている。全戦全勝は誇っていいことだ。だが作戦が失敗したり、ミスが生じた場合のあれは何だ? 何一つフォローできていない。実際の戦いでは予想通りに行かないのなんか当たり前だ。不測の事態にどれだけのことができるのかが指揮官として大事なことだ。おまえにはそれがない。そんなおまえにリーダーを任せようっていうのが納得できん。しかもおまえ、パイロットとしての腕もあの二人に比べてかなり落ちる。同じチームで行動するやつの能力にあそこまでの差があったらチーム行動なんかできるわけがねえ。はっきり言っておまえはただの足手まといだ。そんなおまえにここの研究所の中でも最強の機体であるメタトロンを任せようなんて無駄以外のなんでもない」

 はっきりと言い放つライナスに、アキラはとっさに言い返すことができなかった。アキラ自身その自覚がありすぎるのだ。
 仕官学校時代のBFチームで指揮を執っていたのはアキラだったが、それはレイイチもミリアも作戦の立案や指揮を執るのはあまり得意でなかったし、もう一人いた仲間もトップよりもその副官というポジションが合っている人物だったからにすぎない。そしてそれでも勝ち続けてこれたのはどんな作戦だろうとこなし、もしその作戦が失敗しても道を切り開くことができるだけの実力を持っていたレイイチとミリアがいたからだ。そうでなければ今自分がこうしてここに立っていることもなかったかもしれないとアキラはいつも考えていた。
 だがもしレイイチにアキラがそう思っていることを教えたらかなり困っていただろう。
 なぜならばアキラがフォローできていないのは実力不足のせいなのではなく、失敗した直後にはすでにむちゃくちゃな戦い方を始めるレイイチとミリアによって戦況がどんどん塗り替えられてしまうからなのだ。並みのパイロットならば力ずくで突き破れるだけの力を持った二人と組まされたのが不運だったとしかいえない。だから教官たちも特にアキラの成績をマイナスしなかった――レイイチとミリアはたっぷりとマイナスされていたが。

「だがだからといってお前を完全否定するほど俺だって見る目がないわけじゃない。それにあれだけじゃおまえが実際どれくらい戦えるのかわからないからな。だから」

 ライナスは今二人がいる足場の下のほうに見える一機の白いBFを指差して言った。

「あのメタトロンをかけて俺と勝負しろ」


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