数多の岩礁や金属片が漂う暗礁宙域、そこに漂う一機のBF、それはまだ発表されたばかりで少数しか生産されていないはずのアークエンジェルVだった。

「フィールド確認、BFデータ正常、全システム確認、オールグリーン。シミュレートシステム正常、問題なしだよ」
「こちらでも確認しました。ウィラーさんのほうも正常に作動しています。一分後に始めますから準備してください」
「わかった」

 全てのシステムをチェックしてユイとの通信を終えたアキラはシートに寄りかかり、はやる気を静める。
 アキラがいるのはアークエンジェルVのコクピットではない。コクピットと同じように作られたシミュレータールームのひとつだ。
 ライナスと新型BFのメタトロンのパイロット権をかけて勝負することになったのだが、さすがに本物のBFを使って勝負するわけにはいかないのでこうしてシミュレーターでの勝負になったのだ。
 アキラは最初乗り気ではなかったが、メタトロンの製作者がユイであると聞いては受けないわけにはいかなかった。

「でも、勝てるかな?」

 アキラはレイイチと違い自分に対して大して自信を持っていない。士官学校ではBFの操縦技術に関しては学年三位の立派な成績を残しているのだが、二位から大きく差をつけられた上での三位なので、アキラは経験を積んでいない士官学校の学生の中だからだと思っている。実際に戦場で戦い抜くには二位だったミリアぐらいの実力が必要なのだと勘違いしてしまっているのだ。
 実際にはミリアは実戦経験を持つ教官たちでさえ勝てず、士官学校では十年に一度の逸材といわれているのでそれを基準にして考えるのはおかしいのだが、そのミリアですら勝てないレイイチとずっと一緒にいるため、強さに対しての認識がおかしくなっているのだ。

「まあ、がんばるしかないよな」

 弱気ながらもしっかりと操縦桿を握り、気分を戦闘用に持っていく。

「始めてください」

 ユイの言葉を引き金にして、アキラのアークエンジェルVは動き出す。いまだレーダーに映らないライナスのアークエンジェルVを探して。





「状況を教えてくれ」
「あら、もう開放されたの?」

 二人の動きが映っているスクリーンを見ているミリアのところにようやくアイザックから解放されたレイイチがやってきた。

「まあな、まあおかげで自分の乗る機体のことがよくわかったな。あいつの言っていた欠陥機という言葉もよくわかった」
「ほんとに欠陥機だったの?」
「バランスがめちゃくちゃ、しかも武装にも問題あり、ありゃ確かに人間には扱いこなせないな」
「とんでもないじゃない」

 欠陥機というのはしょせん負け惜しみだとたかをくくっていたミリアだったがさすがにレイイチの言葉を聞いては驚かずにはいられなかった。
 BFに限らずフィギュアに必要なのはパワーよりも機体のバランスである。これがなければどんなに強いパワーを持っていたとしてもそれを十分に発揮することはできない。それがめちゃくちゃなどとまちがいなく欠陥である。

「まあ俺ならどうにかできる範囲だし、姫さんもそう思ったから許したんだろうな。あるいはドクターも俺が乗るから気兼ねなくバランスを無視して造ったのかもな」
「…………呆れるわ」

 ミリアもレイイチのでたらめさはよく知っているのでため息しか出ない。十年に一人の逸材といわれるミリアをもってして歯が立たない正真正銘の天才、百年に一度出るか出ないかの逸材とまで言われているレイイチを自分の常識で図ろうというのがまず不可能だということはよく理解している。

「それで、何で二人が戦っている? あと状況とルールも」
「ユイの造ったBF、メタトロンのパイロット権をかけての勝負よ。フィールドは見てのとおり暗礁宙域、勝敗は機体の破壊かギブアップ。あとは実戦通りなんでもあり」
「ほう、さてアキラはどこまでやれるかな?」
「えっ? ライナスのほうが強いの?」

 レイイチがいた時のやり取りからしててっきりアキラが勝つと確信していたミリアはレイイチの言葉に驚いた。

「実力は互角だろうな。だがあっちのほうが実戦での経験がある。自分の命を天秤にかけて磨き上げてきた力は甘く見ていいものじゃない」

 自他とも認めるアキラ絶対主義のレイイチだがだからといって実力を見るときに色眼鏡を混ぜたりはしない。強いやつは強いと認めるし、アキラが普通よりかは強くても、この中ではあまり強くないことも知っている。だがそれでもレイイチには一つの確信があった。

「まあそれでも勝つのはアキラだろうな」

 ユイの造った機体がかかっている以上アキラの負けはない。そのことを論理も感情も外れたところで確信しているが故、レイイチは言い切った。





 暗礁宙域での戦いは以下に早く相手を発見できるかにかかっている。それが士官学校で教わったことだった。
 じっさい障害物の多い暗礁宙域では動きが制限されてしまううえ視界も悪く、奇襲をかけるにはうってつけである。そのため先に発見し、十分な作戦を持って行動すればよほどの実力者が相手では無い限り一撃で仕留めることも難しくない。

「問題は先に見つかった時だよな」

 アキラはコクピット内でレーダーに目を光らせながら呟いた。
 実はアキラは暗礁宙域での戦闘の成績は良いが、主な役目が指揮と情報収集だったため使っていた機体は情報索敵に富んだプリンシパリティUだったため、アークエンジェルVで見つけられる自信があまり無かった。

「レイイチはほとんど参考にならないしな。あの人がどんな戦法を使ってくるのかもわからないし、探すのをやめて待ち伏せにしようかな」

 動力を最小限まで抑え、腕に内蔵されているアンカーを近くの岩礁に打ち込んで、機体を固定する。そして今度は腰の備え付けられているフルメタリックナイフを取り出して岩礁の表面に穴を二つ作り、そこに発光弾とエネルギーガンの予備パックの一つをそれぞれはめ込み、簡単には抜けないように固定する。最後にもう一本の腕のアンカーをそのすぐ横に打ち込み、そのワイヤーを発光弾に絡ませる。

「これでよしっと」

 最初に打ち込んだアンカーを回収し、岩礁を蹴って距離を離す。そして限界までワイヤーを伸ばし、手ごたえを感じたところでワイヤーに電流を流した。
 本来相手のBFにショックを与え、捕獲するための武器だが、今回その電流はワイヤーに絡まった発光弾に襲いかかった。そのショックで発光弾が誘爆し、あたりにまゆばい光を放った。

「これできっとこっちのほうに来るだろう」

 一対一の戦いである以上たとえこれが誘いだとわかっていても相手は来ないわけにはいかない。
 アキラはワイヤーを切り離し、近くの岩礁の陰に隠れてライナスがやってくるのを息を潜めて待った。





「なんだあれは?」

 ライナスは突然現れた光を見て、動きを止めた。
 お互い相手を探している時に発光弾を使うのは愚かな行為である。そのせいで居場所がばれてしまうからだ。

「誤爆、では無いだろうな。だということはわざとか……オレを誘っているわけだな」

 相手を倒さなくてはいけない以上この誘いの意図がどうあれその場所に向かわないわけには行かない。もちろんその場に本人はいないだろうが、その付近に隠れていることは間違いない。

「おもしろい、だがその程度で俺の裏をかけると思うなよ」


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