アキラはジェネレーターの出力を限界まで落とし、センサーにかからないようにした上でライナスが来るのを待った。もしライナスが来ないで、アキラが出てくるのを待とうとしても先にしびれをきらさない自信があった。
とてつもない力を持つフォワードがいたためアキラの実力は特に待ち伏せと狙撃の二つが驚異的に伸びており、それにレイイチと共に過ごしてきた日常が加わり、忍耐力と度胸の二つは今すぐすぐ隣で爆発が起きようとも微動だにしないだろうほど強くなっている。もしライナスが来ないならば何時間でも待つだけである。
だがその時間はアキラが想定していた時間よりもはるかに早く終わった。アキラのことを資料で読んである程度知っていたライナスは無駄に耐えることなく十分な士気があるうちにアキラのいる宙域にやってきて、そして発光弾をつけていた岩礁にエネルギー弾を打ち込んだ。
「今だ」
アキラは岩礁の爆発に合わせて出力を全開にして飛び出した。
爆発はライナスの放ったエネルギー弾の威力だけでなくアキラが埋め込んでおいたエネルギーパックに誘爆し、ライナスの予想を超えた爆発を起こして光学センサーをわずかな間無力化した。
その隙にアキラはライナスの背後に回り、エネルギーガンから最大出力のエネルギー弾を放った。
だがエネルギー弾は装甲を掠めるだけにとどまった。
「…嘘」
「詰めが甘かったな」
爆発と同時に大きく横に動きエネルギー弾を回避したライナスはすぐにアキラの居場所を割り出し、動き出した。
「その距離からやるなら一発じゃなくて三発は撃ちな」
ライナスはエネルギーガンを乱射しながらアキラのほうに突っ込んでいく。対するアキラはそれを避けながら発砲し、右腕に収納されている剣を伸ばした。そして刀身の部分が粒子を纏わりつかせ、エネルギーソードとなった剣でかわしきれない弾を切り払った。
ライナスも同様にエネルギーソードを出し、至近距離まで近づいていく。
武器は互いに右手の剣と左手の銃、二人は近づいては剣を振るい、距離が開けば銃を撃ち合った。
銃の腕ではアキラのほうが若干上のようでライナスの装甲にはいくつものエネルギー弾がかすった痕があり、剣ではライナスのほうが上らしく、アキラの装甲には斬りつけられた痕があった。
「なかなかやるが、そろそろ終りにさせてもらうぜ」
ライナスは再び自分の有利な間合いに入り込み、剣を振るう。
アキラもライナスの動きにだいぶ慣れてきており、相手の剣を打ち払って距離をとろうとする。だが、ライナスの剣を打ち払った瞬間、右肩に強い衝撃を受けた。
「う、嘘でしょ」
アキラが見たのはアキラの右肩めがけて銃を構えているライナスの左腕だった。ライナスは剣を打ち払った後の無防備な右腕、その中でも最も位置が変わりにくく狙いやすい肩をめがけてエネルギー弾を撃ったのだ。
距離があるときは銃、近くでは剣で戦うのを基本として士官学校で教わっていたアキラにとってそれは予想していないことであった。しかし学校などというところではなく戦場で腕を磨いてきたライナスにとっては意外なことではなく、狙えるならばどの距離でもどの武器も使うのが当たり前なのだ。
「うわっ!」
続けて斬りつけてくるライナスの胴を蹴りその反動で後ろに下がる。だが完全にはかわしきれず、胸部の装甲に傷が入る。
銃を撃ちながら距離をとり右腕を動かしてみる。反応がかなり鈍くなっている。回路がいくつかやられたようだ。この様子では右腕はもう役に立たないだろう。
「……銃一丁でやらないといけないのか」
思わず弱音が漏れる。だがそんなことはお構いなしにライナスは襲ってくる。
しかたなくアキラは距離を詰められないように銃を乱射しながら動き回り、反応の鈍くなった右腕を上げて剣先を正面に向けて固定する。エネルギーソードは勢いがなくてもそれなりのダメージを与えられるのでこうしておけばそう簡単に正面から詰寄られることはない。
「でもさすがにこれだけなのはつらいな」
それでもやり方しだいでは不可能ではない。できるかどうかを無視すれば方法はある。最大の問題はその手本がレイイチであるということだ。
だが他に手が思いつかない以上それに賭けるしかなかった。
アキラはライナスと正面に向き合い、突進した。
「甘い」
ライナスはそれを半身になって避け、逆にアキラの懐に飛び込んだ。そして、剣先を胸元に突き刺そうとする。だがアキラはその動きに合わせて銃のエネルギーパックを強制排出した。ライナスの持つエネルギーソードに向けて。
「なに!?」
パックは排出の勢いに乗ってエネルギーソードにぶつかり爆発を起こし、剣筋を乱したのでアキラの脇腹を掠めるだけで終わった。
だがまだアキラの攻撃は終わっておらず、アキラは爆発が起きる寸前に銃を捨てて腰の備え付けられているフルメタリックナイフを抜き、爆発の衝撃で視界が安定してない中でライナスの脇に突き刺した。
本来フルメタリックナイフでBFの装甲を貫くのは難しい。よほどの力がない限りはかすり傷をつけるぐらいが関の山だ。だがアキラが狙った脇は肩関節のこともあり装甲が薄く、場所によってはまったくないところもある。そこを的確に突き刺したのだ。
しかもそこはコクピットからも近く、コクピット周りにあるメインコンピューターにダメージを与えることもできるBFの弱点なのだ。
ほどなくしてライナスの乗るアークエンジェルVは沈黙した。
「まあ約束だからな、認めてやるよ」
シミュレーターから降りたライナスはスクリーンの前まで来ると同じように降りてきたアキラに言った。
「ありがとう」
アキラはスクリーンを見ながら笑って礼を言った。
「ところで話は変わるんだが」
「何?」
ライナスはスクリーンを眉をしかめて眺めながらアキラに話す。
「あいつは本当に人間か?」
「うん、一応」
アキラが今度は苦笑を浮かべながら応えた。
二人が見ているスクリーンには二人と交代で入ったレイイチとミリアの戦いが繰り広げられている。ミリアは接近戦に特化したパワーU、レイイチはなぜかアークエンジェルU。性能差としては接近戦ではパワーUのほうがだいぶ上、離れればアークエンジェルUのほうが多少上なのだが、二人が繰り広げているのは完璧な接近戦だった。
ミリアは接近戦のスペシャリストである。パワーを使うミリアには士官学校の教官たちの誰もが勝てなかった。特別講師としてやってきていた現役バリバリのパイロット達でさえ同じ機体でやっても勝てなかったほどすごいのだ。
そのミリアに対してレイイチは完全に有利に戦っていた。アークエンジェルUがほとんど無傷なのにもかかわらずパワーUは頭部がぼろぼろで、ワイヤーに絡めとられて動きも半分近くが封じられていた。
『まだまだだな』
『いい加減にしろー!』
二人の声が飛び込んでくるがそれに対して二人とも溜息をつくことしかできない。
「僕、ミリアに勝てたことすら一度もないんだよね」
「正真正銘の化物だな、あいつは」
スクリーンではいいかげん飽きたのかパワーUに止めを刺すアークエンジェルUの姿が映っていた。
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