「ねえユイ」
「はい、何ですか?」

 横に立つミリアが顔をしかめているにもかかわらずユイはにっこりと笑顔を浮かべている。

「本当にそこで指揮をとるの?」
「はいそうですが、何か?」

 何を言いたいのかわからないというふうに首をかしげるユイを見て、ミリアは重い溜息を吐いた。さらに深呼吸をして気を取り直し、周りを見てもう一度自分の前にある椅子に座っているユイを見る。そして再び溜息を吐いた。
 ユイは技術者であり科学者でありBFに関係した技術に深い知識を持つ少女でありロニアス家の娘である。そして今その少女が座っている場所はあまりに似つかわしくない場所であろう。
 ユイが座っている場所、それはアキラたちが乗っているガルガリンA−U改の艦長席である。

「だってユイは戦闘技能なんかないでしょう」
「あら、私だってシミュレーター訓練ぐらいはやっていますよ。基本的なことぐらいはできます」

 ミリアの言葉がよっぽど不服なのかユイはミリアから顔を背けた。

「だからってねえ………………というかあんたたちは何の不服もないわけ?」

 ユイにたいして頭を抱えながら、素人の彼女が艦長をするという状況に一切の不満を言わないクルーにたいして言った。

「大丈夫ですよ。いざというときは私達がフォローしますから」
「そうそう、最悪ピンチになってもこいつの足なら逃げられるし」

 どうもクルー達は楽観的過ぎるような気がしてならない。実際問題自分達の命がかかっているんだからもう少し真面目に考えてはくれないかと思うミリアだった。

「それにアキラさんとレイイチさんがいますから大丈夫ですよ」
「その発言の根拠がわからないわ」

 ミリアは大丈夫だといった、ユイを挟んで反対側にいる年配の男に尋ねた。
 この男はこの艦の副艦長で、ユイよりもずっと艦長らしい。歳のほうは四十から五十の間といったところだろうこの男はそこにいるだけで空気が引き締まりそうな風格を持っている。

「私はこう見えてももともとはお嬢様の護衛役でしてね、アキラさんとレイイチさんのことはよく知っているんですよ」
「だとしても、いくらレイイチでも一人で三十機も四十機も何とかできるわけないでしょう。きっとろくに補給する暇もないのよ」
「それでもやるでしょうね、あの人ならば。彼はお嬢様とアキラさんの期待をけして裏切りませんから」

 はっきりと言い切る話し方からこの男がレイイチに対してかなりの信頼を向けていることがわかる。ミリアとてレイイチが化物だということは嫌というくらいに理解している。仕官学校時代、勝てないどころかまともに戦えたためしもないのがレイイチ・シンドウという男なのである。だがだからといって物理的に不可能なことは不可能なのだ。

「二人とも、そろそろ目的地に着くそうです。ミリアさんも早く持ち場に戻ってください」
「ああもう、わかったわよ。まったく何かあっても知らないからね」

 愚痴りながら出て行くミリアを微笑を浮かべながら見送ったユイは正面のスクリーンの方を向いて表情を引き締めた。

「お願いしますね、アキラさん、レイイチさん」





「うげ、なんだよありゃ」

 サブモニターに映るガルガリンA−U改のカメラの映像を見てライナスはうめき声を上げた。
 そこに映っているのは報告よりも多い五隻の戦艦と一隻の空母がこちらを迎え撃つために展開している姿だった。そしてその奥には海賊の本拠地である小惑星があり、そこに設置された砲門がこちらを向いているはずである。

「おいおい、本当にこれだけの戦力で戦えるのかよ」

 それに対してこちらの戦力も予定よりかは一隻増えてガルガリンA−U改を含めて戦艦四隻、巡洋艦が一隻、それと監視用で問題がない限りは戦闘に参加しない軍の戦艦が一隻である。ガルガリンA−U改以外の三隻の戦艦のうち二隻はBFの搭載数が二機の砲戦艦で一隻は比較的搭載数の多いBF運用艦でBFを六機、補佐をする戦闘機を十二機乗せているが砲戦では弱い艦である。
 すでに問題があるからすぐに手助けしてくれと思うライナスであった。

「レイイチ、どう思う?」
「戦艦といっても巡洋艦に近いものみたいだな。まあ海賊なんだから当然といや当然かもしれねえが砲戦に強い艦はなさそうだ。さすがに拠点には強力な砲台があるだろうが基本的にBF同士での戦いになりそうだな。この戦力差だし」

 弱音を吐くライナスは放っておいてアキラとレイイチは冷静に敵を分析している。いや、レイイチはともかくアキラは額に浮かんでいる汗を見る限りライナスと同じ心境なのかもしれない。
 そこにミリアがやってきて専用のBFハミエルに乗り込んだ。

「遅かったな」
「しょうがないでしょ、ユイが強情なんだから」
「どうせ無理だっただろ」
「うるさい」

 ミリアがユイの説得に行っていたことは三人とも知っている。そして三人が三人とも無理だろうとも予想していた。だからミリアの行動には呆れるしかなかった。いや、レイイチだけは笑っていたが。

「まあいいわ、それよりもかなりやばいんじゃない?」

 ミリアもサブモニターに映る状況を見てそう思ったようだ。

「まあ結構な大物みたいだしな」
「うん、これだけの数を揃えているんだから油断しないほうがいいね」
「そうね」

 四人の会話に一段落ついた時、モニターではすでに闘いが始まっていた。
 こちら戦艦の主砲が火を噴き敵の戦艦に襲い掛かるがある艦は避け、またある艦はバリアフィールドで防ぐ。空母からはBFが現れ始め、こちらに向かってくる。BFの的は戦艦に比べてかなり小さいが為戦艦で撃つことは難しい。

「アキラさん、発進してください」

 ユイからの通信が入った。

「わかったよ」
「というかアキラだけなの。いちおうあたし達もいるんだけど」
「あ、すみません。みなさん発進してください」

 モニターに映るユイが頬を赤くして言うのを見てなんと言うか気が抜けた。それがいい感じに緊張していたミリアの身体をほぐしてくれた。

「じゃあ行こうか」
「おう」

 そして四機のBFは宇宙空間へと飛び出した。
 ライナス以外、初の実戦へと飛び込んでいった。


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