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 通常よりもはるかに厚い装甲とパワー用と同じ出力のエネルギーソードに砲戦用装備のヴァーチャータイプ並みの威力のキャノン砲を持ち、アークエンジェルタイプと同等の機動性を持つ最強のBFドミニオン。その性能を生み出す代償としてあまりに高コスト過ぎたが故に軍においても数十機、ロニアス警備隊にも二機しか存在していないBFである。
 それに狙われたガルガリンA−U改は旋回する暇もない。動き出すためにブースターを吹かすがその間にドミニオンは距離を詰め、キャノン砲を撃ってくる。そのうちの一発がブースターを直撃し、せっかく上がった推進力が一気に落ちる。
 その間にもドミニオンは確実に止めをさすために接近し、キャノン砲を構える。
 それを見たクルーが覚悟を決めたとき、ユイはまだ諦めてはいなかった。何かできることがあるわけではなかった。あえてできるとしたら祈ることと願うことぐらいである。そしてユイが祈るのは、願うのは神にたいしてではなかった。それは自分の恋人である一人の青年と、自分達を守ってくれる一人の青年に対して、祈り、願い、そして信じた。だから彼女は恐れない。その弾丸が自分に死を招きはしないと信じているが故に。

 そしてその自信は現実のものになる。

 ドミニオンが構えるキャノン砲を横から現れた光の本流が飲み込んでいく。慌てて下がっていくがすでにバレル部分は溶解し、使用不能の状態になってしまっている。
 その光の本流を見てユイは微笑を浮かべただ一言呟いた。

「アキラさん」





 最初の一撃で戦艦を落としてから相手をするしかない。
 それがアキラがユイのところまで行く間に考えていた作戦だった。
 戦艦一隻落とすこと自体はそこまで難しいことではない。だがそれに積まれているBFは脅威だ。いくらアキラたちが乗る専用機が敵の量産機に比べて優れていてもガルガリンA−U改に向かっていく一隻あたりに積まれているであろう四機のBF全てを止めることはできない。ならば戦艦を落として相手の動揺を誘うのが最善だと判断した。その間にユイが体勢を立て直してくれるという考えもある。
 だがその作戦は敵戦艦からドミニオンが現れたことで完全に崩れた。それはアキラにとって不利な誤算であり、同時に有利な誤算でもあった。
 それはドミニオン相手ではガルガリンA−U改がもたないということであり、一機だけならば十分に相手をできるということであった。
 アキラはためらうことなく奥の手を使う。

 メタトロン、カマエル、ハミエル、ラグエルの四機はアイザックとユイの技術の結晶である。アイザックにとって傑作といえるジェネレーターを積み込み、持てる限りの技術を心赴くままにつぎ込んでいる。完全にアイザックの技術と趣味の塊であるカマエルはもとより、それはユイがメインになって造ったメタトロンでも同じである。
 そして四機にはそれぞれ名前にちなんだ装置が積んである。
 カマエルにはケブラー
 ハミエルにはネツアク
 ラグエルにはコクマ
 そしてメタトロンにはマルクトとケテルである
 マルクトは72の目を持つといわれるメタトロンに合わせた索敵艦並みの索敵能力を持つ高性能レーダー。そしてケテルはメタトロンの持つもう一つの側面、反逆の徒を串刺しにする力である。

「セフィラーシステムケテル始動」

 背中にまわされていたパーツが左肩の上へとせり上がり、バレル部分が旋回して前方へとのびる。そして前方に伸ばされた左腕と接合する。
 さらに背中に備えられている六枚の放熱フィンが翼のように展開する。

「モードスナイプ」

 内蔵されたシステムが切り替わる。

「エネルギーチャージ完了」

 もともと敵戦艦に放つつもりだったのですでにエネルギーは溜まっている。

「目標設定」

 照準をガルガリンA−U改に襲い掛かろうとしているドミニオンに合わせる。

「ケテルブラスター、ファイヤー!」

 迸る圧縮された光の奔流が宇宙空間を切り裂き、ドミニオンに襲い掛かる。
 六枚の翼を広げたメタトロンは純白のボディと合わさってまさに天使のようであり、その解き放たれた力は最強の天使の名に恥じないものであった。
 放たれたレーザーはわずかにそれ、ドミニオンのキャノン砲を破壊するにとどまったがドミニオンの気を引くには十分であった。

「あー、やっぱりそう上手くはいかないか」

 できることならば今の一撃で落としておきたかったのだが、そう上手くいくものではなかった。
 だがドミニオンのパイロットはかなり焦っていた。というのも今の一撃は量産型としては破格の性能を誇るドミニオンのレーダーの外からの攻撃であり、BF用に造られたスナイパー専用ライフルの射程よりもはるかに遠い距離から当ててきた上あっさりと破壊して見せたのだ。

 メタトロン最強の矛ケテルブラスター、そのモードスナイプ、またの名を精密貫通狙撃モード。ユイ特製の照準システムにアイザック特製の高エネルギー圧縮システム、そしてセフィラーシステムためだけに造られたアイザック特製超高出力小型ジェネレーター――――通常のジェネレーターの半分以下のサイズでフィギュアを動かすには足りないがそれでも普通よりも高い出力を出せる周りから言わせれば「もっと早く造れば研究所を追い出されなかったのでは?」というような代物――――を使って造られたその破壊力は防護用に特化した戦艦オファニム(ウォール)のバリアフィールドと装甲を破るほどの威力を持っている。オファニムWは戦艦の主砲を回避することなく真っ向から受け続けても一時間はもつと言えばどのくらいのすさまじい威力があるのかはわかるだろう。

「だけどユイは絶対に落とさせないよ」

 システムケテルを停止し元の状態に戻ったメタトロンを駆り、アキラはドミニオンとの戦闘を開始した。





「あの光はケテルのモードスナイプか。くそ、こんなところで時間を食ってる場合じゃねえな」

 敵空母に向かったレイイチはアキラの放ったケテルの光を見てやばい状況に追いやられているのを感じた。
 アキラがユイのところまで戻ってから撃ったにしては時間が早すぎる。むしろユイの危険を感じて撃ったと考えるのが自然だったからだ。

「邪魔をするんじゃねえ」

 立ちはだかる敵を切り捨てながらレイイチはひたすら敵空母に向けて飛ぶ。
 アキラたちと別れてから落とした敵の数はすでに十を大きく超えている。それに引き換えカマエルの装甲にはいっさい傷らしい傷がついていない。
 敵にはAIだけでなく有人機もいたがそれでもレイイチの相手をできる奴は一機たりともいなかった。それでもわずかながら時間を稼ぐことはできるのでレイイチはどんどんイラついてきた。

「セフィラーシステムケブラー、第一次リミッター解除」

 レイイチの声に合わせてカマエルの背中にあるメタトロンのとよく似た六枚の翼が広がる。
 だが与える印象は対照的、白き六枚の翼とボディによって天使のごとき神々しさを持ったメタトロンと違い、カマエルは漆黒の翼とそのサイズから考えても通常より長い両腕を持つ漆黒のボディは天使は天使でも堕天使、それよりも悪魔のごとく禍々しさを持っていた。

「見せてやるよ、悪夢って奴をな」

 両腕につけられている楕円形の円盤からのびていたエネルギーソードとエネルギーシールドが消えた。

 カマエル専用装備ケブラー、内部機構を変形させることによって七タイプの武装に変わる可変武器。初期状態ではソード、ガン、シールドの三タイプだが第一次リミッターを解除することによって七タイプ全てが使えるようになる。
 だがこの武器は複雑な内部機構をもつため変形に若干の時間がかかるという欠陥がある。この欠陥はメタトロンのように遠距離攻撃用の武器ならばたいした問題にはならないのだが、カマエルは近距離から中距離のでの戦いのために造られた機体であり、その欠陥がもろに出てしまうのだ。それゆえにカマエルそのものと同じ欠陥兵器であり、かなりの改良を必要とする武器なのである。

 ただしそれはパイロットが普通であったならばの話である。

 レイイチにとってカマエルはちょっとやんちゃが過ぎるじゃじゃ馬という程度でしかなく、ケブラーの欠陥である変形時間すらものともしない実力がある。
 両腕をエネルギーマシンガンに切り替えたレイイチは行く手を阻むもの全てをなぎ払った。それと戦う者にとってレイイチの乗るカマエルはもはや恐怖を覚える存在でしかなく、けして逃れられぬ災害へと姿を変えた。
 空母に搭載されていたドミニオンを含めた全てのBFを出してでさえ、もはやレイイチを止めることはかなわなかった。




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