「向こうも大変みたいね」

 ガルガリンA−U改のあるはずの方向に現れた光の本流を見てミリアもハミエルを加速させる。
 まわりにいたヴァーチャーVを片付けたミリアは味方の援護のために端から順にどんどん手当たりしだい敵BFを落としていたが、アキラの通信を聞いてすぐに艦隊の左翼の端に向けて飛び出した。
 直進力だけならば四機中最大のハミエルでもそこまで行くのには多少なりとも時間がかかる。その間にも敵戦艦は接近してきており、ミリアはある程度加速した後も慣性飛行にしておくことができず全力で急いでいた。
 だがミリアが戦艦を視界に入れたときにはすでにこちらの戦艦の一隻が落とされてしまっていた。残ったBFはひときわ大きなBFに襲い掛かっているが、その一機のBFだけで次々に返り討ちにされている。
 ミリアもその機体がドミニオンであることはわかった。そして並みの量産機では歯が立たないこともよく知っている。
 接近戦を挑んでいたBFを片付けたドミニオンは離れたところから攻撃を仕掛けていたBFにキャノン砲を向けた。
 向けられたBFは必死で逃げようとするが逃げ切れるようには見えなかった。
 そしてキャノン砲が放たれた。

「させるか――!」

 だがそれよりも早く、たった今追いついたハミエルがその射線に割り込んだ。

「バックラー出力最大」

 ハミエルは左手を前に出し、腕に装着されているバックラーをドミニオンのほうに向けて構えた。するとバックラーが展開し、ハミエルをすっぽりと覆うほどの巨大なエネルギーシールドを発生させた。
 そのシールドにドミニオンのキャノン砲が突き刺さる。ハミエルのもつ盾は戦艦のバリアと比べても見劣りしないだけの力があった。だがさすがに戦艦を落とせるドミニオンのキャノン砲を相手に全てを防ぎきることはかなわなかった。

「左腕がやられたようね」

 シールドを突破してきたキャノン砲はハミエルの左腕を撃ち砕いた。だがそのおかげで仲間のBFを助けることはできた。

「ドミニオン相手に片手でね。これは大変そうだわ」

 ミリアは残った右手で味方に離れているように指示を出し、エネルギーソードを抜き放つ。ハミエルに積まれている武装には長距離用はない。しかもたとえ近づけたとしてもドミニオンに通用しそうな武器は格闘戦用のものしかない。つまりまずドミニオンの砲火をかいくぐりながら懐に飛び込まなければならないということだ。
 ミリアはバーニアの性能を生かして一気に距離を詰めようとする。ドミニオンはキャノン砲を放ちハミエルを撃ち落そうとするがミリアはハミエルをジグザグに飛ばすことで狙いを定まらせず、放たれたキャノン砲はハミエルをかすりもしない。
 ドミニオンのパイロットもキャノン砲では無理だと判断し、右手にエネルギーガンを握り、左手には内蔵されているガトリングガンを構える。

「ちっ!」

 それを見たミリアは舌打ちを一つし、エネルギーガンを持つ右手側から回り込みながら接近する。ガトリングガンは威力こそエネルギーガンに劣るのだが、エネルギーガンと違い連射がきくためかわしづらい。かわすだけならできないでもないがかわしながら距離を詰めるとなるとさすがに難しい。左手が残っていればガトリングガンの弾丸などバックラーで防ぎながら進めるのだが、ないものはしかたがない。
 ミリアが横に回るのに合わせてドミニオンはハミエルを正面に捉えるように回転しながらビームガンとガトリングガンを撃ちつづける。ミリアはその全てをハミエルの推進力を生かして振り切り、渦を描くようにドミニオンとの距離を詰めていく。
 ドミニオンはガトリングガンから弾丸を撒き散らしながらエネルギーガンをしまって、エネルギーソードを抜き、接近戦に備えた。
 ミリアはぎりぎり届くか届かないかのところでエネルギーソードを振るい牽制する。それに合わせてドミニオンは後ろに下がり、ガトリングガンをしまった。

「さて、ここからが大変なのよね」

 互いにエネルギーソードを構えた状態で向き合う。この状況で使えるのはエネルギーソードと両側頭部に備え付けられたマシンガン、ドミニオンの方はそれに加えて左手が使える。単純な機体性能ならば接近戦に特化したハミエルのほうが有利だろうが、今は左腕がなく戦力が半減していると言っていい状態だ。そしてさらに懸念事項がもう一つ、ミリアはずっと戦い続けていたため推進剤の消費が著しく長期戦はできないのだ。

「まあ負ける気はしないけどね」

 仮にも接近戦に特化したワンメイド機であるハミエルに乗ってドミニオンに接近戦で負けたとなれば後でレイイチに何を言われるかわかったものではない。
 ミリアはすぐさま行動を開始した。
 接近してエネルギーソードを左上から斜めに振り下ろす。ドミニオンがそれを同じようにエネルギーソードで受けたのを確認して今度はバーニアの向きを変えてエネルギーソードを合わせたまま相手の右側に回り込む。そしてエネルギーソードを後ろに引きながら下に下ろし、先ほどとは逆に右下から左上へと切り上げる。
 その動作は淀みなく流れるように行われた。いきなり鍔迫り合いの抵抗がなくなった相手は多少なりとも体勢を崩し、そこに隙が生まれる。これはミリアが仕官学校時代からよく使う技だった。
 だが今回の相手はすぐに体勢を立て直してエネルギーソード受け止めていた。

「一筋縄ではいかない、か」

 ミリアはドミニオンを蹴って後ろへと下がった。するとそこへいつの間にか構えられていたガトリングガンから弾がばら撒かれる。

「ちっ」

 さらに距離をとりながら回避するがミリアは自分の不利を感じ取っていた。さすがにドミニオンを任せられるだけあって並のパイロットではなかったらしく手強い。条件が同じならともかくこちらだけが負傷している状態では負ける可能性も十分にある。
 ミリアは少しだけドミニオンから視線をはずし、ドミニオンが乗ってきた戦艦を見る。くしくもユイの乗っているのと同じガルガリンA−Uだ。おそらくドミニオンを乗せるために改装されているだろう。

「できればあれを沈めるのに取っておきたかったんだけどな」

 長期戦にもつれ込めば自分が不利、しかも今のままでは短期決戦はできないということを悟ったミリアはエネルギーソードをしまい、覚悟を決めた。

「セフィラーシステムネツアク始動」

 言葉と共にハミエルの腰に備えられた一本の棒をつかみ、それを背中にある直方体のパーツの上部にある穴へと差し込む。ガチリという接続音を聞いて棒を引き抜く。引き抜かれる時に上部の蓋が開き、棒と共に円錐状の物体が現れた。
 それは大型のランス、差し込んだ棒はランスの柄となりハミエルの右腕に納まっている。
 その間に背中の六枚の翼が広がる。メタトロンやカマエルと同じ放熱フィンは真ん中の二枚、残りの四枚は後方へと広がり、特殊なブースターになっていた。

 その翼の色はボディと同じ真紅、ランスを構える姿はさながら西洋の騎士、真紅の鎧に身を包み敵を貫くランスを持つ騎士、そして吹き上がるエネルギーは相手を威圧するのに十分なものがあった。

「ランス展開、モードアンブレラ」

 ランスが後方が開き、先はさらに伸びていく。そしてそのランスをエネルギーフィールドが覆っていく。
 完全に展開が終わったとき、前方に突き出されたランスは荷電粒子の輝きに包まれ、その大きさはドミニオンから見て、ハミエルの身体を頭の足を残して全てが隠れてしまうほどになっていた。

「くらいなさい、ストライクチャージ!」

 ミリアはハミエルを前方へと倒し、ブースターを全開で噴射させる。ハミエルの身体はランスの陰に隠れた状態でドミニオンに向かって突き進んでいく。
 その姿は一筋の流星へと化す。
 ドミニオンがガトリングガンを撒き散らしてもエネルギーランスを破ることはできない。かわそうにもこの距離でかわせるスピードではない。苦し紛れにエネルギーソードを前に構えて受け止めようとするが、エネルギーランスの切っ先に触れたエネルギーソードはあっさりと霧散し、エネルギーランスがドミニオンのボディに突き刺さる。

 ハミエルにもセフィラーシステム用の超高出力小型ジェネレーターは積んである。そのエネルギーは一部を増えたブースターにまわし、残り全てをエネルギーランスに注がれている。
 モードアンブレラとは文字通りエネルギーランスを傘のように大きく展開させたもので、セフィラーシステム用のジェネレーターが短時間でオーバーヒートしてしまう。だがそれだけのエネルギーを注がれているため、圧倒的なエネルギー量をもっている。そしてその状態のまま敵に突撃し突き破るのが撃ち貫く突撃ストライクチャージ、ハミエルの切り札である。

 エネルギーランスはそのままドミニオンの身体を突き破り、ハミエルはドミニオンの背中の向こう側へと通り抜けた。
 ボディの半分近くとジェネレーターを打ち抜かれたドミニオンは爆発の起こして消えていった。

「ふう、なんとかなったわね」

 ミリアはランスのエネルギーフィールドを切り、セフィラーシステムを解除していく。モニターには敵の戦艦であるガルガリンA−Uが映っているがそれを落としにいけるほどの余裕はない。

「あれは任せるしかないわね」

 ランスをしまったミリアは近くの戦艦にあのガルガリンA−Uを任せることを通信で伝え、補給のためにユイのガルガリンA−U改に向かった。


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