ライナスもまたドミニオンに相対していた。
 周りにいた仲間のBFは無残にも壊され、脱出したパイロット達を救護したくともドミニオンのせいで他のBFも戦艦も近寄ることできない。幸いこちらの方面は敵の進行が弱くまだ余裕があるが、ドミニオン一機のために戦況がひっくり返されそうになっていた。

「くそっ、なんで宇宙海賊がこんなものを持っているんだよ」

 ロニアス社の中でも最高級のBFであるドミニオンはそのコストゆえに生産数が少ない。独自の生産工場を持っている軍でさえも生産にはそれなりの覚悟が必要とされる高級量産機だ。そこらの海賊が持っているような代物ではない。

「オレがやるしかないんだよな」

 ライナスは自分の機体と相手の機体を見比べてため息をついた。
 ざっと見たところ相手の腕は悪くないが勝てないというほどでもない。それに例えドミニオンといえど一応は量産機、コストパフォーマンスを無視しているという意味ではライナスの乗るラグエルも同じである。性能面でもけして劣ってはいない。だがそれでも戦うのは嫌になる。これがせめてメタトロンかハミエルに乗っているならばさっさと片付けに行こうとも思えるが、ラグエルではあまりそんな気になれない。
 というのも実はラグエルは四機の中でも戦闘力は低い機体なのだ。
 メタトロンは長距離戦
 カマエルは中距離戦
 ハミエルは近接戦
 ラグエルは情報戦をそれぞれメインに造られたBFなのだ。

「まあしかたがねえか」

 すでに張り巡らした通信網からは他の三機の状況が入ってきている。メタトロンはガルガリンA−U改を守りながらドミニオンと戦っているし、ハミエルもドミニオンと戦い始めている。ましてやカマエルは敵の空母に向かって突撃している。前者の二機に代わってもらうわけにはいかないし、後者のカマエルとは絶対に代わってほしくはない。空母に向かって単身突撃するぐらいならばドミニオンと戦っているほうがはるかにましである。

 ラグエルはバスターライフルを構えてドミニオンのほう向かっていく。このバスターライフルはもともとラグエル用に造られた武器ではなく、ライナスが以前から愛用している物をラグエル用に改装した物だ。実弾武器で装弾数は12、予備弾倉を二つ持ってきているので全部で36発。連射は二発目までしかきかないが威力はエネルギーライフルにも劣らない。また、アタッチメントシステムによってパーツを組み合わせることによって異なる武器に変えることもできる。ライナスにとっては最も信用できる相棒である。
 まず一発目を撃ち、すぐに次の弾をチェンバーに送り二発めを撃つ。ドミニオンは一発目をかわし、避けた方向に来た二発目もかわす。ライナスはその動きを分析し、次の弾を送り、頭部マシンガンを撃つ。
 射程外から撃たれた弾を気にすることなくドミニオンはキャノン砲を放つ。マシンガンの弾は装甲の表面ではじかれ傷をつけれたようには思えない。
 ラグエルはキャノン砲をかわしてバスターライフルを撃つ。弾を装填しても二発目は撃たずにエネルギーガンを抜く。

(キャノン砲の装弾数は各十六発、予備はなし。こっちのライフルは予備弾倉が残り一つ、ライフルの中には六発。補給に戻れなかったのは痛いな)

 バスターライフルをかわしたドミニオンはラグエルがエネルギーガンを抜いたのを見て、距離を詰めてくる。

(これまでの戦闘でむこうも弾を消費している。エネルギーガンの威力は同じ程度、だが装甲はむこうのほうが厚いから撃ち合いは不利、機動戦を仕掛けるなら射程ぎりぎりの距離をとる)

 ライナスはラグエルにドミニオンを中心にした円を描くように動かし始めた。それはお世辞にも速い動きとはいえないが、ドミニオンが距離を詰めようとしたところにエネルギーガンを撃ち距離を詰めさせない。

(当てる必要はない。必要なのは牽制、削るのはドミニオンではなくパイロット)

 ドミニオンもエネルギーガンを撃つがこの距離ではライナスにとってかわすのは容易い。
 やがて痺れを切らしたドミニオンはガトリングガンを構えて弾をばら撒き、ラグエルのいる方向にでたらめにキャノン砲を撃ちだした。

(ガトリングガンの射程はエネルギーガンよりも若干短い。どれだけばら撒かれても対処は出来る。そしてろくに照準されていないキャノン砲など恐れる必要はない。重要なのはむこうが焦り始めてきたということ)

 ラグエルはエネルギーガンを手放してハンドボムを投げる。ハンドボムは半分ほど進んだところでガトリングガンに撃たれて爆発した。
 エネルギーガンをすぐに回収したラグエルはエネルギーガンをしまい発光弾を取り出して投げる。
 ハンドボムの爆発にまぎれて急停止、今度は逆の向きに円を描き始める。
 爆発が収まらないうちに発光弾がまゆばい光を放つ。

「今だ。コクマ、ジャミングモード展開」
『了解』

 ラグエルのコクピットにライナスに応える声が響き、低い唸り声を上げた。

 セフィラーシステムには二つの種類がある。
 一つはケテル、ネツアクのように展開起動型。必要になるまではまったく起動せず、パイロットがシステムを作動させると動き出すものだ。
 もう一つは常時起動型。マムクトのようにBFが起動すると同時に動き出すものだ。カマエルのケブラーも一応これに含まれている。
 そしてラグエルのコクマも常時起動型である。
 コクマの機能は高性能索敵レーダー、各種高性能センサー、高速演算システム、ジャミングシステムといった情報面における各システムの集合体である。索敵レーダーこそはメタトロンのマムクトにわずかに劣るが、それ以外の面は他のBFの追随を許さないほどである。そしてその全てを統括しているユイの力作高性能AIこそがコクマの本体なのである。

 爆発、発光弾、ジャミングという目くらましの連続でドミニオンのパイロットは完全にラグエルを見失っていた。
 ラグエルはバスターライフルのアタッチメントをはずし、組み替える。新しくつけたパーツはグレネードランチャーだ。
 グレネードランチャーを放ちすぐにアタッチメントをはずした。

「セフィラーシステムコクマ、全ロック解除、セミオートドライブ始動」

 ライナスの声に従ってラグエルの背中に折りたたまれた六枚の翼が開く。そしてコクマ用の小型ジェネレーターが出力を増す。そして翼を開いた背中の中心にあったユニットが離れ、バーニアを吹かして自力で飛び始めた。

 コクマのもう一つの姿、セミオートドライブモード。コクマ本体が収納されているユニットを切り離し、あらかじめ決められたプログラムに従って動く。ユニットには移動用のバーニアと冷却システム、小型ジェネレーターにエネルギーガン、そして一発のミサイルが組み込まれている。そしてラグエルの六枚の翼のうち二枚はユニットに命令を送るためのアンテナになっており、パイロットの判断でユニットの動きを調整できるようになっているのだ。

 ラグエルを見失っていたドミ二オンはグレネードランチャーの直撃を受け、装甲の一部が砕けた。だがそれでラグエルの位置をつかんだドミニオンはラグエルめがけてキャノン砲とガトリングガンを放ってくる。
 ラグエルはそれを先ほどと同じようにドミニオンの周りを回りながらかわしていく。ラグエルに気をとられたドミニオンのパイロットは上のほうからやってくるユニットに気がつかない。
 ラグエルはバスターライフルを二発撃つ。ドミニオンは一発目を避け、避けた先にやってきた二発目を無理矢理かわしたせいで体勢を崩した。そこに上からやってきたユニットがミサイルを発射した。偶然そのミサイルが視野に入ったパイロットは頭部マシンガンを乱射して撃ち落した。それこそがライナスの狙いだったとは知らずに。

 ラグエルはバスターライフルをしまい、エネルギーガンを持って距離を詰める。ラグエルの接近を知ったドミニオンのパイロットはキャノン砲を撃とうとして弾が残っていないことに気がついた。
 その一瞬の躊躇の間にエネルギーガンの射程としては十分な距離まで近づき、撃つ。狙いは左腕のガトリングガン。ドミニオンはその攻撃を何とかかわす。だがその瞬間エネルギーガンのビーム粒子が突然方向を変え、ドミニオンを襲った。突然の衝撃に驚いたドミニオンをさらにユニットのエネルギーガンが襲う。だがこれは最初からドミニオンとはわずかにずれた場所に向かって撃たれていることを知り、パイロットは体勢を立て直そうとした。  だがこれも突然曲がり、ガトリングガンを直撃した。ガトリングガンに残っていた弾に誘爆し、ドミニオンの左腕が砕けた。
 自分が危険な状態に追いやられたことを理解したパイロットはエネルギーガンをラグエルに向かって撃った。

「チェックメイト」

 ライナスはその光景を見てにやりと笑った。
 そしてドミニオンが放ったビーム粒子は二度方向を変えてドミニオン自身に当たった。

 ドミニオンのパイロットはすでにライナスの罠にはまってしまっていた。
 ドミニオンのパイロットはまるで気がついていないがドミニオンの周りには透明なプリズム球体がばら撒かれていた。このプリズム球体はユニットに積まれていたミサイルの中に詰められていた物だ。あのミサイルは敵を落とすためではなく、プリズム球体をばら撒くためにあったのだ。そしてこのプリズム球体は並みのセンサーには映らないよう処理されている物で、これを発見できるセンサーは今のところラグエルにしかない。そう、コクマのセンサーでしかこれを発見することはできないのだ。そしてコクマの持つ高速演算システムが随時プリズム球体の反射角を計算し、ラグエルに送っているため、プリズム球体があるにもかかわらずラグエルとユニットの攻撃はドミニオンに当たり、ドミニオンの攻撃はあたらないのだ。

 ラグエルとユニット、そして自分自身の攻撃を受けてドミニオンの装甲はぼろぼろになっていく。プリズム球体の存在に気がつけないドミニオンのパイロットは攻撃すれば攻撃するほど損傷が大きくなる現実が信じられなかった。
 ラグエルは再びバスターライフルを出し、アタッチメントをグレネードランチャーに組み替えた。そしてそれを装甲がはがれたドミニオンに向かって放った。
 グレネードランチャーはドミニオンのジェネレータ付近に突き刺さり、爆発した。その爆発はジェネレーターを巻き込み、大爆発を起こした。
 ラグエルはユニットを回収し、翼を閉じた。先ほどまでドミニオンがいた場所にはもはや破片や壊れたパーツだけしかない。

 ドミニオンのパイロットは夢にも思わなかっただろう。最初にバスターライフルを撃ったところから全てがライナスの策略だったことを。弾数を数え、動きを読み、隙を造り、打ち砕く。それは全てライナスが今まで培ってきた戦闘感覚から生み出されたものであった。
 もし気がついたとしても信じられなかったであろう。最初から最後まで、自分がライナスとコクマの手のひらの上で踊らされていたなどと。


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