ガルガリンA−U改の格納庫に次々にBFが入ってくる。そしてBFが入ってくるたびに周りに指示を出していたアイザックは一機の黒いBFが入ってくるとそれに駆け寄った。

「レイイチ君レイイチ君大丈夫だったかい。カマエルは無事かい。あー! 装甲に傷が、いやそれはいいんだ戦場に出れば傷の一つもつくのは当然だからね。だけど動力系に異常はないかいフレームに異常はないかいケブラーは大丈夫かいどこか壊れていないかい修理は必要かい」

「いや、問題ない。エネルギーと推進剤の補給だけ急いでくれ」

「オッケーオッケーすぐにやらせるよ」

 アイザックはすぐさま周りに指示を出し、他のBFの状態を見に行った。
 レイイチはカマエルから降りると格納庫に収納されているほかのBFを見た。
 格納庫にあるBFは全部で四機、そのうちレイイチのカマエルは多少傷ついているが戦闘に支障はない。ライナスのラグエルも無事だ。こちらも補給が終わればすぐにでも出られるだろう。だがアキラのメタトロンはかなりの被害を受けている。一番ひどいのはミリアのハミエルだ。こちらは左腕がなくなっていてとてもではないが戦場に出せない。

「あ、レイイチ大丈夫だった?」

 カマエルから降りたレイイチを見つけてアキラが駆け寄ってきた。

「当然だろ。俺を誰だと思っているんだ」
「うん、そうだね」
「それよりアキラ、結構被害を受けてるみたいだが出れるのか?」

 それを聞いてアキラの顔が曇った。

「装甲のほうは問題ないんだけどセンサーがほとんど死んでいるんだ。それに爆発の衝撃をもろに受けたからフレームのチェックもしないといけないから今日はもう無理」
「そうか、しかし一体何機と戦ったんだ? 俺ももっと早く戻れればよかったんだがうじゃうじゃと出てきてたからな」
「ははは……、実は一機だけなんだよ。ドミニオンだったけど」
「ああ、ドミニオンか。たしかにあれは厄介だったな。硬いから余計な時間をくった」
「えっ、レイイチの方も出たの?」

 レイイチのほうにもドミニオンが現れたらしいことを知ったアキラは驚いた。すでにミリアとライナスのところにも出てきたのは聞いていたので全部で四機のドミニオンが出たことになる。

「たしかにそれはおかしいな」

 レイイチもそのことを聞いて驚いた。正直アキラに言われるまではドミニオンが出てきたことなど些細なことだと思っていたがドミニオンを四機も揃えるなどたかだか一介の宇宙海賊風情にできることではない。正規の軍でさえドミニオンを一機造るくらいならば他のBFの数を揃えるほうを選ぶぐらいドミニオンの建造費は高い。宇宙海賊という少数による行動のほうが都合のいい立場を考慮すれば数をそろえるよりも強力な機体を揃えるほうがいいのかもしれないが、そもそもドミニオンを四機も揃えるだけの費用を用立てるとは思えない。

「こりゃちょっと連中に聞いてみないとな」

 いたずらを思いついた悪ガキのような笑顔を浮かべるレイイチを見てアキラは海賊達にちょっとだけ同情した。あくまでちょっとだけではあるが。





 戦況は確実にロニアス警備隊のほうに傾いていた。
 海賊達は虎の子のドミニオン四機と戦力の中心であった空母が落とされたことによって明らかに士気が落ちていた。まだ残っていたBFのほとんどは拠点のほうに逃げ帰り、逃げられないことを悟った何機かはおとなしく投降している。
 今はお互いに射程の外で向かい合い、戦力の建て直しをしているところだ。

「残るは敵拠点だけですね」
「はい、ですがその拠点が厄介です」

 モニターに拡大されて映る海賊の拠点の小惑星の表面には何個もの砲台が見えている。小惑星内にあるであろうジェネレーターから送られるエネルギーを使うエネルギーキャノンであることが見て取れる。

「小惑星の規模から考えても戦艦を落とすには十分な破壊力を持っていると推測できます。このガルガリンA−U改でも三発もくらえばエネルギーフィールドを突き破られて破壊されるでしょう」
「戦艦での砲撃は危険というわけですか」
「はい、まずはBFによって砲台の数を減らさなければならないでしょう」
「ですが当然自走砲もそろっているのでしょうね」
「はい、すでに確認済みです」

 副官の言葉にユイは苦悩する。どうしたってこちらの被害はまだ増えそうである。先の報告でメタトロンとハミエルが使えないことは聞いている。この二機がいれば要塞攻略がずいぶんと楽になる。メタトロンのケテル・モードスナイプならば向こうの射程外から砲台を破壊することができるだろうし、ハミエルのバックラーならば自走砲の攻撃を防げる。

「艦長、格納庫から通信です」
「はい、ありがとうございます」

 ユイはオペレーターに礼を言うと通信を開いた。

「おーい姫さん」
「あっ、レイイチさん」

 てっきりアイザックからだと思っていたユイは少し驚いた。だが次にレイイチから発せられた言葉はもっと驚くべきことだった。

「なあ姫さん、突入して来ていいか?」
「はい?」
「いや、このまま睨みあいしていても埒があかねえしつまんねえ。だから俺とライナスで突入してきていいかってこと」
「だ、ダメです。そんな危険なこと」

 どうやって被害を抑えようかと考えているところにそんなことを言われて認めることなどできるはずもない。だがレイイチは涼しい顔だ。

「大丈夫だって。ラグエルのジャミングを使えばかなり近くまで近寄れるはずだから。懐まで飛び込めば砲台なんか恐れることないんだからな」
「ですが自走砲もありますよ。カマエルとラグエルの装甲でもたしかに防げますが危険ですよ」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだよ?」
「たしかにレイイチさんなら大丈夫なような気がしますけど、ライナスさんはどうなるんですか?」
「大丈夫だろ。さんざん修羅場をくぐっているはずだ」

 自信に満ちた笑みを浮かべながら言うレイイチにユイはつい口元を緩めてしまった。レイイチはいつでも強気だ。特にアキラやユイが困っている時は絶対の確信を持っているかのように言う。昔からその自信に満ちた笑みはアキラとユイに力を与えてくれていた。そして何よりレイイチはできるといってできなかったことはただの一度もなかったのだから。

「わかりました、指揮官には私から申告しておきます。よろしくお願いします」
「オッケーオッケー、任せておけって」

 レイイチを映していたすぐにモニターから消えた。すぐに準備に入ったのだろう。
 ユイは緩んだ表情を引き締め、今回の任務の指揮官の乗る戦艦に通信を繋げた。





 レイイチのカマエルとライナスのラグエルはジャミングを展開しながら小惑星の表面まで来ていた。驚くべきことにここまでまったく発見されずに来てしまったのだ。

「これからどうする? 予想外に上手く行き過ぎちまったが」

 もともと見つかったところで戦いを始めるつもりだった二人は見つからずにたどり着いてしまったことで逆に困ってしまった。

「そうだな、おまえ一人でもやれるか?」
「無茶を言うな、おまえじゃあるまいしこんな敵地の真ん中で単機でやれると思うほどオレは自惚れていねえよ」
「じゃあ帰れ」
「はあ!?」

 あまりの言葉にライナスは唖然とした。ここまでつき合わせておいていきなり帰れである。むちゃくちゃにもほどがある。
 だがレイイチにも考えがあってのことである。

「せっかくここまで来たんだから俺は中に侵入する。だからおまえはここで連中の目を引きつけるか姫さんのところまで戻って俺が中に侵入したことを伝えるか好きなほうを選べ」
「侵入って、おまえ一人でか?」
「もちろんだ。一人のほうが動きやすいからな」

 正気の沙汰じゃねえ、ライナスは本気でそう思った。

 結局レイイチに押し切られる形でライナスは一度戻ることになった。





 内部に侵入したレイイチは近くの部屋にあった端末を使ってできる限りの見取り図を出すとそれを軽く見回して二つのルートを記憶した。一つはこの基地の電力を賄っている発電所までのルート、もう一つは敵の大将がいるであろう司令室だ。
 部屋を出たレイイチは軽い調子で走っていく。別に急いでいるようでもなく、身を潜める様子もない。ただ堂々と記憶したルートを進んでいく。ただし発電所のほうではなく司令室に向かって。
 司令室のほうに向かう理由は単純だ。ただそっちのほうが近かったから、それだけであった。

「ようやくおでましか、ずいぶん遅かったな」

 程なくしてサブマシンガンを構えた男達が現れて道をふさいだ。
 レイイチの記憶ではすでに目的地までの道のりの半分を過ぎている。侵入してからの時間常に堂々としていたことを考えるとあまりに遅い対処であった。それだけでレイイチは彼らが防衛戦の経験が少ないことがわかった。

「とりあえず蹴散らすか」

 レイイチが男達に向かって今までとは比べ物にならない速度で走り出すと、男達は構えたサブマシンガンの引き金を引いた。吐き出された弾丸の群れは床をえぐり、壁をえぐり、通路に存在するものを撃ち砕いていく。当然その間にある人間なんてもろい存在は例え防弾服を着ていたとしても死んでいるはずである。もちろん避けるなんてことは不可能である。

「それで終わりか?」

 だがレイイチは生きていた。そしていつの間にか男達の背後に回っていた。
 男達はレイイチの声を聞いただけで震え上がった。後ろを振り返ることができた何人かはレイイチの顔を見て顔を恐怖で引きつらせた。そしてその中でレイイチにサブマシンガンを向けれた者たちは次の瞬間気を失った。

「万が一おまえ達が知ってはいけない秘密を知っているってことがあるかもしれないから一応生かしといてやる。まあ知らなかったとしても苦労するのは俺じゃないしな」

 それが男達が聞くことのできた最後の声だった。

「ったく、(しつ)が悪すぎるぞ」

 レイイチは気絶した連中を放っておいて先に進んだ。





「まったく、レイイチもレイイチだが所長も所長だ」

 ライナスはコクピットの中で愚痴をこぼさずに入られなかった。
 あの後戻ってユイに報告したところ、『やっぱりそうなりましたか』と言われたのだ。しかも『ではライナスさんはラグエルを砲戦用に換装してもらって待機していてください。向こうに変化があり次第突撃します』と続けられた。それに対してライナスはレイイチは放っておくのか訊ねたところ『あの人の心配はするだけ無駄ですから』と返されてしまった。

「いくらレイイチの奴がすごいからといっても一人でどうにかできるのかよ。第一あいつがこそこそ身を隠して行く姿なんか想像もつかねえぞ」

 ライナスにとてレイイチがすごいのは認めている。だがあくまで人間なのだ。パイロットスーツの防御力はお世辞でも高いとはいえない。銃弾の嵐にでもあえばあっさりとあの世行きだ。

「しかもアキラまでまったく心配していねえ。それでも親友かよ!」

 自分の戦友はあんなに薄情じゃなかったっと思い返しながらレイイチは意外と不幸なのかもしれないと思い始めていた。

「ライナスさん、敵の砲台が沈黙しました。出撃してください」
「何!?」

 ライナスは驚いてモニターにガルガリンA−U改のカメラにリンクさせた。
 そこには戦艦から散発的に放たれるミサイルが撃ち落されるのが映っていたが、ミサイルの大半が敵の小惑星の当たっていた。最初は全部落とされていたはずだから小惑星の火力は格段に落ちていることになる。おそらく今ミサイルを撃ち落しているのは外に出てきたBFだろう。

「あ、あんにゃろうあっさりとやりやがった」

 驚きと感嘆の意を込めてライナスは唸った。だがその顔は笑っていた。

 掃討戦にラグエルも加わり、小惑星への揚陸はあっさりと成功した。





 揚陸部隊が司令室に突入した時、そこにあったのは地獄絵図であった。

「レイイチ!」

 地獄と貸した司令室の中でただ一人立ち尽くすレイイチに揚陸部隊についてきたアキラが駆け寄った。ミリアやライナスもついてきていたが、二人はとてもではないが恐怖で近づけなかった。そしてそれは揚陸部隊の人間も同じだった。

「ここまですることはないだろう! こんな、こんな、こんなのまるで!」

 かつて見たことがないほどの勢いで話すアキラの姿にミリアもライナスも何もいえなかった。それだけこの情景はひどかった。
 ある死体は首を切られ、四肢を全て潰されている。またある死体は肩から先が無くなっていた。またある死体は頭部を二つに両断されている。床には一面に血溜りができていて、壁にもコンソールにもモニターにも血とそれ以外の物がいろいろとこびりついていた。
 そしてそれはアキラにかつてのある記憶を思い出させた。

 鮮血の舞う舞台、踊り手は一人の少年、舞台を彩る鮮血は転がる男達から飛び出し、砕かれた背中からは白い物が飛び出している。鮮血は少年を彩り、少年はただ無表情で踊る。それは武闘という名の舞踏。
 心を占める感情は恐怖。されどその中で湧き上がる昂揚感に次第に心は満たされていく。それは圧倒的存在の降臨、そして窮地からの救済。背中から伝わる人のぬくもりを自覚しながらも目の前の存在に意識を飲まれる。少年はこちらに顔を向ける。そして…………

「アキラ落着け! 俺をよく見ろ!」

 レイイチのあげた大声によってアキラの意識が戻る。

「あのなアキラ、よく見ればすぐにわかるだろうが俺には一滴の返り血もついていないんだぞ」
「え? あっ、本当だ」

 レイイチの全身を見回したアキラはレイイチの言う通りまったくといっていいほど返り血がついていないことに気がついた。靴に血が跳ねているがそれは血溜りを歩いた際についたものだろう。

「じゃあこれは?」
「わからん、俺が来た時にはすでにこうなっていた。多分こうなったのは俺が入った後だろうな。一応迎撃に来ていたからその時にはまだここの人間は生きていたはずだから」
「そ、そんな」
 アキラたちの初任務はこうして最悪の最後をもって終わったのだった。


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