「ここが資源惑星?」
「はい、ここがロニアス結社の持つ資源惑星θです」
宇宙海賊討伐の際にその実力を認められたアキラたちは次なる任務、資源惑星θの護衛任務を受けて小惑星群にやってきていた。
「しかしあれだな、まさかこんなところからレアメタルが発掘されるとは誰も思わなかっただろうな」
「そうよね、ここってたしかBFの装甲の素材が発掘されるところだったわよね?」
「BFに限定しているわけじゃないよ。ロニアス結社は他の物も造っているから」
「そういえばそうだったわね」
アキラたちはこれからの任務内容の詳細を知るために作戦室に集り、カメラから送られてきている資源惑星θの映像を見ていた。
資源惑星θは本来特に注目するほどの場所ではなかった。あくまで何十とあるロニアス結社の持つコモンメタルを得るための資源惑星であった。だがこの何の変哲もない資源惑星からつい先日滅多に採れないレアメタルが発掘された。これによって資源惑星θの価値は急上昇し、今ではすでにかなりの数の警備部の船が護衛についている。
そして明日、今まで集めたレアメタルを加工のために月にある工場に輸送するのだが、すでにこの情報はいくつかのルートで流れており、レアメタルを狙って襲ってくる者がいると予測された。そのためアキラたちもその護衛のために呼ばれたのだが、詳しい話は現地ですると言ってユイが教えてくれないためにアキラたちはレアメタルの輸送の護衛ということは知っていてもそれ以上は知らないのだ。
「おまたせしました。あら、レイイチさんはどうしました?」
ようやくやってきたユイはアキラたちを見回して一人足りないことに気がついた。
「レイイチなら嫌な予感がするとか言って部屋に戻って行ったわ」
「体を温めておくとか言っていたが何の意味があるんだ? 機体の整備の確認に行くならわかるんだが?」
実はミリアとライナスはレイイチの珍しい行動に戸惑っていた。レイイチがユイに呼ばれているにもかかわらず部屋に戻ったのもさることながら、嫌な予感がするなどという言葉を口にするところなど見たこともなかったからである。
「あら、さすがレイイチさん、勘が鋭いですね」
「……やっぱりそういうことなんだ」
ユイの言葉にアキラは困ったようであり、笑っているようでもあった顔をして呟いた。
実はアキラにはレイイチがなぜそういう行動をとったのかある程度予想がついていた。というのもアキラの記憶にレイイチに備えさせておくだけのことはある人物が一人だけ存在していたからだ。
「また楽しいことになりそうだね」
「はい、私も楽しみです」
「はあ?」
なにやら納得しているアキラと言葉通り楽しそうなユイを見てミリアとライナスの二人はますます訳がわからなくなっていった。
資源惑星θの側に大きな白く輝く巨大な船が泊められている。これが今回レアメタルを輸送する際に使用する船なのだそうだが、この船は間違いなく輸送船ではなく戦艦であった。
「……大きいわね」
「……ああ、そうだな」
ミリアとライナスはその船を見た一番の感想を漏らした。おそらく他の人間でも一番最初に思うことは同じであろう。
全長700m全幅450メートル、ガルガリンA−U改と比べて三倍以上の大きさを誇る巨大戦艦『ノア』。ロニアス結社が一切のコストパフォーマンスを捨てて造った戦艦である。ユイの話によるとここ一年間完熟航海をしていた船で今回の輸送任務を最後に配属されるのだそうだ。
「なんでこんな船を造ったのかしら?」
「さあ。ただユイお嬢様もあの腐れドクターも開発に関わっていたとか言うからもしかしたらとんでもない物なのかもしれないからな」
アイザックが関わっているというだけでライナスにとってはノアが不吉な物に映る。さすがに一年の完熟航海を終えたのだからカマエルのような無茶苦茶な物ではないだろうとは思うがどんなシステムが積まれていてもおかしくない。
「ふふふ、それは見てのお楽しみです」
「あ、ユイ。もう時間?」
「はい、アキラさんとレイイチさんはもうすでに準備しています。お二人もBFに乗ってください」
「はいよ」
「わかったわ」
今回の任務ではガルガリンA−U改は資源惑星θまでユイたち五人と四機のBFを運ぶのが役目で、この先は同行しないのでBFをノアに運び込まなければいけないのだ。
「ユイはどうするの? ハミエルに乗って行く?」
「いえ、メタトロンのほうに乗ります。もし途中で何かあったときメタトロンならば後方にいられますから」
「へー、そんなこと言って本当はアキラと一緒がいいんでしょう?」
ミリアの言葉でユイの顔が一気に赤くなった。
「そ、そういうわけでは」
「はいはい、いいからいいから」
ミリアは必死に否定しようとするユイを見て苦笑して去ろうとする。
「も、もう、本当にそういうわけじゃないのに」
誰も信じてくれなさそうなことを呟きながらユイも格納庫のほうへと向かっていった。
ノアへ移ったのはユイ、アキラ、レイイチ、アイザック、ミリア、ライナスの六人だ。
四機のBFをそれぞれ指定された場所に止めると六人はBFから降り、アイザックだけはこの場で整備士たちと打ち合わせをするために残り、他の五人はノアの艦長に挨拶するためにブリッジに向かった。
「あ、そうだ、二人とも覚悟しといたほうがいいよ」
「は?」
歩いている途中でアキラが突然後ろにいるミリアとライナスのほうを振り向いて言った言葉に二人は同時に応えた。
「そうですね。ではレイイチさんに前を歩いてもらいましょう」
「おう、久々だから楽しみだぜ」
どうやらわかっていないのは二人だけならしく、レイイチが先頭を歩き、その後ろを少し距離を開けてアキラとユイが歩いていく。
「ちょっと、何がどうなっているのよ?」
「ああ、一体何が起きるんだ?」
レイイチに先頭を歩かせるということは非常時の危険に警戒するためだということを知っているため二人は動揺した。味方の船の中で襲われる心配があるとは考えられなかった。それに危険に備えている状態にしては三人が異様に楽しそうなことにも気になった。
「たいしたことではありませんが、恒例行事がありますから」
「恒例行事?」
ユイの答えは二人をますます混乱させた。
「大丈夫、二人に危険はないから」
「安心しろ、俺らには何の危険もないから」
アキラはともかくレイイチのやけに楽しそうな声で響く言葉は二人に不吉な予感を持たせた。レイイチが楽しそうと感じられるほどのこととなると一体何が起きるのか想像できないし、もし万が一危険な何かだった場合、ミリアとライナスに対処できるものではないことは間違いがないのだから。
そうしている内にブリッジへとついてしまった。
「どうぞいらっしゃいました。ノアの臨時艦長を勤めさせていただいているオマールです。ユイ様、アキラ様、レイイチ様、三人ともお久しぶりです」
ブリッジに入ると警備部の制服をきちっと着こなした男が出迎えてくれた。
「オマールじゃん、久しぶりだな。見ないと思ったらこんなところにいたのか」
「さすがにグレッグにはお嬢様の護衛を勤めてもらわなければなりませんから私がこちらにまわることになったんですよ。いやはや艦長なんて柄じゃありませんね。私は誰かに従っているほうが楽ですよ」
「そんなことないですよ。レイイチだってオマールさんのことは認めているんだから」
「アキラさんの言うとおりです。でなければあなたを信頼して任せた私の立つ瀬がなくて困ってしまいます」
オマールを知っている三人が話し始めたのでミリアとライナスは困ってしまった。
「ああ、この人はオマールさん。名前はオマール・ラウル、グレッグさんの部下で以前はユイの護衛部隊の副隊長をやっていた人なんだ」
そんな二人の様子に気がついたアキラがオマールを紹介した。
「気安くオマールとお呼びください。ミリア様、ライナス様」
「ええっと、よろしくお願いします」
「よ、よろしく」
かしこまってお辞儀をするオマールに二人は戸惑いながら挨拶をした。
すると今度はそこに別の声が割り込んできた。
「オマール、そろそろ私達のほうの紹介をしてもらえないか?」
「おっと申し訳ありません。エリス様」
澄んだソプラノの声が響き、オマールが横にどいた。
「――っ!」
ミリアとライナスはオマールがどいたことによって姿が見えるようになった人物に驚いて息を呑んだ。
そこにいたのはミリアと同じぐらいの女性だった。だがその女性は思わず二人が息を呑んでしまうほど綺麗であった。
わずかな風にでも流されそうなほどさらさらな銀色の髪が後ろで一束に纏められて揺れている。鋭く多少険のある青い目は意志の強さと力強さを感じさせる。スタイルもレイイチほどではないが背が高く、一つ一つが優れ、なおかつ主張しすぎることなく全体のバランスがとれている。もしきているものが無粋な警備部の制服でなければ、いや例え警備部の制服であろうともその完成された姿はそこにいるだけで一枚の絵になり、神々しささえも感じられる。
「私はエリス・ベルガー、ノアに積まれているBF、SGA−01ミカエルのパイロットだ」
その声に聞きほれそうになったミリアだったが、気になる単語が彼女を正気に戻した。
「ベルガー?」
「そうだ、私はそこにいるアキラとは従兄妹の関係に当たる」
「あ、そうなんだ」
「エリスさんのお父様がアキラさんのお父様のお兄様に当たるんです」
「ほうほう」
「それにエリスはベルガー一族の次期頭首候補なんだよ」
「はぁ!?」
アキラの言葉にライナスが極端に反応した。
「ちょっと待て。ベルガー一族って宇宙開発が始まる前からある軍人一族だろう? その次期頭首がなんでこんなところにいるんだよ!?」
「こ、こんなところって、あんたねえ」
ライナスの叫びにミリアの頬が引きつるが、それにエリスが涼しい顔をして答えた。
「ベルガー一族は戦士の一族だ。必要なのは戦士としての能力とその力をまわりに示すことだ。必ずしも軍に入らなければいけないわけではない」
「それだけではないですけどね」
はっきりと告げるエリスの言葉に続いてユイが何かを含んだような微笑を浮かべて呟いた。そしてそれを聞いてエリスは困ったような顔をし、アキラは笑いをこらえ、レイイチはかまわずニヤニヤとしている。
「ユイ、余計なことは言うな」
「あら、余計ですか?」
心外そうに言うがユイもエリスが言いたいことはわかっていた。それはユイが言うべきことではないから。
「今はな。それよりもこちらのメンバーを紹介する」
エリスが脇によけるとさらに三人の人間が前に出てきた。
「順にロルフ・バイパー、アリス・ハーン、ロイド・チャーチルだ」
「ロルフ・バイパーです。はよろしく」
ロルフは髪を短く刈り上げた青年で背丈はエリスよりも少し大きい。
「アリス・ハーンといいます。よろしくお願いします」
アリスは髪を外側にカールさせた女性で浮かべた笑顔は見ているだけで和んでくるようだ。
「ロイド・チャーチルです。皆さんこれからよろしくお願いします」
最後のロイドはロルフに比べて細いが背はレイイチ並みに高く、整った顔立ちと立ち振る舞いからは高貴な雰囲気が感じ取れる。
向こうの自己紹介が終わったあとこちらの自己紹介も済ますとロイドがレイイチに話しかけてきた。
「あなたがレイイチさんですか。お話はいろいろと伺っております」
「それつはどうも」
「握手してもらってもいいですか?」
「いいぜ」
レイイチがロイドの右手を握った瞬間、周りの空気が変わった。
するとレイイチは空いている左手を払い、横に回り込んでいたエリスが放った掌底を打ち払う。そしてからロイドの右手を振り払う。
すぐさま横から飛んでくる蹴りを後ろに下がってかわし、続いてやってくる掌底を横に払い、体を流させる。だがエリスは横に流される力に合わせて右足を後ろに移し、回転エネルギーに変換して半身を取る。
そしてすぐに地面を蹴って左肘を向けての体当たりを仕掛ける。レイイチはそれを横に動いてかわすがそれを予測していたエリスはレイイチの目の前で飛び上がりまわし蹴りを放つ。だがそれもレイイチはスウェーでかわした。
エリスは着地と同時に膝を曲げてしゃがみ、膝にためた力を解放してレイイチの顎をめがけて両手で掌底を打つ。
だがレイイチは逆に低く頭を落としエリスの両手のちょうど下をくぐっていく。そして伸びきったエリスの腹部に前蹴りを放った。
エリスの体が浮き、数メートルほど後ろへ飛んだ。
「なかなか腕を上げたじゃないか」
「げほっ、当然だ」
レイイチの強烈な蹴りを受けてむせ返りながらエリスが言った。
「だがまだまだだな。おれに勝とうなんざ百年早い」
エリスは歯軋りで答えた。
「って待て―――!!!」
そんな二人を見て叫び声を上げたのはミリアだった。
実はミリアを含めこの場にいる者たちのうち四人は突然の出来事に頭がついていっていなかった。かくいうミリアもその一人で、いきなりレイイチとエリスが戦い始めて今の今まで唖然としていた。
「なんでいきなり戦い始めるのよ!? しかも今の動き何よ! あたしでさえ目で追うのがやっとだったわよ」
そしてなによりミリアが叫んだのは二人の実力の高さゆえだ。ミリアは仮にも仕官学校時代は生身での格闘ではレイイチ以外には負けたことがない強者である。そのミリアでさえ目で追うのがやっとという動きでの戦いに他のメンバーはついていけなかったのだ。
だがミリアの叫びに答えたのはレイイチでもエリスでもなく、ユイだった。
「これは日常茶飯事です」
「そうであってたまるか――!!」
こんなことを毎日やっているはずがないと信じて止まないミリアは叫んでいるがユイは涼しい顔で
「ですがこれは十年以上前から続いていることですから」
と、はっきりと言い切った。
「待て、十年以上前からだと?」
ユイの言葉に唖然としてしまったミリアに代わって今度はライナスが訊きだした。
「はい、もっと言えば十二年前から、レイイチさんとエリスさんが初めて出会った次の日から今日までずっと、顔を合わせば毎日のように続いています」
「…よっぽど仲が悪いんだな」
「ううん、そんなことないよ。むしろ逆だね」
「は? どうみても仲が悪いようにしか見えないぞ」
ライナスが見た限り少なくともエリスのほうは本気だとわかった。動きは見えなくてもライナスには戦いの日々の中で鍛えた感覚がある。その感覚があれは本気であったと告げている。おそらくライナスがくらえば骨の一本や二本は軽く折れるに違いない。
だがアキラから見ればそれは大きな間違いだ。
「本当に仲が悪いならレイイチがあの程度で済ましているわけがないよ」
アキラの言葉を否定することはできなかった。
エリスは多少息が乱れているがもう普通に立っているし、それほどひどい怪我をしているようにも見えない。蹴られた当初も息苦しそうにしてはいたが苦痛を感じているようには見えなかった。レイイチの蹴りを受けたならば肋骨の二本や三本ぐらいは折れてもおかしくないというのに。
それはすなわちエリスがとっさに後ろに跳んで衝撃を逃がしたということだろうがたしかにそれならばレイイチが追い打ちを仕掛けていないはずがない。その程度のことは付き合いの少ないライナスにも理解できた。
「まさかあれがあいつらなりのコミュニケーションなのか?」
ライナスは様々傭兵チームを転々としていたので中には拳で語り合うことしかできないような人種も見たことがある。見たことがあるが、ここまでとんでもない攻防をする奴はいなかった。
「それもあるけど、いろいろと事情があるんだよ」
「どんな事情だよ?」
「それは僕の口から言うわけにはいかないよ。エリスに訊いてあげてよ」
楽しそうに笑いながら言うアキラにライナスは不吉な物を感じた。だがそれに嫌な感じがするというわけではなく、ただそれを訊くとよりいっそうとんでもないことが起きるような気がしたのだ。正直今の状態でかなり限界まで来ており、これ以上なにかあると自分も正気を保っていられる自信がなかった。
だが事情が飲み込めていないのは何もミリアとライナスの二人だけではなかった。
「え、エリス様、大丈夫ですか!?」
「あらあらまあ、どうしていきなり戦いを仕掛けたんですか?」
向こうではロルフが心配そうにエリスに声をかけ、アリスがライナスが訊きたくないことをあっさりと訊いてしまった。
そしてエリスもまたあっさりと答えてしまう。
「約束なのだ」
「約束ですか?」
鸚鵡返しのように訊き返すアリスにエリスは頷き、続きを述べた。
「私がレイイチに一撃を入れることができればレイイチは私の結婚するという約束だ」
当たりは一瞬静まりかえった。
「結婚!!!!!!!?」
そしてその一瞬はブリッジ全体を揺らすほどの四つの叫びを引き起こした。
もどる