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 ある戦艦のブリッジで男女の二人組みが同じモニターを眺めていた。

「あれが今回のターゲット?」
「ああ、あれに積まれているレアメタルを奪う」

 二人が見ているモニターにはノアが映っていた。

「ずいぶん大きな輸送船ね」

 女が率直な意見を述べると男は苦笑した。

「リヴァ、あれは戦艦だよ」
「嘘でしょ。なんで戦艦なんかに積み込むのよ」
「防護性の問題だな。搭載量に関してもあの大きさだ、十分すぎておつりが来るだろうね」
「反則よね」

 そうは言うが二人ともまったく困ったようには見えない。

「それで、さっそく仕掛けるの?」

 女は格好の玩具を目の前にした子どものようにそわそわし始めている。

「いや、さすがに今のままでは数が多すぎる。あの戦艦が出航してから襲う。そうすれば護衛艦の数も減るだろうからやりやすくなる。それに僕たちが一番気を使わなければならないことは何だい?」
「情報の秘匿ね。たしかに私たちのことを知られると厄介だものね」
「理解がよくて助かるよ。アスモではこうはいかないからね」
「ありがとう、ベルゼ」

 女は男に微笑むとその頬に軽く口付けた。

「やれやれ、僕はアスモとは違うのだがね」

 その行動に男は少々呆れてしまった。

「あら、別に女遊びはアスモの特権ではないでしょ」
「それでも君の相手をしようとは思えないな。後が怖い」

 男は体に密着しようとする女を離し、横に置いておいたファイルを渡した。

「これは?」
「あの戦艦に乗っていると思われるBFのパイロット達の資料さ。実この一年彼らによって僕の端末がいくつか壊されてしまったのでね、ここら辺で潰しておきたいのさ」
「ふーん」

 女は気のない返事をしてファイルをめくったが、あるパイロットのところでその手を止めた。

「この女、むかつくわ」

 ファイルに添付されている写真を見て女はとたんに不機嫌になった。

「君ならきっとそういうと思ったよ。今回の仕事をアスモではなく君に頼む理由の一つだね」
「ええそうね、あの男ならきっと仕事そっちのけで口説き始めかねないものね」
「まったくだ。そして振られて怒り狂う」
「怒っているのは私も同じかもしれないわよ」

 女は再び男に体を密着させ、男の耳元で囁くが男はまったくといっていいほど反応しなかった。

「そのこと自体は別にどうでもいいのさ。大事なのはやる気になってくれるかどうかだからね」
「ふふふ、もちろん私はやる気よ。この鼻につく女が苦しむ様を想像するとそれだけでいってしまいそうだわ」
「そんな君も頼もしいよ」
「ありがとう」

 女はファイルを脇に置くと、男に体重を預けた。

「さっきも言ったが君の相手をする気はないよ」
「まったく連れない人ね」

 女は男から体を離し、ファイルの先ほど見ていたページから写真を引き剥がした。
 女は手に持った写真を放り投げ、いつの間にか逆の手に握っていたナイフを投げつけた。ナイフは写真の中心に貫き、床へと落ちる。

「この女、必ず殺してあげるわ」

 その写真にはエリスが写っていた。





 友好を深める目的で始めた両チーム混成ペアでの偵察は順調に成果を上げていた。そのためしばらくは混成のままにしておこうということになり、出発してからは四人一組になり、各チームから二人ずつ出していた。その組み合わせは話し合いで決めたのだが、その結果に不満を持った人間が二人ほどいた。

「まったく、なんで私がおまえと組まなければいけないのだ」
「うん、僕もそう思うよ。今さら友好を深めようとか言われても困るよね」
「まったくだ」

 不満を持っているうちの一人、エリスと組んだのはアキラで、この組み合わせ自体はリーダー同士ということで決まっていたのだが、従兄妹同士でもともと交流があり、レイイチのこともあり比較的仲がよいこの二人では友好を深めるという目的は意味を持たない。
 もっともエリスが不満を持っているのはアキラに対してではない。もう一組のペアに対してであった。

「エリス様、この付近には何の問題も無いようです」
「アキラ、護衛艦の方に偵察に出しているBFの種類と数を聞いておいた。マルクトに映っている物と照らし合わせてくれ」

 ロルフとライナスのペアだ。彼らは真面目に偵察の仕事をやってくれているのだが実はあんまり意味が無かった。というのも今現在ノアを中心に護衛艦が展開している宙域程度ならばメタトロンだけで十分なのだ。そのためライナスは早々と見切りをつけて護衛艦との情報交換に精を出している。特にやれることの無いエリスのミカエルとロルフのラファエルだけが微妙に取り残されていた。

「せめてレイイチが一緒だったならば」

 アキラに対して以外の送信をOFFにした状態で呟いた愚痴こそエリスの不満だった。
 そしてレイイチの不満もまた自分のペアと組むもう一組がアキラ・エリスのペアでないことでの不満だった。もっともレイイチの場合はエリスよりもアキラと別々なことが不満だったのだが。

「うん、問題ないよ。ねえエリス、やっぱりレイイチと代わってもらおうか?」
「いや、ロイドのラファエルも情報収集に長けている機体だ。精度はラグエルにこそ及ばないがレーダーの範囲は広い。メタトロンと一緒に使うのは効率が悪い」
「そうじゃなくて、僕とレイイチを交換してもらうの。そうすれば一緒にいられるよ」
「…アキラ、心遣いは嬉しいがそれではあまりに私が惨めではないか」

 それが心から気を遣ってくれているだけに余計に辛く感じた。

「惨めかな?」
「惨めだ。少なくとも私にとってはな。それにそんな私情でペアを代えるわけにはいかないだろう」

 各チームのリーダーたる二人が率先して規則を破るようでは示しがつかない。それにそのことが原因で他の者まで無茶を言い始めるかもしれない。

「そうかもしれないけどきっとみんな許してくれるよ。文句も言わずに」
「だとしてもだ」
「そうだね。それが正しいんだろうね」
「ああ、それにそんなことをしたら今度はレイイチがおまえとペアを組むと言い出しかねない」
「…言いそうだね。というかすでに言っているのかもしれないね」

 実際問題ノアの中ではレイイチがロイド相手に愚痴っているので二人の予想は当たっている。さすがに付き合いが長いだけのことはある。

 二人がそんなふうに話していると突然遠くで爆発が起こり、それと同時にレーダーから光点が一つ消えた。その光点が示していたものは戦艦だった。

「エリス、護衛艦がやられた!」
「わかった、敵の反応は無いのか?」
「無いよ――ううん、一つだけ現れた。あ、パワーUが二機向かった」

 だがそのの光点もすぐに消えてしまった。

「ダメ、パワーUじゃ相手になっていない」

 つまりそれは少なくともあれがドミニオンクラスの力を持っているということだ。そうでなければパワーUを二機も簡単に落とせるわけが無い。

「ちっ、ならば私達でいくしかあるまい。アキラ、オマールに通信を。レイイチたちにノアの護衛に出てもらい、私達はあれの相手をしにいくぞ」
「うん、でもレイイチに手伝ってもらったほうが」
「いや、こうしている間にも仲間が落とされる。それにたった一機だけで襲ってくるのはおかしい。おそらくどこかに伏兵がいるはずだ」
「そうか、レイイチならどんな状況でも切り抜けれるはずだもんね」
「そういうことだ。ロルフ、ライナス、おまえはここに残って部隊を纏めてくれ」
「わかりました」
「しっかり落としてこいよ」

 すでに近くの機体と連絡を取り始めていた二人が答えるのを聞いて、アキラとエリスはそのレーダーに映る一つの光点を目指して加速し始めた。


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