「二人ほど離れたか。できれば四人とも動いてくれればよかったんだがしかたがないか」

 男が自分以外誰もいない戦艦の艦橋で呟いた。

「まあいい、肝心の彼女はリヴァの所に行ってくれたようだ。残り二機に量産型のBF、数も多くはないな。これなら実験にちょうどいい」

 男は手元のコンソールを操作する。

「これでいい。さあ行っておいで僕の下僕たち、我が名において全てを蹂躙しろ」

 男の声に応えるかのごとく、戦艦が強い唸るような音をあげた。





「ドクター、カマエルの準備はできているか?」
「大丈夫、四機ともいつでも出れるよ。だけど突然どうしたの? 敵が現れたのは聞いたけど一機だけだよ。僕はミカエルの開発も手伝ったからわかるけどミカエルとメタトロンの二機でかかれば問題ないよ」
「ああ、それはわかっている」

 アイザックに言われるまでもなくレイイチも二人の実力も、BFの性能も認めている。だがそれでもレイイチはおとなしくはしていられなかった。

「だがたった一機というところが気になる。この集団に単機で挑むのは愚か者のすることだ。だがもしそいつが愚か者じゃないとすると」
「一機でも勝てると思っているってことよね」
「あるいは陽動ということですね」

「ああ、そういうことだ」

 レイイチ同様におかしいと感じていたミリアたち三人も格納庫にやってきて話しに加わった。レイイチも含め彼らはすでにパイロットスーツに着替えており、すぐにでも出られる状態だ。

「わかったよレイイチ君、僕は君を信じよう。それはそれは一切疑いもなく信じよう。だからすぐに出撃してくれ。所長と艦長には僕のほうから説明しておくよ」
「おう、わるい」

 レイイチたちはすぐにそれぞれのBFに乗り込み、アイザックは四機のBFを出撃させるために他の整備兵に指示を出し、それと同時に艦橋に回線を開き出撃の許可を求める。
 程なくして準備は終わり、四機のBFがノアに設置されたカタパルトへと運ばれた。





「あれは、なんだ?」
「BFだとは思うけど……」

 レーダーの反応を見てやってきたアキラとエリスの前に現れた物を見て、二人は困惑を隠せなかった。
 二人の前にある物からはエネルギー反応が出ているので稼動中の機械であることは間違いない。そしてそれが護衛艦を落とし、パワーU二機をあっさりと落としたものであることには違いなかった。
 だが二人はそれをBFだとは思えなかった。
 普通BFは製造元によって多少の違いはあったとしても基本的には人型をとる。BF以外にも戦闘機や機動砲台といった兵器もあるが目の前にあるそれはそのどれとも異なっている。それを言い表すのに一番ふさわしい言葉をあえて挙げるとすれば蛇だろう。
 ただしこの蛇には二つの手がついているが。

「何かはわからないがあれが敵であることは間違いない。ならば倒す」
「うん、でもなんだか嫌な予感がするよ」
「ああ、もし何かあったとしてもノアにはレイイチがいるから大丈夫だと思うが、あれは危険だと私の直感が告げている」
「気を引き締めていかないとね」

 エリスはエネルギーソードを抜き、アキラもロングエネルギーライフルを構え、ケテルのエネルギーチャージを開始する。
 だが二人とも自分達から攻めようと思わなかった。今まで見たことのないタイプの敵にどう攻めればいいのか決めかねているのだ。しかもモニターに映る姿は全長ならばメタトロンやミカエルの倍近く、その代わりに体自体は細身なので体積や重量という点ではあまり変わらない。細身であるため狙いづらく、さらに装甲が鱗のように張り巡らしてあるらしくしなやかに動き、まともに捉えることも難しい。

 二人が攻めかねているのを向こうも察したらしく、今まで二人が来てから向けられていた頭部の瞳が二人からそれ、そして本来ならばマウスガードで覆われているはずの顎の部分が動き、口を開いた。その口内も獰猛な肉食獣のような鋭い牙が並んでいる。そしてそのさらに奥に砲口部分が除くことができた。
 その砲口部分に膨大なエネルギーが収束していく。

「この反応はまさか!?」

 アキラが見覚えのある光景に最悪の想像が重なった。そしてそれはエネルギーが解き放たれたことによって現実の物となった。
 解き放たれたエネルギーは一筋の線となり、護衛艦に襲い掛かる。

「ケテル…ブラスター……」

 それはまさにアキラのメタトロンの最強兵器ケテルブラスターと同じ物であった。

「くっ、アキラ、なぜこんなものを持っているのかはわからないがあれでは例えノアといえどもただではすまない。これ以上あれを撃たすわけにはいかん」
「う、うん」

 衝撃から立ち直ったエリスに促され、アキラもまた気を取り戻した。
 だがどう攻めればいいのかわからないことはかわらない。

「しかたがない。アキラ、私が前に出る。援護を頼む」
「それしかないよね。うん、援護は任せて」

 わからなかろうがやらねばならないことにはかわりがない。だから二人はどんな事態にも対応できるように長距離戦主体のメタトロンを後方に、万能型のミカエルを前に出すフォーメーションを組む。これはアキラとレイイチが組む時にやるフォーメーションでエリスがレイイチの代わりを務めることになる。

「いくぞ!」
「うん――――待って、新しい敵反応が出た!」
「なんだと?!」





『アキラさんから連絡がありました。新手がきたようです』
「わかった、そっちは俺らが引き受けてやる。数はいくつだ?」
『確認できている限りでは二十四です。詳しいデータはそちらに送ります』

 すでに出撃していたレイイチがオマールからの通信を受けてすぐに送られてきたデータを確認すると、レイイチは不敵な笑みを浮かべて見せた。

「へっ、パワーUにアークエンジェルV、ヴァーチャーV、さすがにドミニオンはないみたいだがたいした編成だぜ」
「でもおかしくないか、アークエンジェルVもそうだがヴァーチャーVに関しては存在すら発表されていないはずだぞ」
「おおかた海賊同士横のつながりがあるんだろうよ。あるいは……」

 レイイチはその先を言いはしなかったがミリアとライナスには何が言いたいのかわかった。先日の海賊を殺した奴かもしれないというのだ。

「ですがやはり陽動だったようですね」
「いや、ちがう。もし陽動だったらあれほどの力を持つものを出すはずがない」
「そうですね、きっと一人で落とせる自身もあるんだと思います」
「ああ、このままじゃ二人が危ないぞ」
「ちっ」

 ライナスの言葉を受けてレイイチは舌打ちを打った。
 珍しいことにレイイチはこの状況に迷っていた。もともと指揮などアキラに全部任せていた身である。しかも仕官学校時代の戦術面での授業では散々の成績を残してきており、指揮能力は高くはない。そしてなによりそれ以上の重石になって彼の身にのしかかってきている物があった。

「ミリア、ロルフはアキラとエリスの援護に行け」

 その命令に驚いたのはミリアとライナスだった。

「ちょっと、あんたが行けばいいじゃない。指揮なら別にライナスかロイドにでも押し付けていけばいいんだから。あんたらしくない」

 ライナスもミリアと同じことを感じており、その命令に戸惑っていた。

「仕方ねえだろうが。俺のところに送られてきたデータの中にアキラからの伝言が入っていたんだから」
「伝言? なんて?」
「『ノアとユイを頼む』」
「うわぁ〜」

 レイイチにとってアキラの願いはもっとも優先されるべきことだ。だからここでノアを放ってアキラの助けに行くことなどできるはずがない。助けに行きたいのにその本人からその本人にとってもっとも大事な人の護衛を任されてしまったのだ。レイイチにとっては拷問に近い。ミリアとロルフを送るのですら身を切るような思いでしたことだろう。

「それにノアや他の護衛艦の援護もあるからこっちのメンバーは中距離からの射撃戦がメインになる。接近戦主体のBFは向こうに行ってもらったほうが助かる」
「わかったわ。アキラとエリスのことは任せて」
「必ず助ける」
「頼む」

 珍しいことを言うレイイチに目を丸くしながらミリアはエリスたちの方へ方向を変え、ハミエルを加速させる。ロルフのラファエルもそれに続いていく。

「では私たちも行きましょうか」
「ああ、とっとと倒して助けに行こうぜ」

 二人が行ったのを見届け、四人は接近してきているBF群に向かって行った。





「一、二、三、四、五、六、七、八。これは予想外でしたね。まさか増援がいたとは」

 暗い艦橋で男は一人呟く。言葉とは裏腹にその表情は楽しそうだ。

「まあいいでしょう。どのみちもう二機ほどリヴァの方に行ってくれたようだし、このぐらいの方がいいデータが取れそうだ」

 男はこの状況でも自分達が負けるとは思っていなかった。それを妄信だというには男は自分のことを良く知っていた。男の自信は確固たる根拠のある物だった。少なくとも今の彼らにとっては。


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