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「これはなかなか手強いですね」
襲い掛かってくる三機のアークエンジェルVを捌きながらロイドが呟いた。
向こうは二十四機でこちらはレイイチたちを除いて十二機、倍の敵を前にしてレイイチたち四機はそれぞれ役割を振り分けてばらばらに行動を開始していた。
遠距離戦に秀でたアリスのザドキエルがノアの警護に付き、離れたところから寄ってくるBFを両腕のエネルギーランチャーで牽制する。そして高度な分析能力を備えと実戦経験の多いライナスのラグエルが護衛艦のBFをまとめて迎撃にあたっている。そしてレイイチのカマエルはその戦闘能力を生かして遊撃として宙域を動き回っている。そんな中ロイドのガブリエルに任された仕事は敵母艦の探索だった。
ガブリエルはもともとラグエルと同じで情報戦主体のBFでラグエルのコクマとメタトロンのマルクトを足して二で割ったような性能のレーダー『イェソド』を持っている。この能力を生かして敵の母艦を発見しようとしているのだが、敵の攻撃が激しくて満足に索敵に専念できないでいた。
「しかしおかしいですね。動きからして無人機のようですが、まるで有人機のようです」
通常無人機はコンピューター制御のために人間の持つ柔軟性というものが欠落している上、本来人間の力を受けて行っている制御をコンピューターだけで行うのは負荷が大きく、どうしてもあらかじめ決められた単調な動作しかできない。
コンピューターがBFを操るということは人間が自分で動くのと同じことである。だが例えただ歩くというだけの人間にとって簡単な動作さえコンピューターでは困難なものとなる。普段意識されないが人間の脳というのはそれほどまでに高性能なコンピューターなのだ。
結果、コンピューターの容量はほとんどがBFの制御にとられてしまい戦術的集団行動は難しい。目標を設定してそれを攻撃をさせることはできるが連携は取れず、乱戦になれば常に単独行動をしているようなものだ。セレスティアシリーズでは唯一エンジェルだけがこの無人機の形をとっている。もっともこのエンジェルは最初からコンピューター制御を念頭に開発されているのでBF自体がコンピューター制御に適応させられているため他のBFに比べてはるかに動きが良い。
だが今襲い掛かってきているBFたちは普通ではなかった。動きこそは単調で相手をするに難しくないのだが連携して襲い掛かってくるのだ。そのためどうしても簡単に落とすことができないでいた。
「レイイチさんのほうはどうでしょうか?」
遊撃に当たっていたレイイチはようやく三機を落としたところだった。というのも最初の一機を破壊したところで敵の動きが変わり、カマエルから距離をとって移動射撃を繰り返してきたのだ。しかも最初からいた落とした機体と主に行動していた二機に加え、三機一組の小隊が三隊もいる。しかもどこかの小隊に攻撃を仕掛ければ残りの小隊が逃げるための時間を稼いでみせる。とにかくカマエルを近寄らせないのが目的のようで、レイイチ一人に九機もの数を繰り出していたが、それだけの効果は出していた。
「ちょこまかちょこまかうっせえんだよてめえらは」
少しでも早く片付けてアキラの手助けに駆けつけたいレイイチとしては今の状況はじれったくてしょうがない。この状況で二機撃墜できただけでもたいしたことなのだが、レイイチにとって周りの称賛など対して意味がない。だから何機落とそうと関係ない。
最初の一機と二機を落としたから残りは九機、だがそれでもこのままでは苦戦はまぬがれない。例えレイイチといえども無人機特有のパイロットを無視した加速と高速起動を繰り返されては中距離での狙いは難しい。他のBFたちもこの加速と高速起動、そして本来ありえるはずのない無人機同士の連携によって数で勝りながらも押し切れずにいる。時折ノアのほうからザドキエルの援護射撃がやってくるがそれもあまり役に立っているとは言いがたかった。
だがそんな状況で焦れながらもレイイチの根っこの部分は冷静だった。それはケブラーのリミッターをはずさないことからも明らかだ。
リミッターをはずす時は敵の母艦を見つけてからだ。その前に無駄なエネルギーを使うわけにはいかないのだ。
そう、やがてくる機のために今は力を蓄えておかなければならないのだ。
「はっ!」
エリスは蛇型のBFに斬りかかるが両側に生えた腕から五本のエネルギーの刃が伸び、エネルギーソードを受け止めた。同時にアキラがロングエネルギーライフルを頭部に向けて放つがそれを体をくねらせることで頭部の位置を変えてよけてしまう。よけれないようにとガトリングガンをばら撒いてもどうやら鱗状の装甲は攻撃を受け流す効果もあるらしく、当たったように見えてもその力のほとんどが別方向に捻じ曲げられてしまっていた。
「なんて厄介なんだ」
「まったくだ。離れての攻撃ではよけられるし散弾系の実弾では装甲にはじかれる。これでは接近して戦うしかないがそれも難しい」
二人は睨むように蛇型BFを見るが向こうはそんなことを気にした風もない。
だが両腕からは五本ずつ、計十本のエネルギークローが伸び、さらに自在に動く尾の先にもエネルギーソードを生やし、目は二人の方を見ていた。
「下手に近づけば爪がこちらの動きを止め尾にやられる」
「だからって離れていれば安全というわけじゃないんだよね」
すでにミカエルの右肩には尾にやられた傷が付いていた。まさに爪と打ち合っている間にやられたのだ。もしエリスでなければその一撃だけで終わっていたかもしれない。そして護衛艦を破壊した武器もある。距離が離れすぎればそれが再び使われる可能性は十分にある。
「今ミリアとロルフがこちらに向かっているみたいだけど、どうもレイイチたちのほうもかなりてこずっているみたい」
「こちらに援軍を送れるだけの余力があるなら大丈夫だろ。それにロルフとミリアか、確か二人とも接近戦用の機体だったな?」
「うん、これで両腕と尾を押さえ込めればいいんだけど」
「やらねばやらぬならばやるだけだ」
二人がやってくるまでまだ時間がある。それまではどうしたって二人で抑えなければならない。
それにエリスは気がついていた。この敵がまだ本気を出していないことに。
二人がかりでも本気にすらさせられていないこの相手に四人集まったからといって倒せるかどうかわからなかった。それ以前にもし今やってくる増援に気がついて到着する前に片付けようと本気を出されたら持ちこたえられるのか、それすらも危うい。
アキラとエリスは今まさに命がけの状況に追い込まれていた。
「まさかこれほどまでにやるとはね」
艦橋で一人戦場を眺めていた男はレイイチたちの善戦に驚いていた。特に男が気にかけたのはカマエルだった。
一機目がやられたとき、直感的にこのパイロットは危険だと感じたので十一機ものBFをぶつけたのにもかかわらずまだただの一撃も受けていないうえ、すでに五機がおとされている。しかも落とすのにかかる時間がだんだんと短くなっていく。こちらの数が減ったのだから当然といえば当然ではあるが、普通ならばすでにこの時点で残っているはずがない。
もし自分が同じことをできるかと問われればできると答えるが簡単にできるかと言われればできないと答えるだろう。つまりそれだけ難しいことをこのパイロットはやっている。しかもおそらくまだ余力を残している。それは先ほどから索敵のために戦場を動き回っているガブリエルからも予想できることだった。
母艦を発見しだい全力で殲滅する。それがレイイチたちのプランだということには気がついていた。だから男は念のためにガブリエルにも一小隊ほど向かわせていたのだ。
カマエルに対して戦えば勝つという自信はある。だがそれなりの被害は覚悟する必要があるかもしれない。
男は自分が負ける可能性はないと考えている。それは慢心に聞こえるかもしれないが男にとってはそれを否定されることは自分の存在を否定されることに等しかった。故に男は自分の負けも女の負けも考えてはいない。だがそれでも自分が出るべきかどうか迷うところではあった。
大事なのは刹那の勝利ではない。自分達の情報が漏れないことが大事なのだ。別にBFの姿を知られようとかまわないが、その能力までが知られるのは困る。
必要ならここは大人しく退く。退くことは男にとって敗北ではない。だからその決断に迷いはない。ただ心配なことがあるとすれば女が大人しく退いてくれるかどうかであった。
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