漆黒のBFの腕から伸びるエネルギーソードが振り下ろされ、また一機のBFが爆発する。
「あと三つ」
レイイチはようやくここまで減った敵の数を数え呟く。
レイイチが撃墜した数は全部で二五機、最初の十二機からさらに増援が現れたため敵のBFの数は四十機を越していた。その半分以上をすでにレイイチが落としている。
ここまで戦えているのはレイイチだからこそである。純粋な戦闘力というだけならばミリアもエリスもこの数を確保できるかもしれないがそれは補給ができてこそである。補給なしではジェネレーターから送られてくるエネルギーはともかく推進剤がもたない。それをレイイチは腕を振り回したり敵機を踏み台にすることによって運動エネルギーを確保し、推進剤を節約してきたのだ。カマエルの長く先が重い二本の腕とレイイチの超人的技能があって初めてできる神技である。
「せい!」
さらに一機を撃ち落す。レイイチにとってたったの三機などもはや相手になどならない。
「あと二機」
エネルギー弾を左腕のケブラー・シールドが受け止め右腕のケブラー・ガンがその敵機を打ち抜く。
「あと一機」
先の一機との連携で突撃してきたBFがエネルギーソードを振り下ろしてくるのを腕を伸ばし相手のエネルギーソードを持つ手を掴み方向をずらす。それだけで相手の攻撃は空を切りカマエルに向けて無防備な側面を向ける。
そこに頭部マシンガンで装甲を削り、左手で抜いたフルメタリックナイフを装甲の隙間に突き刺す。相手が振り向くよりも早くナイフを抜き、右手のケブラー・ガンでナイフによって広げられた装甲の隙間を撃つ。さらに装甲を足場にして強く蹴り、反動で距離を開ける。
敵BFが爆発してさらに爆風にあおられてカマエルは味方がいる方へと流されていく。
『おや、もう片付いてしまいましたか?』
そこにロイドが通信を入れてきた。
「ようやくだ。それよりも何かつかめたのか?」
『はい、座標を送りますから後はよろしくお願いします。補給していく時間があるかどうかはわかりませんが』
「大丈夫だ、セフィラーシステムは使っていないからエネルギーは十分ある。推進剤もケチったしな。……よし、座標は届いた。じゃあ行ってくるぜ」
『はい残りはこちらに任せて暴れてきてください』
「まかせろ」
レイイチは今まで温存していた推進剤を全て使うかのようにバーニアをふかし、最大加速で目標の座標に向かっていった。
二本のエネルギーソードを構えたハミエルが前に出て蛇型BFの爪と打ち合い、その横から攻撃を仕掛けようとするラファエルを頭部のエネルギーガンが牽制する。メタトロンは相変わらずエネルギースナイパーライフルで尾の動きを牽制しエネルギーソードが他の三人のところに行かないようにしている。そして左腕を失ったミカエルは前にでて戦う二人をエネルギーガンで援護していた。
だが相手の腕も恐るべきもので、四機を相手に互角に渡り合っていた。
しかしそれでもやはり押されており、徐々に動きがせわしなく、そして大きくなっていく。時折ミカエルのエネルギーガンが掠めるなどという状況も生まれてきた。
そしてついにパワーバランスが完全に狂う時が来た。
「セフィラーシステムケテル始動」
ついにケテルのエネルギーチャージが完了したのだ。
背中にまわされていたパーツが左肩の上へとせり上がり、バレル部分が旋回して前方へとのびる。そして前方に伸ばされた左腕と接合する。
さらに背中に備えられている六枚の放熱フィンが翼のように展開する。
「モードショットガン」
蛇型BFに対してもっとも有効なモードを選択。
「エネルギーチャージ完了、目標設定」
目標はボディから頭部にかけて全般だ。
「ケテルブラスター、ファイヤー!」
幾筋もの光の奔流が生まれ蛇型BFに襲いかかる。
必死に体をくねらせて避ける蛇型BFであったが、今までと違い全てを避けることはできなかった。
さらにその隙を突いてラファエルが一気に接近を果たした。
「セフィラーシステムホド始動」
背中からは六枚の蒼い翼が広がり右腕のパーツから杭のような物が伸びる。
「打ち砕け!」
ラファエルはその右腕から伸びた杭を蛇型BFの頭部にあてた。
「ホド・パイルバンカー!」
杭が突然伸びて蛇型BFの顔面に突き刺さる。だがとっさに顔を横にずらしたためにパイルバンカーは顔の端を抉った。その威力は十分すぎるほどでその部分の装甲を全て剥ぎ取っていた。しかもそこで終わりではなかった。
伸びた杭の一部が開き、そこから透明なレンズが現れた。それは普段なら銃口の奥にあるはずのエネルギーを収束させるためのレンズだ。それがそこに、しかも逆向きに設置されていた。
「スパーク!」
ロルフの掛け声にあわせてそのレンズから全方向に向けてエネルギー波が放たれた。本来ならば収束されていないそれはBFの持つ装甲を破るほどの威力のないものだ。だがパイルバンカーによって装甲をはがされてしまった蛇型BFの顔を焼くには十分なだけの威力を有していた。
「これで終わりよ。セフィラーシステムネツアク始動」
いざ止めを刺さんとハミエルがセフィラーシステムを始動させ、エネルギーランスを構えて蛇型BFに近づく。
だが、蛇型BFもまだ戦闘力を失ったわけではなかったのだ。
尾が翻りエネルギーソードがハミエルに向かう。尾を牽制していたメタトロンはケテルを撃ったばかりでその動きを止めることはできない。尾は何にもさえぎられることなくハミエルへと向かう。
それをハミエルは推進力を生かしてエネルギーソードが来る前に前へと出る。エネルギーソードは六枚ある翼の一つを折ったがそれだけだった。
「もらった!」
相手の攻撃を潜り抜けたことでミリアは必勝を確信していた。それが油断につながったといってもいい。
蛇型BFの攻撃はまだ終わっていなかった。エネルギーソードが本命ではなかったのだ。
ハミエルを通り過ぎると同時にエネルギーソードは消失した。だが動いていた尾そのものはさらに勢いを増して横薙ぎに振るわれた。ハミエルに叩きつけるように。
「――――っ!」
尾とはいえそれは体当たりと同じである。しかも遠心力によって速度が上がっている分通常の体当たりよりもずっと強力な一撃がハミエルを吹き飛ばした。
「ミリア!」
アキラが叫ぶが返事がない。ただ宙を漂うだけの存在になったハミエルに向けて蛇型BFが爪を構える。
それを遮るようにミカエルとラファエルが立ちふさがると、蛇型BFは突然動きを止めた。
「?」
この戦闘の間一度も動きを止めなかった蛇型BFが動きを止めたことにアキラは驚いたが、蛇型BFはすぐに再び動き始めた。
蛇型BFは突然機体をひるがえすとミカエルとラファエルから離れていった。
エリスもロルフも突然のことに驚き反応が遅れた。そして動こうとしたとき後ろの動かないハミエルのことを思い出し、あの動きが誘っているのだと思うと動きが取れなかった。
だが蛇型BFはそのまま何かをするわけでもなく離れていき、そして突然スクリーンから姿が消えた。
「アキラ!」
そのまま離れていって見えなくなったわけではない。突然姿を消したのだ。
エリスはアキラに通信をつなげて呼びかける。アキラもその意図を察してマムクトを見るが蛇型BFの反応はどこにもない。
「だめ、マムクトにも映っていない。完全に見失った」
「……レーダーからもスクリーンからも完全に消えるステルスだというのか」
アキラからの報告を聞いてエリスが呟いた。
マムクトはコクマやイェソドに比べれば精度が落ちるが、それでも他のレーダーに比べればはるかに高性能なレーダーで精度も比べ物にならない。そのマムクトのレーダーをかいくぐり、なおかつ光学面においても消えてみせるステルスなどエリスには想像もできないものであった。例えコクマであってもマムクトから完全に消えて隠れるのは難しいし、ましてや光学ステルスまで行えるような機能はついていない。例えついていたとしても行うほどの余裕はなかったであろう。
「そんなことよりもミリアが大変だよ! いくら呼びかけても返事がないし、システムも停止しかかっているんだ!」
「なに!? わかった急いでノアまで運ぼう。ロルフ、手伝え。アキラはまだ戦えるか?」
「ちょっと難しい。もう推進剤も少ないしエネルギースナイパーライフルも限界に来ているから」
しかも数度にわたるケテルの発射でメタトロン自体も限界に来ている。今のままでも戦えないわけではないが足手まといになる可能性も高かった。
「ならばいったん全員で戻ろう。レイイチたちのことだ、上手くやるはずだ」
「うん」
三人はハミエルを抱えてノアに向けて動き出した。
その中でエリスだけが逃げて行った蛇型BFの行方を気にしていた。
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