「セフィラーシステムケブラー、第一次リミッター解除」
カマエルの背中から漆黒の六枚の翼が広がる。そしてケブラーの第一次リミッターが外れたことによりそのシステムの全てが使用可能になった。
「さて、ここからあぶりださないとな」
レイイチはロルフからもらったデータが示す場所に来ていたが目的らしき母船の姿は見えない。四十機ものBFを積んでいたのだから巨大な一隻の空母か何隻もの戦艦が待っているはずだと思っていたのだがいささか拍子抜けである。
だがレイイチの直感はそれを否定していた。だからこそケブラーの第一次リミッターを解除したのだ。
「この辺りにいるのは間違いなさそうだな。よし、ライトケブラー・フレイル」
センサーを使っての調査では変わったところは何も見つからなかった。だがそれは同時にここから何かが動いていないということでもある。
レイイチはライトケブラーにエネルギーフィールドが発生したことを確認するとロックをはずし、ワイヤーを伸ばしだした。そして腕を大きく旋回させてライトケブラーが大きな円を描く。遠心力も手伝いどんどんワイヤーが伸びていく。そしてある程度伸びたところでワイヤーをロックして伸びるの止める。
「さて、何回目で当たるかな」
投げ縄の要領でフレイルを投げる。ロックをはずされたワイヤーは溜めに溜め込んだ勢いを持って一直線に伸びていく。だがフレイルに何かが当たる感触はいっこうにやってこない。
「はずれか」
ワイヤーを巻き上げレイイチは次のポイントを探す。
レイイチもただ適当にフレイルを投げているわけではない。周囲の状況などから無意識のうちに行われる脳の情報処理によって導き出された計算である直感によっていそうな場所を五つに絞っていた。
二度目の投擲、だがそれも手ごたえがない。
再び巻き上げ三度目の投擲をしようとした時、突然殺気を感じフレイルを射出装置を用いて飛ばす。そしてすぐにワイヤーをロックし、本来ならば制動の為に使われるはずの逆噴射を停止、さらに背中のバーニアを吹かし引っ張られる方向へと加速する。
その直後一条の太い光線が通り抜けた。
直撃こそ避けたカマエルであったが余波だけでも十分すぎる威力があり、何枚かの装甲が融解した。
「そこか!」
制動をかけるよりも早くカマエルはレフトケブラー・マシンガンの銃口を光線を放ったと思われる物に向けてエネルギーマシンガンを放つ。
移動しながらの射撃だということと、相手の正確な位置がわからないということを含めて考えればレイイチの射撃能力はやはり恐ろしいものであっただろう。いくらエネルギーマシンガンが乱射可能だということを差し引いてもその難度は常軌を逸している。コクマの力を借りたライナスでも無理かもしれないレベルだ。
だが相手が悪かった。エネルギーマシンガンの弾幕にさらされたのは蛇型BFで、そのボディをくねらせて全てを避けて見せた。
「ちっ、なんだありゃ」
レイイチも初めて見るBFに意表をつかれたが、すぐにその対処法を考える。
左のエネルギーマシンガンで牽制しながらライトケブラーをクローへと切り替える。そしてそのままバーニアを吹かして距離を詰める。
蛇型BFもどうやら接近戦を望んでいるらしく距離を詰めてくる。
接近するまでの間に何発かエネルギー弾がかすめ装甲を削るがたいした効果は与えられていない。
「なるほど、こいつがアキラたちが相手をしていた奴か」
接近したことによってはっきりと見えた姿は顔の半分以上の装甲がはがれた上に煙を上げている。ボディにもかなりへこみや焦げたあとがあり、かなりの激戦であったことを物語っている。
「そんななりで俺とやろうなんていい度胸じゃねえか」
レフトケブラーもクローに切り替え、密着するぐらいの勢いで距離を詰める。そして右のエネルギークロウを振り下ろし、同じようなエネルギークローで受け止められた。さらにもう一方のエネルギークローが襲い掛かってくるのをさらに距離を詰めて腕の内側にもぐりこんで受け止める。エネルギーの爪ではなく腕の部分を受け止められたことは意外だったのか蛇型BFの動きが鈍った。そこにレフトケブラー・クローを突き刺そうとして悪寒を感じて後ろに下がる。するとそこに自分の装甲を削るのもいとわず尾のエネルギーソードが突き出された。もしとっさに退いていなければ串刺しにされていたであろう。
レイイチはそんな蛇型BFに危機感を感じたがそれ以上に別の変な感覚に襲われ戸惑っていた。
なんというかレイイチの中の何かが蛇型BFの何かに引き寄せられるような感じがするのだ。
レイイチはわずかな時間だけ自分の体の中に意識を集中させてその何かを探る。するとすぐにそれはわかった。
どこか特定の場所からではなく体全体から蛇型BFに引き寄せられている。その答えにレイイチは最悪の気分になった。敵の正体がわかってしまったのだ。
レイイチは待機状態にしてあった全ての通信回線を閉じ、なおかつ勝手に開かないようにロックをかけた。それだけ厳重に他へこれから行うことが漏れないようにした上で通信回線を一つだけ開いた。
それはアキラたちにでも護衛艦の連中に対してでもない、ノア側の人間の中ではレイイチ以外誰も知らない周波数での通信だ。
「誰、この回線に侵入してくるのは」
どこにも伝わらないはずの回線がつながり、女の声が聞こえてきた。
「てめえの目の前にいる奴だよ。おまえら何者だ?」
訊ねながらも大体の予想はついていた。だからこそ、アキラたちには知られたくないからこそ他の回線をシャットアウトしたのだから。
「へえ、この周波数を知っているなんてそっちこそ何者よ? この回線は私たちに縁のあるものしか知らないはずなんだけどね」
女の答えはレイイチにとって自分の予想を裏付けるものとしか聞こえなかった。
「おまえらバンデモニウムチルドレンか!?」
「!!」
レイイチの言葉に女が息を呑んだのがわかった。それだけで十分すぎるほどの証拠だった。
「驚いた、僕らのことを知っているなんて君は本当に何者だい?」
次に聞こえてきた声は男のものだった。別の場所からの通信だ。
「いや、僕としても大体の予想はついているよ。この周波数をしていることといい僕らだと断定した知識といい考えられる可能性は限られている。君もまたバンデモニウムに縁あるものだろ」
「まあな、俺のことを知らないってことはおまえらは第三世代か。ならば納得だな、第三世代はBFに特化しているはずだからな」
「ご名答、ですが僕らの知識にないあなたは何者ですか? これでも研究員もチルドレンも一通り把握しているつもりでしたが」
「廃棄ナンバーまでは覚えていないだろ」
「ああなるほど、あなたは第二世代でしたか」
男は廃棄ナンバーという言葉だけで納得して見せた。他の者が聞いてもわからないだろうが彼らの間ではそれは共通の知識なのだ。
「リヴァ、ここは大人しく退きましょう。いくら僕らの方が上といっても今の君の状況ではただではすみません。そちらとしても第三世代を二人も相手にできるなどと自惚れてはいないでしょう」
「ちっ」
「ちょっとベルゼ、ここで叩き潰しておいたほうがいいんじゃないの?」
図星をつかれて舌打ちするレイイチに不満そうにぼやくリヴァと呼ばれる女。ベルゼと呼ばれた男はリヴァに諭すように言う。
「ここで叩き潰すメリットはありません。それに先ほどまで見ていましたが彼は厄介だ。こちらとしても万全を期す必要がある。そしてあなた」
言うべきことは言ったとばかりにリヴァからレイイチに対象を移し、なお言う。
「あなたの能力は第二世代の範疇を超えている。あなたは危険だ。必ず次は万全を期して殺しに行きますので覚悟をしておくように」
「やれるもんならやってみろよ」
「その言葉覚えておきましょう」
その言葉を最後に通信は途切れ、戦艦が姿を現した。そして蛇型BFを収納し、この宙域を去っていった。
「たとえ第三世代だろうとアキラの敵に回るなら必ず倒して見せる」
レイイチは一人誓いを呟き、ノアに向けて進路をとった。
今記録された通信記録はノアにも戻る前にしっかりと消去して。
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