「こちらロニアス結社警備部所属大型多目的運用艦ノア、入港の許可をいただきたい」
「こちらウインディア管制室、確認した。入港を許可する。だが残念なことにこちらにはそのサイズを収納できるドックはない。悪いが係留用のアンカーを出すから指定する位置に移動してくれ」
「こちらノア、了解した」

 オマールは管制室から指定された場所に移動するように指示を出すと艦長席にもたれかかり息をついた。最初の襲撃で痛手を食らわされてから他にも二度の襲撃を受けた。
どちらもさほど強くもない程度の海賊だったがそれでもいつまたあの連中のようなのが現れるかと思うと気が重かった。その重圧からようやく一時的とはいえ逃れられたのだからしかたがないだろう。

「さて、ここの店は品揃えがいいからな、皆にも休暇を与えなければな」





 宇宙空間に浮かぶ鋼鉄の城、過酷な宇宙環境から人を守り惑星間を渡航する船の休憩所として建造された宇宙ステーション。その名をエアリアルシティという。
 エアリアルシティは五年前から建造が始まり、現在は地球ー火星間、地球ー金星間、地球ー小惑星群間の三つの航路上の物が完成しており、現在地球ー木星間上の物が建設中である。今回ノアが立ち寄ったのは地球ー小惑星群間にあるエアリアルシティ・ウインディアだ。
 そしてそのウインディアに居住区にアキラたちはやってきていた。

「こうして皆で出かけるのも久しぶりだな」
「そうですね、エリスさんが士官学校に行く前でしたからもう五年も経つんですね」
「僕とレイイチもエリスとは別の士官学校に行っていたから三人で出かけることもなかったしね」
「それ以前に街でのんびり買い物すること自体滅多になかったしな」

 ここにいるのはアキラ、ユイ、レイイチ、エリスの四人だ。交代で休暇をとることになったのでこの四人に加えてロイドも街に下りてきているはずだが別行動をとっているのでここにはいない。
「姫さん、まずはどこからまわるんだ?」
「最初は服を見に行きましょう。エリスさんとの買い物は久しぶりですから楽しみです」
「わかった、では行くとしよう」

 彼らの買い物は昔からユイが主導になって行われるのが決まりになっている。これはアキラはユイと一緒に買い物するのが楽しく、またアキラの買う物も主にユイが見立てるからだ。レイイチは二人の友人であると同時に二人が快適に過ごせるように護衛の代わりを請け負っているし、そもそも意見を挟むつもりもない。そしてエリスも基本的な生活が軍事一色で固められていたのであまり物欲もなく、あまり買い物というものをしないのでどうしてもユイが引っ張って行くことになるのだ。

「しかしよく半日も休暇が取れたな。正直下船許可まで下りるとは思ってなかったんだが」
「うん、僕も驚いたよ。でもあんなことがあったばかりだし、気分転換も必要だよ」
「まあな、まあそのことは置いておこうぜ。いくらなんでもここを襲ってくることはないだろう。ここには正規軍もいるしな」

 エアリアルシティは惑星間をつなぐ重要な中間施設なので常に一定量の軍艦が駐留しているし軍施設もある。それに海賊にとってもエアリアルシティは重要な補給地点になるので軍事行動を起こす海賊は滅多にいないのだ。

「軍で思い出したけどレイイチはメリルのこと憶えている?」
「ああ、俺らと一緒のチームを組んでいた奴だろ。いつもミリアの陰に隠れていたけど知識だけは豊富だったな。戦闘に関しては今ひとつだったが整備能力は高そうだし今頃軍独自の研究チームのテストパイロットでもやっているかもな」

 メリルというのはアキラたちの士官学校時代の知り合いで、ミリアと相部屋をしていた女性だった。レイイチは今ひとつといったがそれでも生徒達の中では上から数えたほうが早い程度の実力は持っていたし、学力試験ではアキラに続いて二位の成績を保持していた。アキラたちとは違いそのまま軍に配属されたわけではあるが精神的に少し弱いところがあるので少し心配な娘でもあった。

「そのメリルだけどここの防衛隊に派遣されているんだってミリアが言っていたよ。ミリアは休みを利用してだめもとで会いに行ってみるんだって」
「へえ、あのメリルが防衛隊か、まあ誤射はしないだろうし大丈夫か」
「ははは、レイイチから見れば下手かもしれないけど普通はあれだけできれば十分なんだよ、本当は」
 アキラ自身レイイチやミリア、今回からはエリスも含めてまともではない腕を持っているので錯覚気味ではあるが、BF歴ではベテランであるはずのライナスが普通、あるいは下の方の強さになってしまうのだから標準的な基準はもっと下にあるのだ。

「別に下手だとは思ってないぜ、ミスは少ないし射撃は正確だ。ただセオリーにとらわれすぎて実戦にはあまり向いていないとは思うがな」
「ほう、しかし基本を抑えておくことは大切だぞ」

 話の内容がBFの戦闘に関わることなので興味を持ったエリスが二人の会話に加わった。ユイも興味深そうに二人の方を見ている。

「うん、僕もそう思うよ。集団戦では個人個人があまり勝手に動くとばらばらになっちゃうからね。基本通りに動くことは大切だよ」
「じゃあレイイチさんは集団戦に向いていないんですか?」

 ユイのまっすぐな質問にアキラとエリスは返答に詰まる。だが肝心のレイイチは平然としたものであった。

「遊撃隊って手もあるな。邪魔にならない程度に勝手に暴れまわっていればいいわけだし。ただし俺についてこれる奴がいないと話にならないけどな」
「ついていって見せる」

 にやりと笑ってエリスのほうを見るレイイチに、その意図に気がついたエリスはレイイチを睨みつけてはっきりと言い切る。その様子にアキラとユイも笑みを浮かべる。

「まあ突出しすぎた力は組み込みにくいよね。少数ならいいけど大部隊にはいられても困るかな」
「なに、本人がある程度自制していれば問題にはならない。いつの時代も突出した力を持った人間はいるがそれで必ずしも問題になるかというとそういうわけではないからな」
「そうなんですな」

 ベルガー家の歴史は古い。そしてその歴史をしっかりと叩き込まれているエリスの言葉には説得力があった。

「つまりレイイチが使いにくいのは実力よりも性格が問題なのかな?」
「あ〜、その話はもう終わりにしようぜ。今はそんなことよりも買い物だろ」

 分の悪くなったと感じたレイイチは何とか話の矛先を逸らそうと三人を促した。三人もそろそろ潮時だと思っていたのでその話は止め、これから行く店の話を始めた。

「ったく、必要なら集団行動だって取れるっていうの」

 そんな様子を眺めながら小声でもらしたその言葉を聞いてアキラはそっと苦笑した。


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