「それで逃げ出してきたと」
「はっ、オレに任せておけとか言っていたのは誰だったけ?」
「うっせえ!」
小型シャトルの操縦席に腰掛けたアスモは画面に映るリヴァに吐き捨てると同様に画面に映っているベルゼの方を見る。
「だがありゃ反則だぞ。いくら第二世代でもあそこまで強いはずはないぜ」
「たしかにレイ・ソードを持ってなおかつ二人がかりで相手にならないとは予想していなかった」
「どうせ女のことばかり考えていたせいで失敗したのよ」
「てめぇ、犯すぞこら!」
「おおこわいこわい」
剥き出しになったアスモの敵意を受け止めながら、リヴァは嘲笑を浮かべながら怖がっている振りをする。それが余計にアスモを挑発するとわかっていながら。
「リヴァ、アスモを攻めるのは御門違いだよ。むしろ原因は僕の調査不足だ」
二人をたしなめるために二人の会話に割り込んだベルゼは沈痛な面持で続ける。
「実はアスモに頼んだ後良く調べてみたんだけどね、そうしたら物騒なことの出るわ出るわ終わりがない。彼、パンデモニウムから捨てられた後、合気道とか言う武術を習っているんだけどわずか三年で免許皆伝だって。そしてその一年後稽古中に師を殺している」
「はあっ!? 武術って言うのは何年もの鍛錬を重ねて身につける物のはずだろ。それをたった三年だと?」
武術というのは生物として圧倒的なまでに弱い人間が他の生物に負けないために創り上げた技の一つで、科学と並ぶ極めて重要な知の産物だ。
草食動物やその他の弱い生物が生き残る為に戦わずにすむように、あるいは常に群れで行動するように進化、成長したのと同様に、人は己の力を最大限に生かすための技巧を育て、己の力以外を使う科学を生み出した。そうすることによって人はただ弱いだけの生物からの脱却を果たしたのだ。
しかしそれ故にそれを極めることは容易なことではない。
長い時間をかけて研鑽されてきた武術と科学はたとえすでに道ができていたとしても容易に進めるものではない。先達が長い時間をかけて導き出した解を手に入れようともそれを極めると言うのは才能のある者が長い時間と多大な努力をかけて初めてなされることである。
そして武術における技術とはただ力が強いとか体格がいいなど肉体的に優れていればいいというものではない。強さと技術の習得は必ずしもイコールではない。技術とは弱い者が強い者と戦うためにあるものである。むしろ本当の強者には武術など必要ないのだ。
そして彼らはレイイチを強者として認識していた。いや彼らの知る限り第二世代とは生身での白兵戦に特化したものであり、彼らと人間を比べるのは猫とライオンを並べてどちらが強いかというようなものだ。
その第二世代が技を極めたらどうなるか、先ほど強者には武術は必要ないといったがそれはあくまでなくても強いという意味であり、ないほうがいいということではない。つまり、強者が技を極めればさらに強くなるということである。
「しかも質の悪いことにその合気道、藤陰流総合格闘合気術って言うんだけど打撃に蹴りに絞めに投げ、なんでもありの武術なんだよ」
「…………」
「…………」
二人も言葉を紡げなかった。その藤陰流総合格闘合気術というのがどれほどのものかは知らないがそれを仮にも極めている以上レベルが低いとは言えなかった。
「はっきり言って生身での戦いを挑むのは自殺行為だね。だから僕としてはアスモたちには大変申し訳ないことをしたと思っているんだ」
「い、いや、それはいいんだけどよ、さすがに予想しろって言うのも無理だし。でももう一つ、あの光についてはわからないのか?」
「仮説は立てられる。けれど正直、本当にそうだとは考えにくい」
眉をしかめて言うベルゼにアスモも気を引き締める。
「ブルームーンが高エネルギーを秘めた結晶体であることは知っているね」
「当然だろ、レイ・ソードにも使っているんだから」
ブルームーンとは人間が宇宙進出を果たしてから月で発見された青い結晶だ。その輝きと発見された場所からブルームーンと呼ばれているこの結晶には光、熱、電気などのエネルギーを内部に蓄え、特定の刺激を与えると蓄えたエネルギーを開放する性質を持っている。この結晶はフィギュアのバッテリーとしても使われており、これによってフィギュアの開発が一気に進んだのだ。
「第一世代と第二世代はブルームーンの高純度結晶を持っている」
「だけど何の機械もなくエネルギーを開放することはできるわけないだろう?」
「いや、開放そのものは不可能ではないが、制御することはできない。しかしもし制御することが可能だとすればどうなる?」
ベルゼの言うことの意味を理解した二人は息を飲んだ。もしベルゼの言うとおりだとしたならばそれこそ化物であることに違いない。
「あくまでこれは仮説だ。これまでにそれが可能だったという例はない。しかし、どちらにしろ彼と戦うならばこちらの土俵、BF戦に持ち込むしかない」
「なるほどね、たしかにそれなら負けるはずはないわね」
「ああ、あいつが白兵戦に特化しているようにオレらはBF戦に特化している。立場は逆のはずだ」
しかし意気込む二人に反してベルゼは批判的であった。
「彼を僕らより格下だと判断するのは早計かもしれないな。それに他に仲間もいる。実際リヴァは彼ら相手に痛い目にあっているから油断は禁物だね」
「おいおい、そんなんでどうするんだよ。おまえとしちゃ相手の戦力を測りたいのかもしれないけどそんなことができるのはオレらだけだぜ。だったら叩き潰したほうが早いって。それにいくらなんでもオレらが負けるはずはねえっての」
彼らの中でも参謀としての役割を持つベルゼはいささか慎重すぎるきらいがある。アスモもそれが悪いとは言わないのだがそれでもやはりその煮えきらない態度には不満に思うときがある。
だがただ慎重なだけでもないのがベルゼでもあった。
「いや、秤に関しては少し考えているものがある。できれば先にそれをぶつけてみたいんだ。でもこれは他の連中を足止めする為に君達の力が必要だから君達が協力してくれればの話だ。もし協力が得られないのであれば諦める」
そこまで言われればアスモも従うことに異存はない。別にアスモは戦闘狂ではないので他に手があるのならばそちらにしても一向に構わないのだ。
「ただ準備に少し時間がかかるから今回は無理だね。彼らが月に帰還した後仕掛けることになる」
「じゃあそれまでは放っておくのね?」
「ああ、そうしておくつもりだ」
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