積荷を載せたノアはウインディアを出向した後も一度海賊らしき船に襲われたが、それ以外は特になく、無事に積荷を月まで運ぶことに成功した。
「これで任務は終了です。皆さんお疲れ様でした」
作戦室に集った九人に向かってオマールが任務の終了を継げた。ここから先は陸路を使って各研究所に資材を運び込んだり、地球にある工場に荷物を降ろしたりするのでBFの出番は少ない。よってノアに任された任務はここで終了となる。
「各研究所に運ぶ際の警備は大丈夫なのか?」
レイイチがオマールに訊ねた。ここまで運んでおいて強奪されましたでは気が治まらない。必要ならばレイイチも警備につくつもりだ。
「大丈夫です。そちらにはチーフを指揮官として警備をするそうですから」
「なるほど、グレッグがいるなら大丈夫だろ。でもとりあえず警備体制は普段の倍で臨むように伝えておいてくれ」
「わかりました」
レイイチはウインディアで会った連中が襲撃してくるかもしれないと危惧していたのだがグレッグがつくのならば大丈夫だろうと判断した。たとえレイ・ソードを持っていたとしてもグレッグは怯むような奴ではないし、訓練を受けたプロの警備隊が数を持って相手をすればまず勝てる。連中は身体能力という点では常人よりもちょっとばかし上という程度にすぎないのだ。
「とりあえずしばらくは大きい任務はないと思いますから通常の業務に戻ってください。それと今回の任務を機にエリス様以下四名は正式にユイ様の下に配属されます」
「これからはエリスさんも一緒ですね」
「そうなるようだな」
エリスと一緒にいられることが嬉しいようでユイは笑顔を浮かべる。
「じゃあ歓迎会をしましょう」
「あ、それいいね。やろうやろう」
「そうだな」
ユイの言葉にアキラも乗った。もちろんレイイチも賛成する。
「なんか今さらって感じだけどね」
「いいんじゃねえか別に」
ミリアとライナスも嫌ではないらしい。
「では決定ですね」
第九研究所に戻った一行はさっそくホールを飾り付けて歓迎会の準備をした。
「なあ姫さん」
「はい」
「あれは何だ?」
「垂れ幕ですよ」
「それはわかるんだが、書いてあることがちょとな」
レイイチの目線の先にはエリスたち四人の名前と『ようこそエデンズガーディアンへ』と書かれた幕が壁にかけられていた。
「エデンズガーディアンって何だ?」
「私たちの部隊名です」
「確か俺の記憶だと警備部特殊任務部隊という名前だったような気がするんだが?」
「はい、ですけどそれじゃあわかりづらいだろうということでエデンズガーディアンという通称を使うことになったんです。お爺様が考えてくださったんですよ」
「へえ、あの爺さんがね」
レイイチは微妙な笑みを浮かべ、ユイの祖父のことを思い浮かべた。
「レイイチさん?」
その様子が気になったのかユイが心配そうにレイイチを見る。それに気がついたレイイチは苦笑を浮かべ言った。
「いい名前じゃん」
「はい、私も気に入っているんです」
「ユイ、レイイチ、話していないで手伝いなさい!」
のんびりと話している二人を見て飾り付けをしているミリアが二人に向かって叫んだ。それを聞いてレイイチとユイは顔を見合わせ、互いに苦笑を浮かべて手伝いに戻った。
歓迎会にはパイロット八人とユイの他にノアのクルーや整備士たちも加わって大盛況だった。適度にアルコールも入り皆騒いでいる。
ただその中でレイイチは少し離れたところで騒ぐアキラたちを眺めていた。そしてその横には事務仕事を切り上げて参加したオマールがいた。
「いいんですか、こんなところにいて?」
「別にかまわないさ、みんな楽しそうだしな」
グラスを傾けてワインを流し込む。空になったのを見計らってオマールが新たなワインを注いだ。
「あなたも混ざってくればいいではないですか。ほら、あそこでエリス様がさっきからこちらをちらちらと見ていらっしゃいますよ。レイイチ様のことが気になるのでしょう」
「実はあんまりそういう気分じゃなくてな」
レイイチも当然エリスのことは気がついていた。だがそれをあえて黙殺して混ざろうとはしなかった。
「なあ、今の状況で姫さんの警備に回す余裕はあるか?」
「…そうですな、多少ならあります。それに一週間もすればチーフの護衛任務も終わりますからその後は問題ありません」
「そうか、じゃあその後一週間ほど休みを取らせてくれ」
それを聞いてオマールは怪訝そうな表情を浮かべた。代わりの護衛を頼むということはレイイチがユイのもとから離れるということだ。それ自体はおかしなことではない。本来レイイチが守るのはユイではなくアキラだ。だからアキラが一時的にユイから離れるときは一緒に離れていく。だが今回はそういうわけではない。アキラもここに残ったままレイイチだけ長期の休みを取ろうとしているのだ。
「ちょっと久しぶりに墓参りをしようと思ってな」
オマールの考えていることに気がついたレイイチはそう理由を付け加える。それを聞いてオマールも納得した。オマールもレイイチとの付き合いは長い。だからレイイチの抱える事情もアキラやユイと同じくらい知っている。その墓参りが誰の墓かも、なぜ一人で行こうとするのかも。
「わかりました、そちらのほうはこちらで手配しておきます」
「わりぃな」
レイイチはオマールの手からワインのボトルを取ると、オマールの持つグラスに注ぐ。
「いえいえ、おきになさらずに」
しかし平然と受け答えているオマールだったが、その頭の中では一計を案じているのであった。
それから十日ほど過ぎたあと、地球に下りるシャトルの中で眉を顰めているレイイチとわずかに頬を緩ませているエリスが座っていた。
「重ねて問うがなんでおまえがここにいるんだ?」
不機嫌そうな気配を隠そうともせずにレイイチが隣に座るエリスに言う。
「別に私がいつ休暇を取って地球に降りようと構わないではないか」
「そうかよ」
必死に隠そうとしているようだが隠し切れない喜びが頬を緩ませているエリスを見てレイイチは冷たく対応した。だがエリスはそんなことは気にしなかった。エリスの頭の中はこの一週間レイイチと一緒にどう過ごすかでいっぱいだった。その様子を見てレイイチとしてもけして気分が悪いわけではなかったが、今回ばかりは都合が悪かった。
「ったく、オマールの奴」
これを仕組んだであろうオマールに悪態をつきつつ、レイイチはこれからどうするかを考え、エリスはずっとついてくるんだろうということを考え、覚悟を決めた。全てをばらす覚悟を。
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