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「さて、今回の召集はレイイチ君の要請だったな。ならばまずは報告を頼む」
「ああ」
アドレーに言われてレイイチは立ち上がり、持ってきていた鞄の中から四束の書類を取り出し、うち三束をそれぞれ、アドレー、カナエ、ユカリの三人に渡した。突然参加が決まったエリスの分は用意できなかったので、隣に座っているカナエに一緒に見せてもらう。
「先日まで俺はノアでレアメタルの運搬任務にあたっていた。そして最中に何度か海賊による襲撃を受けたが、その中に通常と異なるBFがあった。二枚目の書類を見てくれ」
ページがめくられてエリスは心臓が跳ねた。そこに描かれていたのは間違いなくかつて自分が戦った蛇型BFだった。
「このBFはその形態から便宜上蛇型BFと呼んでいる。この蛇型BFと交戦したのはアキラのメタトロンとエリスのミカエルだ。この二機でかかっても苦戦を強いられる相手だった。詳しい戦闘状況は五ページ目に記してあるからそっちを見てくれ。先に要点だけを説明しておくとこのBFは二人を相手に互角に戦い、さらにハミエルとラファエルの二機の援軍を加えても撃退にいたらなかった。さらに言えば敵が撤退時に行った攻撃によってハミエルは大破した。整備士たちによると修理するよりも新しく作ったほうがいいそうだ。現在メインブロックの製造と改良にはいっている。早くても二ヶ月はかかると見たほうがいい。
七ページを見てほしい、ここにはハミエルの被害状況が書いてある。五ページの戦闘状況とあわせてみて気がついたことがあったら言ってほしい」
このあたりはすでにエリスは知っていることだ。気になるところといえばやけにハミエルの被害が大きいことぐらいだ。そしてそのことには他の三人も気がついていた。
「被害がずいぶん大きいな、エリスちゃん、その場にいたみたいだから尋ねるがそれほどの威力のある攻撃に見えたのかい?」
「いえ、あくまで一種の体当たりに近いものです」
「少なくともフレームやコクピット周りにまで被害が出るような攻撃ではなかったということか。報告を見る限りデータリンクによるハッキングやウイルスによる攻撃でもなかったようじゃな。となるとなぜ外装が無事で中がやられていたのかということになるな」
「まるで拳法の浸透勁だな。そういえば昔これと同じような被害になる兵器の理論を見たことがあったな。どいつの研究だったか」
沈黙が降りる。四人の表情は真剣そのもので、アドレーの額には汗が流れている。この場はけして暑くはない。快適な環境を保っているこの部屋で流れているその汗は脂汗だった。
「まさか、そういうことなのか?」
その問いはレイイチに向けられたものであったようで、レイイチはそれを受けて頷いた。
「俺はその時敵母艦を探していた。そして見つけた時にちょうど蛇型BFが逃げてきたときだった。その時に交戦したがすぐに共振があった。そしてコンタクトを取ってみたところ通信に出たのは二人、それぞれベルゼ、リヴァと名乗っていた。そして、第三世代だとも言っていた」
再び沈黙がおりる。だが今回のは先のに輪をかけて張り詰めた空気が流れていた。アドレーもカナエもユカリも手に力を入れすぎて書類に折り目ができてしまっている。エリスにとっては共振や第三世代と言ったよくわからない事もある説明だったが、なにより敵に通信をしていたと言う点に驚いていた。
「……まさか、連中だと言うことか」
「振動系兵器に戦闘機能に特化したBF、アキラにエリスちゃんを相手にしてなお大丈夫な実力、そしてレイイチさんが感じた共振、これだけの証拠がそろってしまっては断定せざるを得ないのではないでしょうか」
「バンデモニウムが動いているというのか……」
エリスには彼らが何を話しているのかよくわからなかったが、どうやら敵のことについて何か知っているということはわかった。だがそうだからこそわからなかった。
アドレーがこの場にいるのはわかる。隠居したとはいえ世界に名だたる大物だ。むしろ突然の引退もその敵に備えるためだとすれば納得がいく。レイイチも昔からアキラとユイの護衛をしていたからその経緯でアドレーからそれとなく言われていたのかもしれない。だがなぜ一介の主婦にすぎないユカリやカナエがそれを知っているのかがわからない。
「さらに言えばウインディアでも二人の第三世代と会った。こっちは生身での戦闘を挑んできたから蹴散らしたがどちらもとどめは刺し損ねた。それとその二人はアスモとベルフェと名乗っていたし、レイ・ソードを持っていたからまちがいない。さらに言えばノアとの合流以前にあった海賊の鎮圧任務の時に殺されていた海賊たちをやったのもそいつらだ」
「バンデモニウムが動いているのは間違いないということか」
ウインディアでの戦った相手というのがあの時自分たちをつけていた二人だということはエリスにもわかったし、海賊の鎮圧の時に海賊が全滅させられていたこともデータを見て知っていた。また、その際に使われたであろうブレード状に固定されたエネルギー兵器についてもきいていた。だがその報告ではそれを行った犯人グループは少なくとも五人以上のはずで、たった二人でできるはずがないのだ。
「向こうも俺が第二世代だということは気がついている。だからこの先やつらが俺の周りに現れる可能性は高い。今回の召集はそれに備えてどうするのかを話し合いたい」
(レイイチが第二世代?)
エリスはその響きに不吉なものを感じた。今自分がレイイチに関することで、自分の将来に関係することで何か重要なことを言われたような気がした。心を不安が占めていく。何かの終わりが近づいてきていることを感じていた。
「待て」
だから声を出さずに入られなかった。
「私にはさっきからお前たちが何の話をしているのかがわからない」
言ってはいけない、尋ねてはいけない、聞いてはいけない。そうわかっているのに止めることはできない。
「最初から私にもわかるように説明してくれ」
だがそれでも尋ねずにはいられなかった。
「バンデモニウムとか第三世代とか、それにお前が第二世代というのはどういうことなんだ!?」
たとえそれが何かを決定的に変えてしまうのだとしても。
そしてレイイチは一瞬だけ顔を歪め、そしてすぐにすべての表情を消した。
「バンデモニウムというのはとある目的の元に存在している極秘組織だ。そこの研究のひとつに人体の研究もある。その研究で造られた人間をバンデモニウムチルドレンという。やつらはその研究所で作られたヴァージョンVだから第三世代。そして俺はヴァージョンUの第二世代」
それは悪夢の到来を告げる悪魔のささやき、終わりのラッパを鳴らす天使の言葉。
「俺はバンデモニウムで造られた生体兵器なんだよ」
そして悪夢はやってきた。エリスの元に絶望を持って。
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