「レイイチ君、エリスちゃん」
第九研究所に着いてパイロットスーツに着替え、格納庫に向かっていた二人を通路に出てきていたアイザックが呼び止めた。
「こっちこっち、準備はできているからすぐに出れるよ」
「サンキュ、ドクター」
「ありがたい」
二人はすぐに方向転換してアイザックの言う方へと走っていく。その二人を先導するようにアイザックもまた走る。アイザックは二人よりもわずかに劣る程度の速さで走っており、二人としてもさほど速度を落とさないですむのは喜ばしいことだった。
「ここだよ、後はカタパルトに乗せるだけだから早く乗って」
「わかった」
エリスはすぐにミカエルの脇に止められたリフトに乗り、コクピットへと運ばれていく。
だがレイイチはすぐには動かなかった。
「レイイチ君?」
「レイイチ?」
アイザックもエリスもレイイチの様子がおかしいことに気がついた。見た目どこが変というわけではない。だがここまで急いでいてまだカマエルに乗らないことそれ自体がおかしい。
「エリス、俺は少しやることがある。先に行ってくれ」
「…わかった、遅れるなよ」
「ああ、俺の分も残して置けよ」
「約束はできないな」
エリスはレイイチに見送られながらミカエルに乗り込んだ。そしてミカエルはカタパルトへと移されていく。
レイイチはそれを見送ってからようやくカマエルのもとへと移動した。
「ドクター、カマエルのことでおかしなことはなかったか?」
「おかしなこと? 特に異常はなかったけど……それでもあえて言うならば多少だけどエネルギーの消費量に余分があることかな。誤差の範囲内だからあまり気にしていないけど、出撃するたびに少しずつ誤差が大きくなっているような気がするよ」
「だったら問題ない」
レイイチはカマエルのもとへ行ったものの乗り込む気配はなく、カマエルの背面を自力で登っていく。
そして、数時間前にやったようにエネルギーソードを創り、左手を切り裂いた。そしてカマエルのバックパック付近にある装甲の整備用ハッチを開け、中に詰まっているコード群の中に手を入れ、流れ出る血を流し込んだ。
アイザックはその行動を呆然と眺めていることしかできなかった。
「せいやぁ!」
両手にエネルギーソードを構えたハミエルがアスモデウスに切りかかる。その動きは今までのハミエルよりも素早く、無駄がなかった。
蛇型BFとの戦いによって破壊されたハミエルは今までのデータを元に、アイザックが要請して前任務の最中から第九研究所に連絡して製造を開始してもらっていた新型のハミエル改として生まれ変わった。このハミエル改はミリアの動きや癖に合わせた設計がされており、今まで以上に関節部の柔軟性を引き上げてある。また、以前はセフィラーシステムを使用中でしか使えなかった特殊ブースターも普段から使用できるようになっており、それにともなうエネルギー不足を補うために小型ジェネレーターを増設してあり、今まで以上の加速性能と、エネルギーの増加に伴い、シールドの出力もまた上げられていた。
切りかかるハミエル改に対してアスモデウスは真ん中の両腕から青白いエネルギーソードを生み出し、受け止める。
「くっ」
「どうやら出力はこっちの方が上みたいだな女、たっぷりなぶってやるから喜べよ」
「ふざけんじゃないわよ!」
エネルギーソード同士のぶつかり合いに力負けをしているハミエル改であったが、二機の間には大きな違いがあった。それはパイロットの持つ技能というものだ。
ミリアは相手のエネルギーソードの方が上だと見るやいなや力を受け流し、再び切りかかる。
受け流されたアスモデウスはそのせいで体勢がわずかにずれた。しかし片方の一撃を残ったエネルギーソードで受け止めるともう一撃は新たに下の左腕からエネルギーソードを伸ばして受け止めた。
「残念だったな、こっちには腕が六本あるんだよ」
「ちっ」
続く上の右腕の一撃を後ろに下がって避ける。すでにアスモデウスは六本の腕全てにエネルギーソードを生やしている。そして六本の腕を駆使して連続攻撃を仕掛けてくる。
ハミエルは二本のエネルギーソードを使って攻撃を捌き続けるがどうやら単純なBFの性能としてもアスモデウスの方が上のようで動きに差が出てくる。単純なパイロットの技量という点ならばミリアの方が上かもしれないが機体の性能差と六本の腕というアドバンテージの前では多少腕が良かろうとそれだけでは防ぎきれない。
体勢が崩れたところを狙って放たれたアスモデウスの一撃を捌くことなく正面から受け止めその反動を利用して多少の距離をとって体勢を立て直す。
だがそのわずかな時間さえも向こうは許してくれず上の両腕からエネルギーソードが消えて代わりにエネルギー弾を放ってくる。どうやらあすもでうすの腕はエネルギーソードとエネルギーガンの両方の機能を持ち備えているようだ。
飛んでくるエネルギー弾に対してハミエルは左腕のエネルギーシールドを展開させて防ぐ。出力の上がった今のエネルギーシールドならばドミニオンのキャノン砲にだって耐えられる自信がある。
案の定エネルギー弾はエネルギーシールドの触れてはじけ飛んだがすでにアスモデウスは距離を詰めてエネルギーソードを振り下ろしてきた。
だがそれさえもハミエルはエネルギーシールドで弾く。それによって一気にエネルギーが消費していきジェネレーターに負荷がかかるがしかたがなかった。わざわざエネルギーソードで払うほどの余裕がなかったのだから。
しかしミリアのとっさにシールドで防いだ判断はそれ以外の結果も導いた。エネルギーソードを弾かれたアスモデウスはさらに攻撃を加えようとしたところを左から飛来してきた散弾のシャワーに襲われたからだ。それによって受けた被害は三つの左腕にわずかに損傷を負っただけだったが注意を引くには十分すぎた。
「今だ」
その掛け声を聞いてミリアはすぐさまアスモデウスへの攻撃を再開した。ハミエルから注意の離れていたアスモデウスはそれを完全に避けきることができず右腕の一本が肘から先を切り落とされてしまった。
「ミリア、オレが援護する。二対一ならば何とかなるはずだ」
右腕の一本を切り落とされたアスモデウスがハミエルから距離をとると逆にハミエルの傍にラグエルが寄ってきた。ラグエルはバスターライフルのアタッチメントをショットガンから通常の物へと切り替え全ての弾を吐き出したショットガンパーツをバックパックに収納した。先ほどの散弾はハミエルがシールドを構えたのを見たライナスが援護の為に撃った物だった。
「ありがとう。さあ、レイイチたちが来るまでに一機でも落としておかないと後がうるさいわよ」
「たしかに、これ以上でかい面されたくはない」
バスターライフルを構えるラグエルと二本の高出力エネルギーソードを構えるハミエル。この二機と慎重になったアスモデウスの戦いは二人の願いとは裏腹に長期戦へともつれ込んだ。
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