エリスがセフィラーシステムを作動させたのを見たベルゼは気を引き締めた。もちろん自分が負けるとは思っていないがだからといって楽観できるわけではない。たとえどんなに有利な状況であったとしてもわずかな油断と偶然によって敗北することはある。とくに偶然というものはベルゼにとって鬼門だった。
 ベルゼブブのステルスはあくまで見えなくなっているだけで当然のことながら消えたわけではない。そこに存在している以上は何かの偶然で攻撃を受けることもあるのだ。

 そしてもう一つ、ミカエルのセフィラーシステムがどのようなものかわからないということもベルゼが気を引き締めた理由だ。たとえばハミエルやラファエロのような接近して使うタイプならばこちらの射程距離ぎりぎりから仕掛ければ受ける可能性はほとんどなくなる。ラグエルやガブリエルのような情報を集めるタイプは厄介だがその分威力にかけるので偶然当たった程度ではやられない。そしてメタトロンのような高出力の長距離射撃タイプがもっとも厄介だ。何のきっかけで当たるかわからないし、当たれば一撃で落とされる可能性が高いからだ。だからベルゼとしてはそれが何か見極めてから攻撃に移りたいのだ。
 だがミカエルに動く気配はない。完全に待ちの体制に入り、後の先を取るつもりのようだ。

(しかたありません、今後のためにもしかけましょう)

 ベルゼにとって本来この戦いはレイイチが来るまでのつなぎである。相手を落とすつもりも特にないのでこのまま時間を稼いでいてもいいのだ。だがそれでもいざという時のことを考えるならば少しでも情報は集めておいた方がいい。特にミカエルのセフィラーシステムに関してはベルゼは何も掴んでいない。この機にそれがどういうものか判れば後々対策を練りやすくなるのだ。

 ベルゼはミカエルの後方やや下に回りこんだ。そして攻撃の為にステルスを解除してエネルギーガンの引き金を引いた。
 エネルギー弾はミカエルがとっさに横に動いた為に装甲を掠めた程度で通り抜け、装甲にはわずかな焦げ目がついた。

(使わない? 今のは攻撃のタイミングをわずかに遅らせたから反応できたはずだ。それなのに攻撃してこなかったのはできなかったからか? となるとあれは武器ではないのか? いや、そんなことはないだろう、となるとこちらを完璧に捉えられるタイミングを狙っているのか。だがそうなるとあれには一撃でこちらを倒せるだけの力があるというわけだな)

 再びステルスを作動させたベルゼは冷静にエリスとミカエルを観察し、考察する。

(このまま続ければ間違いなく負けない。だがその場合はあれが何かわからない可能性が高い。さて、危険を冒してみるべきか否か)

 用は自分と相手の能力をかんがみた上で自分を信用できるか、そしてその結果得られる情報にそれだけの価値があるのかということだ。考えた結果ベルゼは危険を冒すことにした。エリスの技能は強力だ。いかに第三世代といえども軽々しく相手をしていい相手ではない。とことん戦闘に特化したリヴァイアサンでさえ二人がかりとはいえ傷を負わせていたのだ。しかもその時にはセフィラーシステムを使っていない。つまりそのときよりも強いと見るべきなのだ。ならば危険を冒すだけの価値はある。そしてベルゼは自分ならばミカエルの切り札が何であれ凌ぎきれるという自信があった。



 エリスはかわせなかった、反撃できなかったことを悔やんでいた。先ほど相手の攻撃を回避できたのは相手が姿を現した瞬間にロイドが教えてくれたからだ。結局自分の力で何とかできたわけではない。だがそれでもエリスは構えをくずなさない。まぐれでも何でもいいからどうにかしなければ今の状況を何とかできないのが判っていたからだ。ロイドの協力を得たところで倒すには至らないのだ。
 二度、三度と同じことが繰り返された。だがそれでもエリスはかろうじて避け、相手の出だしを掴もうとしていた。

 だが突然背中に寒気が走り、そしてすぐ傍にベルゼブブが出現した。

「何!?」

 今まで離れたところからしか攻撃してこなかったベルゼブブが突然攻撃方法を変えてきた。エネルギーガンではなくエネルギーソードを持ち、切りかかってくる。
 今まで離れたところからしか攻撃してこなかったのは臆病だからでもなく慎重だからでもなくただ単純に近づくのが危険だからだとエリスは理解していた。いかに優れたステルスだろうとエネルギーの関係上エネルギー系武器と同時に併用することはできない。そのためにエネルギーの刃を伸ばし、切りかかるという二つの動作が必要な攻撃は反撃を受ける隙になる。それならばエネルギーガンで攻撃していくるのは当たり前のことだ。
 だがそれを無視して今ベルゼブブはエネルギーソードで切りかかってくる。その突然の攻撃にエリスは反応――――していた。

 ベルゼブブが出現する直前、背中に寒気を感じた瞬間からエリスは反射的に動き始めていた。両肩、剣の柄にエネルギーが送られ、今まで使われなかったその力が解き放たれた。

 両肩から現れたのは光り輝く一対のエネルギーの翼
 剣の柄から延びたのは戦艦さえも断ち切らんばかりの巨大なエネルギーの刃

 ミカエルは剣の柄をしっかりと握り締め、身体をひねる。
 咄嗟にベルゼブブはエネルギーソードで防ぎながら逃げだした。だが身体をひねりながら斜め上へと切り上げるように振られた巨大なエネルギーの刃はたやすくエネルギーソードを切り裂き、そしてベルゼブブの翼の片方を切り落としていた。さらにそのまま一回転したミカエルの光輝く翼が切り落とされて翼とぶつかり焼き尽くした。この翼も高エネルギーの塊でできた立派な武器だったのだ。

「ははは…はーっはは」

 ステルスと同時に切られていた通信回線がつながり、ベルゼの笑い声が響いてきた。

「まさかそんな隠し玉があったとはね、やられたよ」
「これでそちらのステルスは潰した、ここまでだな」
「ここまで? それは違うよ、これからようやく始まるのだからね。ほら、君達でももう掴めているだろう、彼の反応を」
「!!」

 エリスは言われてから初めてそれに気がついた。つい先ほどまでレーダー何で相手の位置を掴むのに夢中で全く見ていなかった気がつかなかったがたしかにレーダーは新たな二つのBFを捉えていた。その一つは今まで待ち望んでいたレイイチのカマエルの反応だった。




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