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間に合わなかった。それがそのBFを視界に捕らえたレイイチの最初に思ったことだった。このBFが来る前にここにいる敵を倒しておきたかったのだ。
別にこのBFが特別強いわけではない。ただでさえ本気で戦っても勝てるかどうか判らないのが複数いると本当にてにおえないからだ。エリスたちは二機のBFを簡単に倒したことからレイイチの方が強いと思っていたがレイイチにとっては違う。レイイチは自分が勝てた理由を理解していた。それは彼らが本気であっても全力ではなかったからだ。その証拠にブルームーンに蓄えられた力を彼らはレイ・ソードという形で部分的に使用しているにすぎない。レイイチと同じようにその身一つで使うとはいかなくてもそのための装置が積まれていることは間違いない。つまり本来ならばレイイチが今していることを彼らもできるはずなのだ。
勝てた理由はそれだけではない。単純に彼らの技量がつたなかたっということもある。ミリアとの接近戦で六本の腕を使いながらも互角以上にはなれなかったのがその証拠だ。
だが今目の前にあるBFのパイロットは違う。アキラをろくな抵抗もできないまま倒した奴かもしれないのだ。レイイチやエリス、ミリアの影に隠れて目立たないがアキラも格闘技の腕前はかなりのものだ。もともとベルガー家は軍人の家系なのでアキラも多少の訓練はしていたし、レイイチと出会ってからは時々レイイチから習ってもいた。軍学校時代もアキラに勝てるのはレイイチを含めてわずかだった。そのアキラを倒した以上はそれなりの実力があるということなのだ。
そして何よりレイイチの本能が告げているのだ、こいつは危険だと。
「なんだあれは!?」
エリスは現れたBFを見て声を上げた。そのBFはドミニオンサイズのミカエルよりもさらに一回り以上大きなBFだった。先に鋭利な爪を持つ二本の腕と二本の足を持ち人型に近いともいえるがさらに後ろには尾が生えていた。そして顎部は可動式になっているようで半開きになっており、そこから鋭利な牙が並んでいるのが見える。それはさながら古代にいたとされる凶暴な肉食の恐竜のようであった。それと同時にどこかで見たことがあるような気もした。すぐに苦い思い出と共に思いついた。どことなく蛇型BFと雰囲気が似ていたのだ。
「あれはベヒモス、今回用意したこちらの趣向だったんですがね」
通信がつながったままだったベルゼが答えた。
「もともと今回は彼の調子を見る為に仕掛けたのですが……まさかここまで被害が大きくなるとは思ってもいませんでしたよ。残念ですが今回はここで退かせてもらいます」
「逃がすと思うのか?」
たしかにベヒモスとかいうBFの事は驚きだあったがここでたやすく逃がしてやるほどエリスは甘くない。レイイチとベヒモスの事はひとまず置いておき、刃の消えた柄を構える。ティファレトは膨大なエネルギーを消費するので瞬間的にしか使えない。だがその分ケテルと違いチャージに時間をかけることもないので連続使用も行えるようになっているのだ。
「逃げる事はできますよ。なぜならば私のステルスはまだ残っているからです」
「何!?」
翼を左右に大きく広げるベルゼブブを見てエリスはおかしなことに気がついた。
「なぜ切り落としたはずの翼がついている」
そしてなぜか左腕の肘から先が消えている。
真っ先に思い浮かんだのは再生能力。そんな機能が実在するなどという話は聞いたこともないがバンデモニウムの技術は世界のずっと先を言っているのだからありえなくもない。だがいくらなんでも翼の半ばまでを消滅させられたのがこの短時間のうちに直るというのはあまりにおかしい。
「さあなぜでしょう? 答えは教えられません。さあベヒモス、退きますよ」
すぐにステルスを使えるようにしてベヒモスを呼んだのだが、なぜか返事が返ってこなかった。
「どうしましたベヒモス?」
「……うるさい」
「はい?」
本来ならば指揮官である自分に逆らうはずのないベヒモスの言葉にベルゼは呆気に取られた。
「敵がそこにいる。俺の敵がそこにいる。俺の中のものが言っている、こいつを倒せと戦えと。俺が最強になるためにはこいつを倒さなければならないと。そうだ、俺が最強だ、最強なんだ。サタンを殺して俺が最強となるんだ!」
「くっ!」
繋がったままの回線からベルゼを経由して聞こえてきたベヒモスの叫びにエリスは圧倒された。この敵は今まで戦ってきた敵とは何かが違う。ベルゼたちの仲間である以上はバンデモニウムチルドレンなのだろうが、今まで相対した者とは明らかに異なっている。ベルゼたちは理性的であり、落ち着きを見せていた。唯一例外といえるのはアスモがレイイチに向かっていたっときだろう。だがベヒモスからは理性的なものではなく狂気じみたものを感じる。
「…こいつは何なんだ?」
背筋が凍る。それは本能的な恐怖。蛇型BFやベルゼブブと相対したときでさえこんな恐怖は感じなかった。だがベヒモスからはそれを感じた。関わるなと本能が警鐘を鳴らしている。
「レイイチ、そいつは危険だ!」
「サーターンー!」
エリスがレイイチに回線を繋げようとするとベヒモスの雄叫びが聞こえた。そしてベヒモスのBFもカマエル同様に青白い光が全身を包んでいく。
「死ね――!」
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