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 振り下ろされた爪を左腕が受け止める。腕を覆う光と爪を覆う光がぶつかり合って互いを弾き飛ばす。
 危険だということはすでにわかっている。そしてベヒモスの反応と防いだ時に感じたブルームーンの共振から一つの結論が導きだされた。本当のことを言えば最初見たときから予想はついていた。そしてベヒモスという名前がその予想を後押しする。

 距離が開いたところで牽制のためにエネルギー弾を放つ。そしてすぐさま距離を詰めてエネルギーランスを突き刺す。
 最初のエネルギー弾をかわしたベヒモスは強い光を纏った尾を振るいエネルギーランスにぶつける。再び高エネルギー同士がぶつかり合い、バランスが崩れた。
 突如ベヒモスが顎を広げくとその先から青白い光が飛び出して生きた。口から放たれたエネルギー弾はカマエルの右腕肘関節を撃ち抜いた。

「くっ」

 完全に体から切り離された右腕をエネルギーの膜が覆い、外皮の代わりをして無理矢理繋ぎ止める。

「くっくっくっ、さすがはサタンだ」

 ベヒモスの楽しそうな声が聞こえてくる。ベヒモスも右腕の手首の先が完全に消滅している。右腕をやられる直前にレイイチが放ったカマエルのエネルギー弾がベヒモスの右手を吹き飛ばしていたのだ。

「さすがは第二世代だ、雑魚とは違うな」
「第二世代はお互い様だ、セカンド・リヴァイアサン」

 レイイチの言葉にもはや見ていることしかできなかったエリスたちが息を呑んだ。レイイチがバンデモニウムチルドレンだということは当人たちを除けばエリスしか知らないことだ。ここにいる仲間たちの頭の回転は鈍くない。すぐに思い当たってしまうかもしれない。
 だがそれよりももっと衝撃が大きかったのはレイイチが相手のことを第二世代と呼んだことだ。それはつまりこの敵はレイイチと同じころに生まれた、レイイチと同じぐらいの強さを持つものだということだ。

「さすがに気がついたか。そうだ、俺は確かにセカンド・リヴァイアサンだ。だがそれはあくまで昔の話だ。今の俺は第三世代としての改良を加え、第二世代と第三世代の能力を併せ持つ最強の特別種だ」
「白兵戦に特化した第二世代の身体能力と第三世代のBF操縦能力か。なるほどな、たしかにたいした話だ」

 誇らしげに語るベヒモスに対してレイイチは異様なほど冷静に言葉を紡ぎ、そして不敵に笑った。

「それでもこの程度なのか?」
「何!?」
「俺と同じ第二世代としての強靭な体を持ち、第三世代としての能力を手に入れてもそれを使いこなせるだけの力がないんじゃ宝の持ち腐れだな。その程度じゃ俺には勝てねえ――よ!」

 千切れた右腕をエネルギーの膜に包んだままベヒモスに向けて飛ばす。ベヒモスも回避しようとするが右腕はそれを追う様に向きを変えていく。

「くっ」

 避けられないと判断したベヒモスは左の爪で右腕の拳を受け止める。だがそれこそレイイチの思う壺であった。
 ライト・ケブラーからエネルギーランスが伸びる。ランスはベヒモスの手を突き破り肩をも貫き通した。

「同胞として特別待遇だ。これで終わらしてやるよ。レフトケブラー・モードフリー」

 レフト・ケブラーが七つの機能のどれでもない形に変形する。それは戦闘用ではなく整備するために用意されていた形態。全ての武装へのラインを開放することで整備のために変形させる手間を省くための機能だ。当然全ての武装が起動できる状態ではあるが、エネルギーを送ることができないためにどの武器も使うことができないという状態でもある。だがそれは裏を返せばエネルギーを送ることさえできれば全ての武器の連続使用さえも不可能ではないということでもある。そして今のレイイチはそのエネルギーの流れさえも操作することができる。

 レフト・フレイルが放たれてベヒモスに絡みつく。そしてエネルギークローが腕を引き裂く。
 引き戻された右腕がよりいっそう強い力を纏いだす。
 あまりの高エネルギーにカマエル自身の融解が始まった。特に右腕はもはや高エネルギーの塊そのものへと姿を変えてしまっている。

「しっかりとその目に焼き付けろ。これが俺の、サタンの――」

 ワイヤーが引き戻されカマエル自身も前へと進む。

「ふざけるな――!」

 ベヒモスも体勢を立て直し、尾からエネルギーソードを伸ばして自分から距離を詰めていく。

666(ナンバーオブビースト)だ!!!!」
「死ねーーーー!!!」

 二つの機体が交差する。否、真正面からぶつかり合う。カマエルの右腕とベヒモスの尾が相手を貫く為に突き出される。
 互いの攻撃が相手の身体を貫き装甲を砕く。ベヒモスの尾はカマエルのコクピット脇を貫きコクピットを剥き出しにする。そしてコクピットこそ貫けなかったがその横から奥へと進み、ジェネレーターやブルームーンを砕く。またカマエルの右手は的確にベヒモスのコクピットを貫き胴体を突きぬけ背中から右腕を生やしていた。

「ごふっ」

 下半身を失ったベヒモスが血を吐き、ヘルメットを赤く染める。この状態でまだ生きているのが不思議だが、命が尽きるのも時間の問題であろう。

「おまえは第二世代の身体に第三世代のナノマシンを打ち込んだ。だがその結果生まれたのは最強なんかじゃない。どちらとしても中途半端なだけの存在だ。それじゃあ俺にも奴らにも勝てないんだよ」

 互いの通信機は壊れてしまっているためその言葉は誰にも届かない。しかしベヒモスは自分に向けて何かを言われているのを理解していた。そして、互いにコクピットが剥き出しになった為に肉眼で確認できるレイイチの姿を、表情を見て自分という存在を哀れまれているのだと感じた。意外なことにそうされることにたいして不満はなかった。むしろどこかで安堵していた。

「俺は結局おまえに勝てない。そういう存在だったんだな」

 最強となるべくして生み出された第二世代。しかしすぐに第三世代によってその使命は奪われてしまった。そして第三世代としての特性も取り込んでさえその使命に準じてきた。だがその背には常に最強になれという強迫観念があった。役に立たない戦闘兵器などに意味はないのだと。幼き頃からそう育てられていたベヒモスにとって当然のことだった。
 だが第三世代の特性を取り込むことに抵抗がなかったわけではない。第三世代が作られた後も第二世代こそが最強なのだと思っていたし、戦いにおいて負けた事はなかった。それでも強くなる為に受けないわけには行かなかった。そして第二世代最強の証であるサタンを倒すことができれば自分が最強なのだと信じようとしていた。今回の任務だってサタンと戦えるというから引き受けたのだ。
 だが結果はどうだろう、第三世代としての特性を取り込んだ自分はただの第二世代にしか過ぎないはずの、それもその後の調整を全く受けていないサタンに負けたのだ。だからこそ残念だという感情のほかに喜びもあった。それはやはり第二世代こそが最強なのだという誇りが満たされたこと。劣化品である第三世代の特性などを取り込んでしまった自分なんかよりもはるかに第二世代のポテンシャルは高かったのだから。

 ベヒモスの口が動いたのがレイイチには見えた。そしてその表情は笑っているように見えた。それを見てレイイチもまた笑みを浮かべた。そして自分の状況を省みて笑みは自分に対しての嘲笑へと変わった。

「負けはしなかったが勝てもしなかったか。やっぱり機体性能の差はでかいな」

 カマエルももはや動ける状態ではないし、後数秒ほどで爆発するだろう。脱出装置は完全に壊れているしここから自力で出ても間に合うまい。それならばとレイイチは座席に身をもたれさせた。

「アキラ、エリス、姫さん、悪いが今回はちょっとばかしすぐに帰れそうもないな」

 カマエルが爆発し、ベヒモスもまた爆発する。それは一瞬の出来事であったがレイイチにとってはやけに長い時間のように感じられた。





 密着した二つの機体がほぼ同時に爆発した。何かが脱出したようには見えないし、大型BF2機の爆発を至近距離で受けて生き延びれる者がいるとも思えない。

「あ、あ、あ、あ、あ…………」

 その光景を見てエリスが悲痛の声を漏らす。その声が聞こえている皆は何も言えない。誰もがその光景を信じられないものとして見ていた。

「レ、レイイチーーーーー!!」

 戦いの終わった戦場に、エリスの悲痛な叫びだけが響いていた。


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