碌な装飾もない黒い壁に覆われた通路をベルゼとリヴァは歩いていた。先の戦いから隙を見て離脱したベルゼは地上から上がってきたリヴァと合流して本拠地へと帰ってきていた。そう、ここは戦艦の中ではなく彼らの基地なのだ。
 リヴァは横を歩くベルゼに目を向けるがベルゼはそれに気がついた様子もない。ただ黙々と何かを考え続けている。それが何かは予想がつく。先の戦いで得たデータを頭の中で検証しているのだろう。データだけを見せられたリヴァには信じられないような内容だった。もちろんベルゼにとってだって理解の外にあるだろう。それぐらいおかしなことだった。
 レイイチは勘違いしていたのだがバンデモニウムの技術ではブルームーンの力の一部をエネルギーガンやエネルギーソードのように使う事はできても全身に纏って攻防一体の技にすることなどできない。それだけの量の開放もできなければ制御もできはしない。あの様子では間違いなく死んだであろう事はリヴァにとっては悪くないことであるが科学者としての要素が大きいベルゼにとっては貴重なサンプルを同時に二つも失ったことになるのだろう。

 リヴァの推測通りベルゼの頭の中はレイイチとベヒモスと先の戦闘のことが頭を占めていた。特に自信のあったベヒモスという第二世代と第三世代の能力をあわせ持つ作品が負けたこと、そして最後にレイイチが見せた力についての検証は入念に行われていた。
 第二世代と第三世代では第三世代のほうが総合面においては優秀であるという考えを妄信しているわけではないが、第三世代の方が明らかに劣っているわけではないとは考えている。レイイチが優れているのはただ単純に第二世代だからというだけでなくこれまでの生き方によるところが大きいと判断していた。そのためレイイチの学んでいた藤陰流総合格闘合気術についても調べていた。だが今回の事で少々事情が異なってきた。ブルームーンの力を解放したのがレイイチだけならばともかく、十分に調査されていたベヒモスまでがそれを行うことができたという事はレイイチだけが特別ということではなく第二世代自体が特別だということができる。

(バンデモニウムチルドレンにはまだ私の知らない秘密があると言うことか)

 情報を一括してまとめているのはサタンだ。ベルゼはあくまで研究員であり必要なデータしか渡されていない。けして全てを知っているわけではない。

(どうやら当分の間退屈する事はなさそうですね)

 ベルゼは見る者を不安にさせる不敵な笑みを浮かべていた。





 基地内の一室には三人の少年がテーブルについていた。まだ若いにもかかわらずかもし出す雰囲気はベルゼやリヴァ同様歳相応とは言いがたいものだった。

「それでサタン、この後はどうするつもりだい?」

 少年の一人が上座に座る少年に話しかける。

「ベルゼたちにはしばらくの間基地内で大人しくしてもらうさ。例の研究についても進めてもらわなければ困るからね。それに同胞を二人も失った責任も取ってもらわないと」
「くっくっくっ、あの天才も地に落ちたものだの。しかしサタン、あの連中はどうするつもりだ? 仮にもベルフェとアスモを倒した者たちだ。ほうって置く訳にもいくまい」
「どうでもいいと思うけどね。でも気になるようだったら君達に任せるよ、アモン、ルシファー」

 サタンの言葉に二人の少年は歪んだ笑みを浮かべるのだった。





 バンデモニウムの襲撃からもうすでに二週間が過ぎ、ロニアス第九研究所でも日常が戻ってきていた。

「エリス、大丈夫なの?」
 かなり無理のある設定でのシミュレーショントレーニングを終えたエリスにミリアが声をかける。

「ああ、そろそろアキラも復帰する。私ばかりがいつまでも落ち込んでいるわけにもいくまい」
「エリス……」

 二週間前に刺されたアキラの回復は順調で、もうすぐ退院できるそうだがもう一人、エリスの婚約者でありアキラの親友、そしてミリアにとって苦楽を共にしてきた仲間であるレイイチはもう戻ってこない。そのことを聞いたアキラの姿はとてもではないが見ていられなかった。エリスも今でこそ気丈に振舞っているが数日間は部屋から出てくることがなかった。今でも心の裡では涙を流し続けているのだろう。

「大丈夫だ」
「えっ?」

 ミリアは突然告げられた言葉と、そしてエリスの浮かべる微笑に驚いた。それはけして見せかけだけではない何かがあった。

「レイイチの死体は見つかっていない。ならばまだ生きている可能性もある。それに私にはレイイチが野望を果たさぬまま死ぬとは思えない」
「野望?」
「ああ、アキラとユイの子どもを抱き上げるという野望をな」


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