第四話 決意
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WORLD FANTASIA

第四話・決意






 八畳一間の和室でテーブルを挟んで五人がそれぞれ向かい合って座っている。
 片方は学生服を着た男女二人、相沢祐一と川澄舞。
 逆側には同じく学生服を着た天野美汐を真ん中に置き、その右側には学生服のままカバンの代わりに竹刀袋を持ってやってきた久瀬宗司(そうじ)、そして左側にはこの場で一人他とは異なる和服を身に纏っている天野刃の三人。

「それではそろったようですからお話しましょう」

 五人の中、美汐が口を開いた。

「といっても何から話せばいいのかもわかりませんので、相沢さんたちの質問に答える形にしようと思います。何から聞きたいですか?」

「まず俺とあゆ、舞を襲ってきたやつについてだ」
「わかりました。しかし残念ながら相沢さんのほうに現れた者についてはわかりません」
「わからないってどういうことだ?」
「言葉通りです。その人が個人で動いているのか、それともどこかの組織の一員なのか、もし組織に属しているのならどの組織に属しているのか、それら全部がわかりません」
「…そうか」

 祐一は肩を落とした。祐一にしてみれば美汐から聞ける話が今時分の手に入れられる唯一の情報であった。しかも期待していただけに反動も大きかった。

「その代わりというのもどうかと思いますが、川澄先輩のほうならばわかります」
「ちょっと待ってくれ、俺のところに現れたやつと舞のところに現れたやつはその同じ組織にはいっているんじゃないのか?」

 舞の話から自分のところに現れたのとは別人だとわかっていた祐一だが、まったく無関係だとはかけらも思ってはいなかった。

「いいえそれはありえません」

 しかしそれにたいして美汐ははっきりと言い切った。

「川澄先輩の前に現れたのは千軍騎士団長と呼ばれる者で、『アナザーアビリティ』という組織の幹部です。このアナザーアビリティという組織はこちら側の世界でも少し変わった組織でして、川澄先輩や久瀬さんのような特殊なこの世界の理から外れた力を持つ者、異能者と呼ばれる者たちの保護と援助を主な活動にしている組織なのです。
 もちろん構成員もみな異能者です。というよりは異能者以外の人間を仲間にしないのです。ですから相沢さんの前に現れたのが異能者ではなく魔法能力者である以上、同じ組織であることはありません」

 舞は美汐の説明を理解するために頭を働かせる。自分はおろか佐祐理にまで影響がある以上、舞はわずかにでも聞き逃すつもりはない。

「美汐、質問」
「はい、何でしょうか?」
「美汐は今保護と援助と言った。でもあの男は佐祐理に手を出そうとした。久瀬は戦おうとしてた」
「それに関しては僕のほうから話そう」

 今まで黙って美汐に任せていた久瀬が言う。

「まず彼が倉田さんを人質に取ったのはあなたに現状を認識させるためであり、考えるための時間を与えるためです」
「……どういうこと?」
「僕らのように特殊な力を持つ人間は僕らが普段暮らしている世界では迫害の対象になります。しかしこちら側の世界では異能者は迫害の対象ではなく、むしろ味方につけておくと便利な存在なのです。そのためさまざまな組織は異能者を引き込むための手段を選ばない。そして引き込めないと知ると今度は他の組織に渡さないために始末しにかかるのです」

 久瀬はそこでいったん言葉を切ると、お茶でのどを潤した。

「もしその異能者がたいした力も持たないのならば放置されることもありますが、あなたの能力は他の異能者と比べてもはるかに強い力を持っている。今まではその力が暴走していたこともあり、あなたを引き込もうとする組織はなかったが、これからはそんな連中が何人もあなたに接触してくるでしょう。しかもあなたには倉田さんという大きなアキレス腱がある。それを見逃してくれるほどこちらの世界は甘くはない。結果、倉田さんを危険なめにあわせる事になるでしょう。
 これが今のあなたの現状です。そしてあなたはこれから考えなければならない。確認しておきますが倉田さんと離れるつもりはありませんね?」
「はちみつくまさん!」

 即答された言葉に久瀬はほんのわずかにだけ頬を緩める。それは観察力のある人間が見れば笑みだとわかったかもしれない。

「ならばあなたは倉田さんを守るためにどうするか考えなければならない。そしてあの男はそのための時間を与えてくれたのです。あと、僕が彼と戦おうとしたことですが、それはちょっとした意思表示のためであり、個人的なことですから割愛します」

 なぜか最後のほうだけ舞から視線をそらす久瀬を尻目に、舞は久瀬の言ったことの意味を考える。
そして彼女にわかったことはとりあえず三つ、自分がこれからも狙われるということ、佐祐理を巻き込むことになるということ、そしてどうやらあの男は自分に害を与えるつもりがないと久瀬が考えていること。その反面どうしてもわからないことがひとつあった。それはこれから自分がどうすればいいのかということだ。

「久瀬、私にはわからない。私は、どうすればいい」
「……具体的に言えば戦うのか、それとも逃げるのかということです」
「!!」

 戦う、舞にとってそれは再び剣を持つということ。
 思い出されるは夜の戦い。
 『魔物』によって怪我を負い、血を流しながら動かない佐祐理の姿。
 あの夜の戦いの後、全身に怪我を負って入院した自分の姿を見たときに初めて見た佐祐理の泣き顔。
 そんな佐祐理の姿をもう一度見ることになるのか、その思いは舞の中で巨大な楔となって打ち付けられる。
 だが逃げるということはどういうことか、この町から離れるということか。
 そんなことできるわけがない。ここには自分を受け入れてくれた人たちがいるのだから。
 逃げるという選択肢を舞は完全に否定する。しかしそれでも、舞には戦うという選択肢を選べない。それは佐祐理を傷つけることになるから。
 そんな葛藤する舞は昨日の出来事を思い出していた。

――――このような状況になった時、あなたはどうするつもりかね?

 それは昨夜、あの男が佐祐理を人質に取った時に言った言葉。そしてその時、舞は何もできなかった。久瀬が来なければどうなっていたのかわからない。
 その時久瀬はなんと言ったのか。

 ――――そんなことは力を解放すればいい

 力、それはつまり魔物を形作っていた舞自身の力、異能力。そして久瀬の持つ風を操る力。
 そして久瀬はその力を使って佐祐理を助けた。ならば自分のその力は佐祐理を助けることができるのだろうか。
 佐祐理と一緒にいたい。みんなと一緒にいたい。それは他ならぬ舞自身の願い。
 そのためにはどうしなければいけないのか…………

「……私は、みんなと一緒にいたい」

 口にした思いは舞の中ではっきりとした形を作り、舞の背中を後押しする。

「だから、私はそのために、戦う」

 舞の中にもう迷いはない。その瞳に宿るのは魔物と戦っていたときと同じ強い決意。しかしそれは討つという決意ではなく、守るという決意。失わないという決意。

「私は、佐祐理を守る者だから」

 それは舞が自ら出した自分の結論。自分を狙う者が佐祐理を狙うのなら守ろう。それが一生続くのなら生涯守り続けよう。今の言葉はその意思表示、純然たる決意の証であった。
 舞の言葉を受け、久瀬は表に出さないようにして喜び、感謝した。舞が自分の思ったとりの人間で、自分が願ったとおりの答えを出してくれたことを。

「わかりました、ではこれをどうぞ」

 久瀬は自分が持ってきた竹刀袋を舞の前に差し出した。

「…これは?」
「自分の道を決めたあなたへの贈り物です。どうぞ中身を取り出してみてください」

 舞は言われた通りに竹刀袋の中身を取り出した。そして、息を呑んだ。

「そ、それは?」

 隣で舞がそれを出すのを見ていた祐一も息を呑んだ。なぜなら中から出てきたのは見間違えようもなく、鞘に入った日本刀だったのだ。

「その刀の銘は『風雅(ふうが)』。その名のとおり風の力を宿しています。川澄さんなら十分扱いこなせるでしょう」
「…なぜ?」
「たとえあなたといえども素手ではどうしようもないでしょう。しかもこちら側の世界ではかなりの力量がない限り、普通の武器では生き残れません」

 倉田さんと生きるのでしょう。最後に久瀬がそう言い、舞が頷く。

「でも、久瀬は大丈夫?」
「ご安心を。残念ながら僕に剣術の才能はなかったようで、まるで使えませんでしたよ。ですから遠慮することはありませんよ。それにあなたに使われたほうが風雅もうれしいでしょう。道具は飾られるためにあるのではなく、使われるためにあるのですから」
「わかった、もらっておく」

 舞は風雅を元のとおりにしまおうとして、

「ちょっと待ってください」

 久瀬に止められた。

「わざわざ袋に戻す必要はありませんよ。それはあなた自身の中にしまえる神具(しんぐ)ですから」
「私の、中に?」

 舞の声に不安げな感じが混じった。

「ええ、あなたが思えばあなた自身の中に溶け込み、あなたが望めばすぐにもとの刀としての形に戻ります」
「…………」

 多少の不安はあったが、舞は久瀬が言うように風雅が自分の中に入るように念じてみた。すると風雅は緑色の光に変わり、舞の中へと吸い込まれていった。
 舞はその様子があまりに不思議だったらしく、光が入っていった場所をペタペタと何度も触れてみている。

「どうです、どこかおかしなところはありますか?」
「…ぽんぽこたぬきさん」
「ならば問題ないですね。天野さん、とりあえずこちらのほうは片付きました。あとは相沢君ですね」
「はい、そのようですね」

 二人の言葉を聞いて、祐一は舞のほうに向けていた目を前にいる三人に移した。

「先に言っておくが、俺はとっくに戦う気だぞ」

 先ほどの舞と久瀬の話の中で、祐一にも思うことはいくつかあった。しかし結局のところ、祐一は舞と違い、昨日の戦いの中でもうすでに答えを出してしまっていたのだ。

「俺とあゆはようやく幸せをつかめそうなんだ。俺にとってもあゆにとっても幸せになるには俺達だけじゃなくて秋子さんに名雪、真琴に北川たち、家族や友人がいてこそなんだ。だから俺は逃げる気なんかない。俺は自分たちの幸せを守るために戦うって決めたんだ。だからこそ、俺はこいつを受け取ったんだ」

 祐一は昨日手に入れた腕輪をカバンから出してテーブルの上に置いた。

「これを俺にくれたやつは言っていた。これを受け取れば俺の世界は変わるだろうって、そして俺はそれを受け入れた上でこれを取った。たしかに変わったよ、これは俺に教えてくれた。この世界には理によって力を操作する魔法というものが実在すること、その理を中に封じ込めた物や、魔法そのものの力を持つ物、魔導器と呼ばれる物が存在すること。そして今日、その魔法を扱う者の組織があることを知った。まるで漫画かゲームの中の世界の話みたいだ。けどこれは現実なんだろ、だったら受け入れるしかない。受け入れた上で前に進むしかないじゃないか」

 祐一はかつて栞という現実から目をそらしていた香里に現実を見据えさせた。魔物が自分の力という現実から目をそらし、忘れていた舞にその事実を受け入れさせた。他ならぬ、木から落ちたあゆという現実を否定し、目をそらし、記憶を封印して、この町に近づかないようにしていた祐一が。しかしだからこそ思うのだ、現実から目をそらしてはいけないと。それを受け入れた上で前に進むしかないと。

「……君はそのために人を殺せるのか?」

 今まで黙って四人の話を聞いていた刃が突然、低く、明瞭で、威圧感のある声で言った。

「君は受け入れるしかないから、しかたがないからという理由で人を殺せるのかい?」

 刃の放つ空気に祐一たちは圧倒され、何も言うことができない。

「この世界は死に満ちている。傷つけ、傷つけられ、殺し、殺される世界だ。幸い美汐も宗司君もまだ人を殺さなければならない状況になったことはない。だがこちらの世界にいる限りその時は必ずやって来る。その時君は迷いもなく、躊躇うことなく、相手を殺せるのかい? 相沢祐一君」
「…そ、そんなことわかるか!」

 気がつけば祐一は叫んでいた。

「人を殺せるかだと、そんなことわかるか! オレは別に人を殺したいわけじゃない。みんなで幸せになりたいだけだ。殺したくなんかない。けどな、そうするしかないならそうするかもしれない。それでも意地になってやらないかもしれない。そんなことはわかんねえよ。未来は決まっていないんだ。だったら俺はそのときの俺の意思に従うだけだ」

 それは迷いから出てくる言葉であった。そして新たに押し付けられた価値観をまだ受け入れ切れていないということでもある。

「そうか、ならば何も言うまい」

 だが言葉とは裏腹に刃はそのことを快く思う。ただ否定するだけでは先に進めない。だからといってそう簡単に全てを受け入れられてしまうのならばそれは一種の危うさである。
 人とは慣れていく生き物である。人の変化は緩やかであるほうがいい。急激な変化はその者を蝕むことになるというのが刃の考え方である。

「ところでこれを少々見せてもらってもいいかな?」

 祐一が頷いたのを見てからテーブルの上に置かれた白い腕輪を手にとって見た。
 実にシンプルなもので、等間隔に並べられた石以外に飾りはない。しかしその石がある意味問題だった。刃のこれまでに得た知識はその石が何であるのかをしっかりと判断していた。

「これは魔封珠(まふうじゅ)だな。それぞれ色は赤、青、緑に黄色か、四属性全てがあるのか。しかもどれもが高純度の魔力を内包している。それにこの腕輪の素材は何だ? ふむ、やはりわし程度ではこのぐらいしかわからぬか」

 刃をなにやら口にしながら腕輪をしげしげと眺めたり、触れたりしてから、それを祐一に返した。

「さて祐一君、すまないが剣のほうも見せてもらえないかね?」

 腕輪をかばんの中にしまおうとした祐一の手が止まった。しかも刃のほうを向こうとしている顔は引きつっているうえにどうも動きがおかしい。まるで関節が錆びて動きにくくなった機械のようである。
 さてここにいるのは祐一たちの何倍も生きており、経験豊富な刃、祐一の知り合いの中でもとりわけ冷静で物事を見る目のある久瀬と美汐。魔物のことが解決して以来、広い視野を持つようになった舞である。そして四人はすでに祐一の口から昨日の出来事を聞いている。すぐに祐一の事情を察した。

「…まさか、出せないのですか?」

 四人の中でそれを口にしたのはこの場の仕切り役である美汐だ。

「はっはっは、そんなことないぞ」
「祐一、バレバレ」
「うぐぅ」
「相沢君、確か使い方はわかると言っていなかったか?」
「ううう、使い方だけはわかるんだよ。だけど出し方としまい方がわからないんだよ。昨日しまえたのだって偶然だし」
「うーむ、おかしいのう」

 これにはさすがの刃も頭をひねる。
 たしかに魔導器(アーティファクト)の中には持ち主に使い方を教えてくれるものもある。しかしそういったものが教えてくれるのはあくまで基本的なものであり、それであるがゆえに情報の欠落は少ない。ましてやその存在を変えられる物や、風雅やフォースノヴァのように完全にその存在を消しておける物に、その存在の変え方だけが情報から欠落していることなどありえない。中には魔導器が認めた者でないと使えない物もあるが、現に祐一は昨日自分で腕輪の中にしまうことができたのだからその可能性は低い。ならば意図的に伝わらないようにしてあるか、それこそ稀だが本当にその情報だけが欠落している欠陥品かのどちらかしかない。
 だが残念ながら刃は魔導器についてはこの場にいる中では一番詳しくとも、それほど詳しいわけではないので調べようもない。

「まあしかたないのう、知り合いに専門家がいるから今度見てもらうとしよう。祐一君もそれでいいかな?」
「専門家?」
「ああ、魔導器の製造や修理をしている者のことだ。職業としていうならば錬金術師というやつだのう」
「あの鉛から金を造ったりする?」
「まあよくそう言われているが、実際には叡智(えいち)の探求者のことで、一種の科学者のようなものじゃ」
「じゃあ金を造ったりはしないのか?」
「造らんな、というか造っても何の特にもならんし」
「何! 大金持ちになれるじゃないか!」
「相場が暴落しては意味がなかろう」
「うっ」

 金は貴重であるからこそ価値があり、あふれてしまえばそれはただの金属に過ぎないのである。

「まあそれはどうでもいいことじゃから置いておくとして、あとはこれからの君たちの身の振り方じゃな」
「へ?」

 祐一にとって見れば襲ってきた連中のことも聞いたしフォースノヴァのことも聞けるだけのことは教えてもらった(どちらも結局何もわからなかったが)のでもう終わりだと思っていたし、それは舞にとっても同じだった。

「はっきり言わせてもらうと相手が組織として動くならば個人で対抗するのは困難じゃ。ましてや君たちは姿をくらますこともできないうえに弱点も抱えている。いうなれば常に向こうにアドヴァンテージを与えているということじゃ」

 そう、あゆは入院しているし、佐祐理もアルバイトをしている。どうしたって一人になる時があるし、何より祐一は戦う力を持った素人である。舞にしても今まで相手にしていたのは単純な攻撃をしてくる魔物で、必要に応じてあらゆる手を使ってくる人間との本格的な戦いの経験はない。はっきり言って勝目などない。

「一番いいのはどこかの組織に入ることじゃ。戦闘技能者として登録すればどこでもそれなりの保護を受けることができる」
「でも、信用できない」

 当然のことながら二人ともどんな組織があるのかも知らないし、入り方も知らない。舞の場合はアナザーアビリティならば簡単に入ることができるのかもしれないが、信用することなどできない。

「まあそうじゃろうが、わしとしては零課をお勧めするぞ。非常勤組員として登録するだけでも結構な保護を受けることができる」
「零課ってなんだ? 信用できるのか?」

 祐一は刃ではなく美汐のほうに説明を求めた。いきなり組織に入ることを勧める刃を信用していいものかどうか悩んでいるのだ。

「零課というのは警察庁内にある社会の裏側にある影の国家組織のことです。民間の能力者との連携の下、日本各地にその支部があります。規則もそれほど厳しくありませんし、仮にも国家機関ですから組員の人権は保障してくれます。少なくとも私が知る中では最も信用できる組織でしょう」
「ずいぶんはっきり言い切るな」

 あまりにはっきりと保障する美汐にたいして祐一は少し不信感を感じた。

「当然です、天野家は零課設立当初からの協力者でこの地域一帯の管理を任されています。たしかに本部のほうまで完全に信用していいとは言いませんが、少なくともこの地域での零課の行動を疑うということは天野家自体を疑うということです。自分の家のことを信用するのは当然でしょう」
「へ?」

(協力者? 地域一帯の管理? 天野の家が? てことはもしかして)

「つまり天野家の力を借りるか借りないかということだよ、相沢君」

 祐一の考えを久瀬が肯定する。そして祐一が美汐のことを信用できないかと言われればそんなことはないのである。

「……ええっとじゃあ、あゆのことも守ってくれるのか?」

 狙われているのが祐一ではなくあゆである以上それは絶対の条件である。

「ああ、それは約束しよう」

 これには刃が答えた。

「秋子さんたちも守ってくれるのか?」

 水瀬家の人間は祐一にとって家族のようなものであり、しばらくすればあゆも水瀬家の一員になるのだ。なくなってはいけないものであり、狙われる可能性を持っている。

「それは絶対に大丈夫だ」

 どうもあゆのとき以上に強い肯定であったがそれは気にしない。今の祐一にとって大事なのはみんなの安全を得られることなのだ。

「……わかった、その零課の非常勤組員とかいうのになる」
「私も」

 祐一に舞も続く。

「それで、その非常勤組員とかいうのになるにはどうしたらいいんだ?」
「近くの支部に行って登録するだけです。一応隣町にありますので今度の日曜日にでも行きましょう。お爺様の推薦があればすぐに終わるはずです」
「それと君の身近にいる人たちにもこのことは教えておいたほうがいい。保護を受けたからといっても完全ではないし、本人たちの心構えがあるかないかで状況はかなり変わる」
「うーん、というと秋子さんに名雪に真琴、北川と香里と栞、佐祐理さんには舞が言うだろうからあとは斉藤ぐらいか」

 あとはそれほど親しくないというか学校でもあまり話さないというあまりの自分の友人の少なさに祐一は打ちのめられそうであった。しかし今回はそれが都合よかった。

「秋子さんたちには今日帰ったら言うとして、北川たちには明日学校でだな」
「学校でのほうは私もご一緒しましょう。相沢さんだけでは冗談としてしか受け取られそうもありませんし」

 頷く舞と久瀬、こればかりは祐一を知る者にとってはどうしたって覆せない認識である。祐一自身自覚があるので何も言わない。

「それじゃあ今日はもう帰るわ」
「そうだね、僕もおいとまするとしよう」
「私も」
「それではお見送りしましょう」

 四人はただ一人刃を残して玄関へと向かった。
 そして一人残った刃はもう冷めてしまった茶をすすりながら、考え事をしていた。

「…雪彦君、どうやら秋子ちゃんはまた安心できなくなりそうだ」

 今は亡き、自分よりもはるかに若かった友への呟きは誰の耳に入ることなく消えていった。





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