第六話 妖狐の少女
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WORLD FANTASIA

第六話・妖狐の少女






 その日、天野家にはじつに十名の客が来ていた。刃にとってこれほどの客を一度に迎えるのは支部長の任を息子に譲っていらい初めてのことであった。

「美汐、茶菓子はどこにあったかのう?」
「食器棚の一番下です。あと戸棚の中に大福があったはずです」

 家のことはほとんど孫娘に任せきりであったため、どこに何があるのかわからなくて四苦八苦していた。美汐も人数分のお茶をいれたりと忙しく、刃の手伝いができずにいた。

「やっぱりこの人数でいきなりはまずかったかしら」
「そうだねー」

 客間に通された香里と名雪がところどころ聞こえてくる二人の声にそんなことを呟いた。

「別にいいんじゃないか、天野の爺さん嬉しそうだったし」

 そう答える祐一の両手にはフォースノヴァとは違う腕輪がひとつずつ握られていた。

「北川さん、これなんてお姉ちゃんにどうでしょうか?」
「それは風か、いや、美坂にはこっちの火のほうがあうんじゃないか?」

 栞と北川は緑と赤の腕輪を持ってなにやら話している。

「うう、何で俺まで」
「諦めたほうがいい、斉藤君」

 ほとんど無理やり連れてこられた斉藤を久瀬が励ましている。

「あうー、どれが一番強いのよ」
「真琴、暴れない」
「あははー、佐祐理はこの緑のやつがいいですね」
 腕輪を振り回す真琴にそれをなだめる舞。佐祐理も腕輪を手にとって眺めている。
 彼らが手に取っているのは北川が武器だと言って持ってきた腕輪だ。スペルリングという魔導器(アーティファクト)で、魔力があれば誰にでも魔法が使える優れものだ。それが赤、青、黄、緑の四色がそれぞれ三つずつ、計十二の腕輪がテーブルの上に並べられている。

「なあ北川、これどうやって使うんだ?」
「腕にはめてキーワードを言うだけだぞ」
「魔法ってそんな簡単に使えていいのか?」
「簡単に使うための道具なんだよ」
「そういうもんなのか」

 比較的普通の世界で生きてきた祐一にとっては魔法なんてものは直接見せられたから実在こそ信じられるものであり、自分たちがそうそう使えるものだとは思えなかった。きっと血のにじむような特訓を繰り返した挙句ようやく使えるのだと考えていた。それが北川が持ってきた腕輪であっさりと使えるようになるとは期待はずれもいいところである。

「まあそのスペルリングは量産されている安物だからな、それぞれひとつずつしか使えないし、それにしたって弱い魔法しか組まれていない。あんまり頼りになるとはいえないぞ」
「何だよ、けちけちせずにもっといいの持って来いよな」

 たいしたものは使えないと聞いて祐一はスペルリングへの興味を一気に失い、適当にテーブルの上に放り投げた。

「あのな、安いって言ってもひとつ三百万はするんだぞ、それ」

 それを聞いて放り投げた祐一、北川の横で選んでいる栞、適当に持って振り回している真琴が固まり、真琴をあやしていた舞、スペルリングを見ないで話していた名雪に香里、いじけていた斉藤が目を見開いた。

「さ、さ、三百万ですか、バニラアイス何個分でしょうか?」
「三百万、三百万、こんな腕輪が三百万……」
「相沢君、十二個あるから全部で三千六百万よ……」
「あうー、漫画何冊買えるのよ」
「………………」
「こんなものが三百万もするのか……」
「うわー、北川君お金持ちなんだね」

 反応はまさにそれぞれだった。

「おいおい相沢、べつにその程度じゃ傷はつかないから気にするな。栞ちゃんも真琴ちゃんもそういうもので換算するのは止めてくれ。むなしくなるから」

 放り投げたスペルリングを丹念に調べる祐一や自分のほしいもので計算しだす栞と真琴に北川が苦笑を浮かべる。

「ちなみにオレはそれ使えないからいらないから、みんなで分けてくれ」
「な、なんだと!」

 そのあまりの衝撃におののく祐一、他の面々もそれぞれ驚きを浮かべている。

「き、北川、三千六百万だぞ。そ、そんなポンと出していいのか!?」
「まったくもってかまわんぞ、もともとそのつもりで用意しておいたものだし。ああ、でもそれは水瀬、美坂、斉藤、栞ちゃん、倉田先輩、あとはここにはいないけどあゆちゃんの分だから、相沢と真琴ちゃんの分はないぞ」
「な、なんだと――!!」
「横暴よ――!!」

 先ほどは別の意味のショックで叫ぶ祐一に、真琴の声が重なる。

「だって相沢はもう武器持っているだろう。こんなものよりずっと強力なもの」
「使えなければ意味が無いわい!」
「真琴は持っていないわよ!」

 二人とも必死である。

「でも使えるようになる予定だろ。あと真琴ちゃんの分がないのは真琴ちゃんがそいつを使えないからだよ」
「え?」
「どういうことよ―――!!!」

 祐一は疑問符を浮かべ、真琴はさらに大声を上げた。

「ちょっと待って」

 それを止めたのは香里だった。

「そういえばさっきもあなた自分は使えないって言っていたわよね。でもその前には誰にでも使えるものだといったわよね。それ、どういうこと?」

 香里の指摘に北川は少し困った顔を浮かべ、他の面々はいまさらながらそのことに気がついたようであった。

「あー、それはだな……」

 その指摘に言いにくそうにしていた北川であったが、周りの目が許してくれそうになかったので、観念した。

「誰でもっていうのは魔力を持っていれば誰でもっていうことなんだよ。で、普通は人間なら誰でも魔力を持っているんだが、時々例外もいる。それがオレで、オレは魔力ゼロの特異体質なんだよ」
「なるほど、そういうことか」

 北川を除けばこのメンバーで唯一この世界に昔から足を踏み込んでいる久瀬が頷いた。久瀬もそういう者がいること自体は知っていた。そしてそれは自分や舞のような異能者よりもよっぽど珍しい存在であるし、もし仮にいたとしてもその性質から普通はこの世界にかかわることがないことも知っている。
 だからこそ別の疑問が浮かんできた。

「君はこちらの世界に関わる一族の出なのかい?」
「いちおうはね」
「できればどの一族かきかせてもらいたいのだが、いいかな?」
「悪いが言いたくないんだ」
「そうか」

 このやりとりで久瀬は北川がけっして無名の一族の出身ではなく、それなりに名のある一族のものであることを理解した。そしてその結果どういう人生を過ごしてきたのかも多少は想像がついた。少なくとも楽なものでも、平和なものでも、楽しいものでもなかったに違いない。名のある一族ほど力の劣るものに対しての扱いはひどい。

「まあその話はもう止めておこう。進んで嫌な気分はするものではない」
「そうね、そんなもの聞いてもあたしたちには意味がないし」

 久瀬の言葉からきいていいものではないことを理解した香里が言うと、周りもそれで納得した。

「じゃあ北川君が魔法を使えないのはわかったけど、真琴ちゃんが使えないのはどうしてなの?」
「うーん、言っていいのかな? どう思う、真琴ちゃん」
「真琴にわかるわけないじゃない! いいから教えなさいよ」

 いきなり話を振られても真琴にはそう返すことしかできない。もはや頭に血が上っていつ暴れだしてもおかしくない状態である。

「わかったわかった、本人が気にしないならべつにいいことだからな。真琴ちゃんは人間じゃなくて妖狐だから使えないんだよ」

 事情を知っている祐一、名雪の顔が引きつる。真琴本人にいたっては口をぽかんと開けて呆けている。周りのいるものも久瀬以外はよくわかっていないようだ。
 しばらくすると、真琴が困ったように周りを見回し始めた。そして名雪のほうを向くと、ようやく言葉を発した。

「あう〜、すっかり忘れてた」
「おい」

 そのあまりのことに祐一が思わずつっこむ。

「妖狐って、あの玉藻御前とかの九尾の狐のこと?」
「それが一番有名だわな。実際には尻尾の数はまちまちで、一本しかないのもいれば九本もあるのもいる。今のところは九本が最高らしい。ちなみにこの辺には一本の妖狐しかいないから真琴ちゃんも尻尾は一本だ」
「ふーん、そうなんだ」

 周りにいるみんなも最初こそ驚いたが、もはや魔法が存在していると理解しているのでそれほどのことではなかった。

「でもそれが魔法が使えないこととどう関係があるのよ」

 真琴が妖狐であることは理解したが、だからといってそのことが魔法を使えないことの説明になっているわけではない。

「妖怪の類は魔力を持たないんだ」
「そうなの?」
「ああ、妖怪っていうのは完全な妖気の塊でね、魔力が一切混じっていないんだ。もともと東洋には魔力が弱くてね、人間だって魔力じゃなくて気を使って霊術と呼ばれるものを使っていたほどなんだ」
「あ、じゃあ北川さんが昨日使っていたのも霊術なんですか?」

 栞は昨日北川が使った相手の魔法を消したり、ものすごい光を放ったのを思い出した。

「オレのは気闘術(きとうじゅつ)っていう気を使って身体の強化などをする技だよ。一応飛び道具として気を放つこともできる。相手の魔法が消えたのはエネルギーのぶつかり合いでむこうの魔力よりもオレの気のほうが強かったからだな。でもって最後の閃光は仙術だ。どっちも確かに霊術だね」

 一つ一つ説明していくが、昨日直接見た香里と栞、知識を持っている久瀬以外は何がなんだかわからなかった。

「なあ北川、よくわからないんだが教えてくれ」
「おう、まあ口で説明するよりも見たほうが早いだろう」

 北川はそういって右手を祐一のほうに差し出した。

「見てろよ」

 北川が右手を強く握ると右手から緑色の光が現れだした。

「これが気だな」
「すごい、目に見えるほどの気を放つなんて」

 久瀬が驚きの目で北川を見る。

「まあな、一応これ一本でやってきたわけだからこれくらいはできないとな」

 その光は北川が手を開いても消えず、そのまま覆っている。

「んで次に仙術だけどこっちは口で説明したほうがいいな。はっきりいって霊術も仙術も同じもので、気を使った魔法みたいなもので、ほとんど魔法と同じことができるらしい。オレも別に全部の術を知っているわけじゃないからなんとも言えんが、一応そういうことになっている。ただ魔法よりも扱いが難しくて、魔法がその発動のための式さえあれば言葉を発するだけで使えるのに対してこっちは必ず式の媒介になるものが必要になる」
「媒介?」
「ああ、有名なところでは符だな。これは力が染み渡りやすく加工した紙に式を書き込んでつくる。式が組み込んであるからあとはそれに気を流して言霊を乗せれば発動する。いわゆる符術だな」
「でも北川さんは何も使っていませんでしたよね?」

 栞が昨日のことを思い浮かべる。

「そうねたしかに使っていなかったわ」

 たしかに香里もそう記憶していた。北川は手に何も持っていなかったし、閃光を放つ前にやったことといえば手を変なふうに組み合わせたくらいだ。

「もしかしてあの変なふうに組んだ手が式だったの?」
「そのとおり。符を使うほかに印を結ぶっていう方法もある。これは片手印、両手印、刀印の三つがある。もしかしたら九字刀印なら結構有名だから知っているんじゃないか?」
「そうね聞いたことがあるわ」

 香里が記憶をかきわけてその言葉を探り当てるが、その脇にはまるで思い当たらない面々がいた。

「名雪、おまえわかるか?」
「う〜、わからないよ〜」
「あう〜」
「えう〜」
「北川君、僕が思うに彼らに対しては口で言うよりも直接見せたほうが早いと思う」
「…今オレもそう思った」

 一体どこから話についてこれなくなったのかわからない面々に、さすがに北川も久瀬の言葉に頷かずにいられなかった。

「じゃあとりあえずあんまし疲れないのをひとつ」

 そういって北川は両手で印を三つ続けて結んだ。

通映(つうえい)

 北川の前方に縦長に楕円形の光が現れ、その中心から光が消えていき、光の円が輪に変わる。その輪の先には台所でお茶を入れている美汐の姿が映っていた。

「あ、天野さん!」
「し、栞さん!?」
「なんだなんだ?」

 北川の隣にいた栞はその姿をはっきりと見ていたが、その向かい側にいる祐一のほうからは光の円にしか見えなかった。

「今そっちでも見えるようにする」

 北川が光の輪を押し出すように腕を振ると、光の輪はその大きさを大きくし、祐一の後ろへと移動した。

「これでよく見えるだろ」
「おお、まちがいなく天野だな」
「おお、珍しい術を使っているのう」

 光の輪が映している美汐の前に刃が顔を出した。

「宗司君にはこんな術は使えなかったはずじゃから、これは北川君かのう」
「ういっす」
「って知ってるんかい!」

 今日初めて顔を合わしたはずの二人が顔見知りだと言う事実に他の面々も驚く。

「おいおい相沢、オレは由緒正しきお尋ね者だぞ。ここら辺一体の主が知っていたとしてもおかしくないだろう」
「というよりはわしならかくまってくれると思ったからこの地にやってきたんじゃろう」
「はっはっはっ、まったくもってそのとおりです」
「………………………………」

 その会話に一同呆然。言ってみれば警官がお尋ね者をかくまっているわけである。しかも最低でも二年以上、普通に考えてありえない話である。

「おじいさま、北川さんのことを知っているのですか?」

 昨日初めて北川がこちらの世界の人間であることを知った美汐が意外そうに訪ねる。

「うむ、美汐、彼はおまえの許婚じゃ」

『な!』

 北川を除く全員が驚く。しかし

「うっそぴょん♪」
「………………………………………………」

 ものすごく冷たい風が吹いた。

「おじいさま、ちょっとお話が」
「うん、なんだ美汐、ってどこに連れて行く気だ? まあ待て、話せばわかる。わしが悪かった。頼むから白鷺を使うのは止めてくれ……ギャァァァァ―――」

 耳を赤くしながら画面の外へと刃を連れて行って白鷺を取り出して刃を殴りだした美汐だが、実は北川はこの術を美汐を基点としてかけているので美汐がどこに行こうとそれについていくわけで、美汐が刃を白鷺で殴るその様子が思いっきり映っている。

「……まあそんなわけでこんなふうに印を結んで使うわけだ」
「なるほど、なんとなくだがわかった」

 こちらのメンバーは向こうで行われる暴行をなるべく見ないようにしながら話を進めることにした。しかしそれでも時々聞こえてくる刃の悲鳴とものをたたく音に栞と真琴、そして斉藤は耳を押さえて震えている。

「北川、頼む、何とかしてくれ」

 懇願するように頼む斉藤に北川は慌てて光の輪を消した。

「悪い悪い、消すの忘れてた」
「頼むから消せるならもっと早く消してくれ」
「あう〜美汐怖いよ〜」
「えう〜怖かったです〜」

 耳を押さえていた三人がようやく立ち直った。

「だから悪かったって、まあそんなところで霊術に関しての説明は終わりだな。で、話を戻すととりあえず真琴ちゃんが魔導器を使えないわけは納得してくれたか?」
「おう、わかったぞ」
「ふん、わかったわよ」

 自分が使える武器がないと知って真琴はすねてしまった。

「ねえ北川君、それじゃあ真琴は北川君からその霊術を教わればいいのかな?」
「そうだな、たぶん気の理に関してなら刃さんよりもオレのほうがわかるだろうからそうなるかな。あとちょっと勘違いしているみたいだけど別に真琴ちゃんの武器がないわけじゃないぞ」
「本当!」

 ついさっきまですねていたはずの真琴が急に元気になって、北川のほうに身を乗り出した。

「ああ、ちょっと待っててくれ、たしかここに入れといたはずなんだが…おっ、あったこれだ」
「あう?」

 北川が取り出したのは黄色の手甲だった。

「これが真琴ちゃん用の武器だな。名前はないから適当につけてくれ」
「あう〜、これが真琴の武器なのね」

 真琴がさっそくその手甲をつけてみる。

「わあ、ぴったり」

 その手甲のサイズは驚くほど真琴の腕に合っていた。

「ちょっと見せてね」

 そういって北川が真琴の腕と手甲の様子を確かめる。

「うし、問題ないな。真琴ちゃん一応それはただの手甲じゃないから。確か爪が生えるはずだから確かめてみてくれ」
「どうすればいいの?」
「甲の部分から伸びる爪をイメージして、そんでもって意識をそこに集中させて」

 真琴は言われたとおりに爪をイメージして、意識を集中させる。周りもそれを息を呑んで見つめている。

「あう〜」

 しばらくの間唸りながらもがんばって意識を集中させていると、ほんのわずかにだが赤く光る爪が現れた。

「おお、何の訓練もしてないのに出せるなんて、才能あるぞ、真琴ちゃん」
「あう〜、でも短い」

 北川は褒めるが真琴は悔しそうだ。それもそのはずで、伸びた爪の長さはわずかに一センチか二センチていどで、しかも甲の部分の真ん中よりから生えてきているため、とてもじゃないが役に立ちそうもなかった。それでも北川から見れば十分にすごいことで、手甲が多少光ればいいほうだとさえ思っていた。

(どうやらこのメンツのなかで一番成長が速そうなのは真琴ちゃんかな)

 今ここに集まっているのは北川と久瀬を除けば全員が素人である。そして北川は零課を信用はしていても信頼はしていなかった。たとえどれだけ彼らが約束を守ろうとしても人数には限界がある。そんな不確実な守護に対して安心して任すことなどできるはずもなかった。だからこそここにいる祐一たちにはたとえ素人であろうとも自分の身は自分で守れるようになってもらわなければならない。
 だが異能力者である舞、特殊な魔導器を持つ祐一をのぞけば彼らはろくに戦う力を持たない集団である。しかも次に連中が襲ってくるまでそれほど時間があるとも思えなかった。少しでも早く戦える人間を育てる必要があった。はっきり言って全員を同じように鍛えていてはまず間違いなく間に合わない。刃はおそらく祐一と舞を重点的に鍛えるだろうということは予測がつく。だがそれでも結局のところ十分というには程遠い。

 この不十分な状態のなかで北川は真琴の中にわずかな光明を見ていた。

何の力も持たない香里たちに対し、真琴は妖弧としての力も備えている。訳あってそれを使えない状態になっているが、それをどうにかするのはけっして不可能ではなかったし、香里たちが十分な戦力になるということよりかは期待できる。
 しかしそのためには真琴に気について教えなければならない。しかし刃は祐一と舞の修行で手一杯であるだろうから、それを教えるのは気闘士である北川がやるしかない。だが北川はまさにそのことによって真琴を使い物にできる算段をつけていた。余計な邪魔がなく、純粋に気の力だけ身につけさせていくならば真琴の成長は速いはずだと検討をつけているのだ。

「お茶を持ってきました。おや、それはなんですか?」

 美汐はお盆に湯飲みを乗せて戻ってくると、真琴の腕についている手甲にすぐに気がついた。

「あ、みしお〜」
「なんじゃなんじゃ?」
「あう!」

 さっそく美汐に自分の武器を見せようと駆け寄る真琴であったが、その後ろから刃が顔を覗かせたことによって固まってしまう。真琴の頭の中にはさっきの美汐の刃に対する暴行の様子がよぎった。しかし固まってしまったのはその時の恐怖ゆえではなく、そこに立っている刃の様子に驚いたからであった。
 刃はいつもと変わらぬ様子で立っていた。そう、まるで先ほどの暴行などなかったかのように傷ひとつなく、服装にもまったく乱れはなかったのだ。
 ついこの間実際に叩かれながらも平気で起き上がってきたのを見た祐一と舞はそれほど驚いていなかったし、その理由も知っている北川や久瀬はまったく驚いていなかったが、それ以外のメンバーはみな同じように驚きのあまり口をあけていた。

「ほう、それが真琴ちゃんの武器なのか。どれ、何かやって見せてくれ」
「う、うん」

 当たり前のように周りの反応を無視して真琴の手甲に注目する刃に多少気後れしながらも真琴はさっきと同じように手甲に意識を集中した。すると今度はさっきよりも多少短い時間でさっきと同じ小さな爪が生えた。

「ほう、これは妖気の塊じゃの。なるほど、この手甲が媒介になっているのか。よくできておる」

 刃はしきりにその手甲に感心した。

「感心しているところ悪いんすけど、オレとしてはさっさと修行を始めたほうがいいと思います。正直時間はいくらあっても足りないですから」
「ふむ、それもそうじゃの。しかしせっかくこうしてお茶を入れたのだから一服してからにしよう。あせったところでうまくいくようなものでもあるまい」

 そういってお茶をすする刃に、北川は何かを言おうとしたが、けっきょく何も言わずに茶菓子に手を伸ばした。





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