第七話 神速の後継者
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WORLD FANTASIA

第七話・神速の後継者






 祐一たちの修行は天野家の中庭で行うことになった。もともと零課の新入りを鍛えることにも使っているので何の問題もないらしい。
さて、肝心の修行だが特殊な武器を持つ祐一、舞、真琴の三人と、スペルリングを使うメンバーに分かれて行うことにし、名雪たちには美汐がつき、家の中で魔法についての講習を、祐一たちにはそれぞれ刃、久瀬、北川がつき、ここの能力に合わせた修行をそれぞれ行なうことになった。といっても美汐たちがいる部屋は縁側をえてすぐに中庭に通じていて、祐一たちの修行風景がよく見えた。
といっても今外にいるのは祐一と刃だけで、残りの四人は縁側にいた。

「ほれほれどうした、動きが遅いぞ」
「くっ」

 二人は木刀を使って剣の稽古をしている。ただしあまり悠長なことをしていられないことと、夜の学校での経験があったので基本の素振りなどはなしでいきなり実戦形式の打ち合いである。

「それで打ち込んでいるつもりか? ほれ、隙だらけじゃ」
「うわっ!」

 あっさりと転ばされる祐一、まだ始めて十分と経っていないにもかかわらずこれで五回目である。しかも刃は祐一が体勢を崩した時ばかりを狙って足を払っている。それ以外のときはたとえ鋭くとも防げないことはない程度の打ち込みしかしていない。つまりそれだけ祐一が体勢を崩しているということだ。

「相沢がんばれよ〜」
「ははは、祐一馬鹿みたい」
「そこ、うるさい! 楽しやがって!」

 縁側から声援を送る北川と野次をとばす真琴に祐一が怒鳴ったのも無理のないことであった。
 祐一がこうやって必死に修行しているにもかかわらず、真琴がしていることといえば縁側にうつぶせにねっころがっているだけであるし、北川も真琴の背に右手を乗せているだけであとは縁側に座ったまま何もしていない。北川いわく真琴の気を北川が外部から調整して一番いい状態を維持し、それを真琴が自分でその流れをつかめるようになるための修行だそうだが、肝心の真琴はその修行を始めたとき、心配そうに見ている名雪や美汐に向けての第一声が「気持ちいい〜」である。少しでも気を抜くと転ばされる祐一と比べると雲泥の差があった。
ただこれも本当は瞑想などを通して長い時間をかけてやるもので、北川が真琴にやっているのは無理矢理理解させる危険極まりないもので、実はかなりの荒行なのである。
 その一方で楽なのかきついのか判断しづらい修行をしているのが舞であった。
 舞の長年にわたる魔物との戦いで十分な戦闘力が身についていることもあり、他の二人と比べてもだいぶ前にいるので祐一がやっているような実戦的な修行ではなく、戦術に幅を持たせるための自分の力のコントロールの修行をしている。
こちらの修行も難航の気配が強いが、幸い舞は自分の力を“まい”として外に出すことはそれほど難しくなく、むしろひとつになっている状態よりも安定している。ただこれは長い間分かれていたことによる副作用でけっしていいことではなく、これから時間をかけて直していかなければいけないことであった。
 それでも見た目ではそれほど大変そうには見えないので、祐一は自分ひとりだけがひどい目にあっていると感じていた。

「さて祐一君、もう一本いこうか」
「はい」

 それでも祐一は刃の言葉に力強くこたえる。なぜならきつい分だけ自分が強くなれると思っているからだ。そして祐一の反射神経はけっして鈍くなく、わずかにではあるが刃の太刀筋を見ることができていた。そのおかげで何とか普通の状態であれば避けたり防いだりはできていた。ただひとたび攻撃にうつろうとするとどうしても隙ができてしまい、転がされることになる。
 祐一もさすがに五回も転がされれば自分が攻撃にうつってすぐ転がされていることにも気がついていた。これ以上転がされてはたまらないと、攻撃にうつるのをやめて防御に専念することにした。もちろんこちらから攻撃しなければ実戦では勝てないのだが、今の祐一にとっては少しでも長く転ばされずにいることが重要だった。

 刃は祐一の選択を心の中で褒めていた。祐一は攻撃にうつると転ばされるから守りに徹しただけであるが、守りに徹するということは相手の動きを見るということでもある。そしてそれこそが戦いにおいて最も基本となる大事なことであった。また祐一が刃の動きをしっかりと見ているというのならば、刃の動きを覚えることもできるということである。
 刃は祐一に戦いというものを言葉ではなく感覚で覚えさせようとしていた。この打ち合いの中で相手の攻撃をどう防げばいいのかを自分で考え、体に染み付けさせ、そしてその中で刃の動きからどう攻撃すればいいのかも考えさせようとしているのだ。
 祐一にしてみればはっきり言ってそれどころではない。刃の打ち込みは一撃一撃が重く、三回も連続して受ければ腕がしびれてくる。
もともと舞との訓練で避けることに重点を置いていたこともあり、なるべく避けるようにすることでかろうじて防げているような状態だ。

さっきまではこの状態から無理矢理にでも脱出するために攻勢に出てやられていたのだが、何とか前に出たいという思いをこらえて距離を広げるように避ける。
そこに追撃が来るがそれを木刀で受けながら横に移動する。
すると今度は右下から斜めに切り上げてくる。
避けるだけの余裕もないのでそれも受ける。
手がしびれてきたので距離をとろうとするがそれに合わせるように突きが放たれる。
何とかそれは避けたがすぐに次の一撃が襲ってくる。どうやら祐一が守りに専念し始めたのを見て勢いを強めてきたらしい。
それでも祐一は何とか避けて、受けて、防いでいた。


「相沢君もがんばるわね」
「そうですね」

 残りは室内で美汐から魔法について教わっていた。

「舞もがんばっていると思いますよ」
「何やっているのかよくわからないけどね」

 といっても名雪、栞と斉藤と比べて理解力の高かった香里、佐祐理は美汐がなかなか理解できない名雪と栞と斉藤に細かく詳しく丁寧に説明しているのでスペルリングを手に持ちながら他のメンバーを眺めていた。

「それに比べて真琴ちゃんはあれで平気なのかしら?」
「あははー、どうなんでしょう」

 真琴の修行については一応北川からきいていたが、それでも香里は緩んだ顔で寝転んでいる真琴を見て不安に思わずにはいられなかった。なにより下手をすれば栞の命がかかっているのだ。しっかりしてもらわなければならない。
 そして同時にそこにいるのが自分でないことに対して不満も抱いていた。
 自分の力では栞を守れない、そう言われているように感じてしまうのだ。
 かつて栞が助からないことを知らされたとき、香里は栞の存在から目をそらすことしかできなかった。栞と香里をもう一度繋ぎなおしてくれたのは祐一であったし、栞の呪いを解いてくれたのは美汐だ。そしてこの間命を狙われたときに助けてくれたのは北川だった。
 その中に香里自身の力でできたことは一つもない。そして今も与えられようとしている力は自分自身を守るためのもので、栞を守るにはあまりに足りない。今なお自分の力では何もできない自分自身に、香里は怒りを覚えずに入られなかった。

「ぐあ!」
「あ、祐一さんが吹き飛びました」
「ぶざまね」

 守りに徹してからかれこれ一時間近くが経つが、これで三度目である。最初の十分のように簡単に転ばされることはなかったが、そのかわり勢いに負けて木刀ごと吹っ飛ばされるようになった。それでも一回目と二回目、三回目とではもった時間が長くなっているのだから上達しているといえなくもない。

「相沢君、大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃない」

 どうやら今度のは受けきれずに脇腹に届いていたようで、祐一も動けそうもなかった。

「ならば祐一君の修行の第二段じゃな」
「なぬ!? これ以上俺に何をしろと!」

 身体に走る激痛をこらえながらも祐一は叫んだ。今だっていっぱいいっぱいなのにこれ以上やられてはたまらない。強くなる前に身体が壊れてしまう。

「それじゃあこっちに移動じゃ」

 しかし刃は祐一の言葉など聞き届けず、祐一を持ち上げて北川の方へと運んでいった。

「ほい」
「らじゃ」
「うお!」

 乱暴に放り投げられて北川の隣に移される。位置的には北川を挟んで真琴と隣り合うように寝かされている。横を向けば真琴の顔が見えた。

「ほれ相沢、力を抜いておとなしくしてろよ」

 北川は祐一に背中に真琴にしているようにもう片方の手を置くと、祐一に身体に自分の気を流し始めた。

「うぉぉぉぉぉぉー」

 北川は祐一の中を流れる気の流れを整え、打たれた脇腹や、痺れが残っている両手に重点的に気を流し、回復を早める。流れがしっかりしてくると今度はさらに自分の気を流し込み、全身の疲労の回復の手伝いをし始める。
 これが祐一の修行の第二段階。ぼろぼろになった身体を無理矢理回復させることによって、全身を強化し、修行時間を伸ばし、同時に自分の中の気の流れを感じとらせるという一石三鳥の修行である。もちろん身体にかかる負荷は膨大であり、精神的にもつらい。

はっきり言って三人の中で一番つらい修行をさせられているのは間違いなく祐一であった。
 ただし肝心の祐一といえば

「うぉぉぉぉぉぉー」

 北川の気による治療の気持ちよさに真琴同様に顔を緩めて歓喜の雄叫びをあげていた。まだまだ結構余裕がありそうである。

「…ほんとにこんなので大丈夫なのかしら?」

 心底心配になる香里であった。


 その夜、祐一は夕食までの時間にどうにかしてフォースノヴァを出せないものかと苦心していた。
 祐一は今日の修行であまりに簡単にやられる自分にどうにかしなければという想いを強く抱いていた。
 北川に回復されたあと、何度やってみても刃を相手に三十分以上こらえることができなかった。それだけならまだしも、祐一が回復中に刃は舞の相手をしていたのだが、舞は普通に三十分以上、祐一の回復が終わってからもしばらくの間はまともな打ち合いをしていたのだ。  祐一とて刃が本気でやっているとはかけらも思っていないが、だからといって自分の相手をしていたときよりも手を抜いているとも思っていなかった。だから今の自分と舞の実力差を自覚せずにいられなかった。
 そんなわけで祐一はとりあえず手っ取り早く強くなるためにフォースノヴァを使えるようにしようと考えたのだ。

「祐一さん」
「何ですか、秋子さん」
「そろそろ夕飯ができますので名雪たちを呼んできてください」
「わかりました」

 けっきょくできなかったが、あとでまたやろうと思い、リビングのソファの上にフォースノヴァを置いて名雪たちがいる二階に上っていった。
 祐一が二階に消えると、秋子さんは一度キッチンから出て、祐一が置いていったフォースノヴァを手に取った。
 秋子は何も言わないが、その顔はとても悲しそうで、辛そうであった。


 二階に上がった祐一はまず先に名雪に声をかけた。

「すぐに行くよ」

 名雪はちょうど今日もらってきた青と緑のスペルリングをいじっていた。
 美汐の魔法についての説明は難しかったが、魔導器(アーティファクト)自体の使い方は北川が言っていたとおり簡単なものだった。本当にキーワード、つまり魔法の名前だけを言えば発動した。
 名雪のもらったスペルリングにはそれぞれ水と風の魔法が組み込まれていたが、そのどちらも水や風の塊をぶつけるといったものだった。美汐が言うにはどちらも殺傷力が低く、よほどのことがない限り相手を殺してしまうことがない魔法だという。
 殺すという言葉を聞いて名雪はあらためてあゆと祐一がさらされた状況に恐怖した。
 名雪にとって祐一は初恋の相手で大事な従兄弟である。あゆだって今度新しく妹になる大事な家族だ。どちらも失うことを考えるだけで怖くなってくる。
 だがそれでも自分や祐一が相手を殺してしまうというのも嫌だった。もしそうなった時、もう今いる場所には戻れないような気がした。
 そういう意味ではこのスペルリングはありがたかった。
 祐一は紛れもなく相手を傷つける剣を持ち、真琴は爪を持つ。どちらも効果的で、十分に相手を殺してしまえる武器なのだ。
 でも名雪は違う。名雪の武器は相手を殺さずに無力化できる力がある。だったら自分ががんばれば祐一たちが相手を殺してしまうこともないのではないかと思う。
 名雪のこれからに向けての決意は祐一たちのものとは少しだけ違っていた。
 あゆやみんなを守るというのは同じ、ただその守るの意味が少し違っていた。
 名雪が守るは日常、たとえこれから自分たちがかかわる世界が異常なものだとしても必ず戻ってこられる日常、それが名雪の守るもの。
だから名雪はあゆや祐一たちだけではなくて、その相手すらも守る。相手を殺さなければきっといつでも戻ってこられるから。
 だから願う。自分にもっと力がほしいと。


「修行のほうはどうですか?」

 夕食後、今日から修行を始めることを聞いていた秋子は祐一に尋ねてみた。

「つらいですけど、まあ何とかなりそうです」
「そうですか」

 祐一の答えに秋子の顔がほんのわずかに曇る。

「ふん、あのていどで音を上げるなんてしょせん祐一よね。真琴なんか楽勝だったわよ」
「おまえの修行はめちゃくちゃ楽だっただろうが」
「負け惜しみはみっともないわよ。真琴はすぐに祐一なんか足元に及ばないくらいになれるって北川も保証してくれたわよ」
「なにー! 北川め、裏切ったなー!」

 祐一と真琴は二人で言い合いを始めてしまい、秋子の様子に気がつかない。

「お母さん、どうしたの?」

ただ一人、秋子の様子がおかしいことに気がついた名雪は二人の邪魔をしないように気をつけながら秋子さんに尋ねた。

「大丈夫、心配しないで。それより名雪のほうはどうだったの?」
「私はぜんぜん平気だよ。祐一や真琴みたいに特別なことはしていないから」
「そう」

 秋子はそうだろうとわかっていた。刃はけして自分から名雪を鍛えようとはしないはずなのだから。
 秋子は名雪たちに秘密にしていることがあった。そしてそれを言うべきかどうか迷っていた。
 それを知っている人は少なく、その一人である刃はけしてそのことを言わないだろう。だがそれは刃が言わなくてもこの世界に足を踏み入れる以上、いずれ知ることになるだろうことでもある。少なくとも零課にかかわる限りは。ならばそれは自分の口で教えるべきことなのだろう。だが知らないですむのならば知らないでいてほしいことでもある。

「ねえお母さん、ほんとに大丈夫?」

 自分を気遣う名雪に秋子は悩む。
そのことを教えれば名雪に余計なものを背負わせてしまうことになる。それは辛い。
しかしすでに秋子は名雪がどのような決意を固めているのかをわかっていた。十七年以上ずっと見てきたのだ、そのぐらいはすぐにわかってしまった。
 だからこそ迷っている。秋子はすぐにとは言わなくても普通よりもはるかに早く名雪が強くなる方法を知っていた。だがそれを教えるには、その力を与えるには秘密を打ち明けねばならない。そして名雪に重荷を背負わせることになる。

――あの人ならばどう思うのだろう

 秋子は自分の夫のことを思う。
 考えるまでもない。たとえどれだけのものを背負うことになったとしても、彼は自分の大切なものを守るための力を求めるだろう。だからこそ自分の死期を悟った彼――水瀬雪彦はさまざまな制約を抱えることになることを承知で零課に入ったのだ。そしてその娘であり、雪彦の優しさを受け継いでいる名雪も同じことを望むのだろう。
 ならば教えるべきなのだ。今まで秘密にしてきたそのことを。

「名雪、あなたはどうしたいの?」
「お母さん?」

 その問いの答え次第では話そうと思う。ただもし力を、強さを求めないのならば教えずにいようと思う。

「あなたは守りたい? それとも守られていたい?」
「…………」

 名雪はすぐには答えない。それが大きな意味を持った重要なことだとわかったから。
 ただそれでも、その問いはすでに答えが出ているものだった。

「私は守るよ。祐一も、真琴も、あゆちゃんも、みんな守ってあげたいよ」
「そう」

 秋子は優しく微笑む。その内にはこれから名雪が進むであろう道を悲しみ、守る側に回ろうとする心への喜びを覚えながら。

「名雪」

 答えはもう出ている。

「あなたに話さなければいけないことがあるの」

 だから秋子は心の中で今はもう亡き夫にひとつだけ告げる。

「あなたのお父さん、雪彦さんについて」

 ごめんなさい、と。


 時刻はすでに九時をまわっている。
 秋子は父親について話すと言うと、三人を待たせて自分の部屋に戻っていった。
 睨み合いになっていた祐一と真琴もその秋子をみて、ただ黙って待っていることしかできなかった。

「おまたせしました」

 秋子はひとつの箱を持って戻ってきた。

「秋子さん、それは何ですか?」
「主人の形見のひとつです」

 秋子は箱のふたをはずし、布にくるまれた中身を取り出し、その布を取り外した。
 その中から出てきたのは青と緑の二色で塗られている一足の金属性のブーツだった。

「これが形見なんですか?」

 祐一の言葉に秋子はうなずく。

「でもお母さん、これがどうしたの?」

 名雪はなぜ急に秋子がこんなものを見せたのかわからなかった。今まで父の形見などただのひとつも見せてもらったことがない。それなのにいきなり話さなければいけないことがあると言われ、形見を見せられた。それに何の意味があるのか、名雪にはわからなかった。

「これは主人が生前使っていた魔導器のひとつ、エアリアルブーツです」
『えっ!』

 三人の驚きが重なった。
それは秋子の口から魔導器という言葉が出てきたことと、名雪の父親が魔導器を持っていたということに対する驚きだった。

「ど、どういうことですか?」

 最初に驚きから立ち直ったのは祐一だった。

「主人は生前零課に所属していたんです」

 それはあまりにいきなりのことで、そして信じられないことだった。
 だがそれならばここに魔導器があることも納得できた。そしてその魔導器の存在こそがそれが事実であることを物語っていた。

「もしかしておじさんは……」

 祐一の頭には戦いで死ぬ姿が思い浮かんだ。

「いいえ、主人が死んだのは病気が原因です」

 だがそれは秋子によって否定された。

「主人はもともとどの組織にも属さないフリーの魔術師だったのですが、私との結婚を機に零課に所属することにしたんです。祐一さん、それがなぜかわかりますか?」
「…秋子さんを守るためですか?」
「はい、主人はそのために零課に入ったんです」

 それは今の祐一と同じようなものなのであろう。

「ですが、私としては祐一さんたちに、特に名雪には零課にかかわってほしくなかった」
「それは俺もできるならかかわりたくないですけど、なんでですか?」

 祐一としてもわざわざそんなものにかかわりたいとは思っていない。あゆのことさえなければ今すぐにでもほっぽり出してしまいたいと思う。だがだからといって刃や美汐のことが信用できないというわけではないし、信頼できるからこそ名雪のおじさんは零課に入ったのではないかと思う。

「零課にいけばどうしても名雪は主人の娘というだけで多大な期待を向けられますから」

 秋子とて零課を信じていないわけではない。だが人間である以上、イメージによる評価というのは少なからず持ってしまうものである。

「お父さんってそんなにすごかったの?」

 名雪もそういうものがあることぐらいは知っているし、今日も魔法の勉強中に、美汐に天野家の紹介ということで少しばかり大変なことになると言われていたので多少のことは覚悟していた。だが秋子の心配は名雪たちが思っているよりも大きいものならしい。
 だからどうしてもその原因なのだろう父のことが名雪は気になった。それだけでなく今まで話してくれなかった父のことを初めて話してくれたことによって生まれた好奇心もある。

「能力によるランクについてはもう聞きましたか?」

 三人とも横に首を振った。

「そうですか、このランクというのは基本的にどの組織でも共通で、DランクからSSランクまでの六段階に分けられています。このうちDランクは一般人を表していますから実質五段階と考えてください」

 細かく言えばCは見習い、Bは半人前、Aで一人前、Sになれば一流といってよく、SSはそこからさらに一歩進んだ超一流の存在である。もっともこれは単純に戦闘能力だけで決められているわけではないので、あくまで目安である。

「祐一さんたちが知っている人で言うと天野さんがSSランクになっています。このSSランクは私が知る限り世界で百人ぐらいしかいません。ですがこのSSランクをも超えた人たちがいたんです」
「もしかして、それがお父さん?」
「ええそうよ。あなたのお父さんはこの世界では『神速の騎士』と呼ばれていたの」

 それで三人は秋子の心配を理解した。たしかにそんな桁外れの人間が父親ならばたしかに特別視されても仕方ないだろう。

「……ねえお母さん、これ私がもらってもいい?」

 名雪は秋子の話を聞いて、エアリアルブーツが欲しくなった。なぜならそれは父の形見であるのと同時に、象徴的な力のひとつであったからだ。もちろん名雪だってそれを使えば父と同じになれるとは思っていない。だがそれでも、みんなを守るための力を望む名雪にとってはほんのわずかな力だって欲しいのだ。
 秋子もそれをわかっているからこそエアリアルブーツを持ち出したのだ。
 だから答えはもちろん

「了承」

 だった。

「い、いいんですか!?」

 それに対して声を上げたのは祐一だ。理由はさっきまで秋子は名雪を零課にかかわらせたくないといっていたからだ。

「ええ、私は名雪に知ってもらいたかっただけですから。それに名雪の決意は固いですし」

 秋子はいつものように優しい微笑を浮かべて答えた。






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