第十一話・舞VS久瀬


WORLD FANTASIA

第十一話・舞VS久瀬






「ごめん祐一、負けちゃった」
「そんなこと気にするな。それより真琴についていてやれ」
「うん」

 名雪が椅子の上に寝かせられている真琴のそばに移るのを見た祐一は、視線を久瀬たちがいるほうに移した。
 向こうは三人で楽しそうに話していて、余裕が感じられる。

「名雪にはああ言ったができれば1勝ぐらいはしたいよな」
「はちみつくまさん」

 横にいる舞が頷く。

「あのねえ、無茶を言わないの。そもそもあの二人だってあそこまで戦えるだけでも十分すぎるほど立派なのよ」

 その二人に霧香は呆れた声で言う。

「だいたいねえ、あの二人はもう五年以上も現場で戦っているのよ。力でも技でも経験でも劣っている相手に勝てるわけないでしょう」
「む」

 霧香の言うことはまったくもって正論である。そもそも何を比べても勝てる要素がないのに勝とうなど、無謀もいいところである。そんなことが起きるとすればよほどの幸運に恵まれていることだろう。
 祐一もその言葉には唸るしかない。
 だが舞は少しだけ違う思いを抱いていた。

「でも何かひとつでも勝っている部分があるなら別」
「えっ?」

 疑問の声を上げた霧香を無視して、舞は話をやめて中央の線に向かっていく久瀬を見ていた。

「私は久瀬に勝てるものを一つだけ持っている」

 舞はそれだけ言って久瀬の向かう場所に向かって歩いていく。
 その右手にはすでに風雅が握られている。

「どういうこと?」

 舞の言葉に疑問を持った霧香は隣にいる祐一に訊いてみた。本当ならば舞に訊きたいのだが、戦いに向かって意識を集中しているものにわざわざ意味もなく声をかけようとは霧香は思わなかった。

「うーん」

 尋ねられた祐一にしても舞のあの自信はどこから来るものなのかわからなかった。おそらく一つだけ持っているというのはさっきの霧香が言ったものの中のどれか一つを持っているということだろうということまでは予想がつく。だがそのどれを持っているのかはわからない。
 まず力、純粋なパワー、腕力、久瀬がどのくらいの力を持っているのかは知らないが、舞より低いということは考えづらい。
 次に技、この場合は異能力についてとあとは武術としての力量だろう。異能力に関しては舞は自分の意思で自由に操作できるように訓練し始めたのが最近で、それまでずっと暴走状態でほうっておいたわけだから久瀬より上ということはない。武術に関しては久瀬を見る限り手には何かをはめているようだが何も持っていない。徒手空拳に属する何かか、あるいは純粋に異能力に頼った戦い方なのかだ。舞が久瀬の戦い方を知っているのならばそのことでそのことに関して自分のほうが勝っているといえるものがあったのかもしれない。舞は祐一よりも久瀬と一緒にいる時間が長いから違うとは一概には言い切れない。
 最後に経験、これはまちがいなく舞のほうが少ない。なんせ舞がこの世界のことを知ったのは祐一と同じくつい最近なのだから。

「なあ、久瀬がこの世界に入ったのはいつごろなんだ?」
「そうね、彼が中学のころだから五、六年前ね。実戦出るようになったのもわりとすぐよ。だけどそれがどうかした?」
「いや、舞が久瀬に勝っていることって何かと思って考えてみていたんだが」
「どのみち経験で勝てるわけがないでしょう。宗司君の五年に勝るだけの経験をこの世界に入って一週間の彼女が持っているはずがないもの。まあ小さいころから喧嘩っ早くて毎日のように喧嘩に明け暮れていたならまだ多少は戦いってものを経験しているといえなくもないけどね」
「戦い……あっ!」

 祐一は今まですっかり忘れていたことに気がついた。

「そうか、そういうことか、たしかにそれなら舞のほうが上だ」
「えっ、何か思い当たることでもあったの?」
「ああ、久瀬は五年なんだろう。だったら舞のほうが長い。舞が一人で戦い続けてきた時間は十年だ。単純計算で二倍の経験だ」

 霧香は目を丸くして驚いていたが、舞の戦い慣れした者の隙のない歩き方と、自分の知る事件の中に彼女に該当する件があったことを思い出し、納得した。

「なるほど、彼女が暴走した自分の能力と戦い続けていた少女なわけね」
「知っているのか!?」
「ええもちろん、あんなところで何年も続けて暴れていたら気づかないわけがないでしょう。でもそう、たしかに彼女だったら戦闘経験は十分ね。しかも普通の魔導士にたいして有利になる宗司君の力の特徴も意味がない。いい勝負になるかもしれないわね」

 霧香の顔に興味の色が浮かび上がる。
 だが、それを邪魔するものがいた。

「いやー、ごめんごめん、手間取っちゃった」

 まさにこれから舞と久瀬の戦いが始まろうというときになって俊彦がやうやくやってきた。

「遅かったじゃないの」
「だから悪かったって」

 明らかに不機嫌な声で霧香が叱責する。だが俊彦はまるでこたえたようすはない。

「で、さっそくだけどこのフォースノヴァはすごいよ」
「悪いけどそれは後、今はこっちのほうが大事」

 霧香は向かい合っている舞と久瀬のほうを示して俊彦の言葉を切った。
 それを見て俊彦は驚きを浮かべてそちらのほうを見た。

「珍しいね、霧香ちゃんが新人の子に興味を持つのは」
「まあね、それだけこの子達が逸材かもしれないってことよ。特に次の彼女は特にすごいみたいだし」
「なるほど、それはたしかに楽しみだね」

 二人はそれで会話を打ち切り、舞と久瀬に注目した。
 そして舞と久瀬は動き出した。





 祐一と霧香が話しているころ、舞と久瀬も話していた。

「久瀬、それは?」

 舞が言ったのは久瀬の手にはめられている物だ。
 それは鉛色をした金属製の手甲、ただし真琴のものと違い、ひじから指先まで全てを覆い、それでいて間接部分はしっかりと動くようにできているガントレットだ。

「これはただのガントレットです。たしかに多少の強化はしてありますが、魔導器というどのものではありませんよ」
「そう」

 舞はそれで話は終わりと風雅を抜き、構える。

「残念ですがあなた相手にあまり手加減する余裕はないでしょう。ですからかなり本気でいかせてもらいます」
「はつみつくまさん」

 久瀬も両腕を胸の前まで上げて構える。
 舞は左足を引いての正眼に構え、久瀬の構えは右足を引いての格闘の構えだ。

 最初に仕掛けたのは舞だ。一瞬で間合いを詰め、打ち下ろしを放つ。
 久瀬はそれを左手に風を纏わせて甲で受け流す。そしてさらに一歩踏み込み開いている右手で殴りかかる。
 舞はそれを後ろに跳んでかわすが、久瀬は距離が離れたにもかかわらず左手で追撃を放つ。
 舞はすでに久瀬の手が届かないところまで離れていたので不思議に思ったが、何かを感じ取って横に動いた。
 すると横に動いた舞のすぐ脇を何かが通り抜けるような感覚を受け、そして舞の髪が風で揺れた。

「…今のは?」

 舞は今通り抜けたのが物質でも、魔力や気のようなエネルギーでもないことに気がついていた。

「エアフィスト、圧縮した空気の塊をパンチと一緒に打ち出したんですよ。こんなふうにね」

 久瀬は舞の疑問に答えながら左手でパンチを三回放った。
 舞がさらに横に移動すると、三つの何かが舞いの横を通り抜けた。
 はたから見れば久瀬が届くはずもないジャブを三回放ったら舞が横に動いたように見えない。久瀬がやったのは言葉どおり空気の塊をパンチと一緒に放っただけであるが、これは久瀬の異能の力で行われていることであり、一切魔力と気の力が使われていないので察知しづらいのだ。そして察知しづらいということは防ぎにくく避けにくいということだ。昇や煉にしてもいざ戦えば何とかできるだろうがこうして離れたところで見る分には何が起きているのか予測はできるがはっきりと知覚できるわけではない。祐一たちでは気づくこともできずにくらっているだろう。
 一発の威力としてはウインドショット程度しかないのだが、久瀬がやっているのはあくまで連射がきくジャブで、いくつもの空気の塊を放てるのでもし魔法で相殺するには数段上の魔法を使うか、あるいはとてつもなく高い魔力を持っていれば同レベルの魔法でも防げるかもしれないというものなのだ。

 久瀬がエアフィストを連続で放つ。
 それにたいして舞は姿の見えない自分の生み出した魔物との戦いで鍛えられた感覚で久瀬のエアフィストを察知してかわしていく。
 舞と久瀬との距離は舞がその気になれば一息で詰められる程度しかないが、その一瞬があれば久瀬も舞に数発のエアフィストを打ち込むことができる。この適度な間合いは久瀬にとってもっとも得意とする間合いなのだ。
 舞の武器は風雅のみでこの距離から攻撃する手段はない。
 だが絶対にどうしようもないというわけでもない。

 舞は久瀬の攻撃を避けながらも、少しずつ前に出て行き始めた。そして一番最初のときと同じくらいの距離になると、全力で久瀬に向かって走り出す。
 だが久瀬はそれにたいして後ろに下がりながらエアフィストを三発、舞に向かってとその両脇に向かって放つ。
 この攻撃をかわすには横に大きく動くか、あるいは上に逃げるしかない。舞が横に避ければ距離が取れるし上にかわせば名雪のように空中での移動手段がない舞には次の攻撃を避けられない。久瀬にとっては距離を詰めさせずに自分の間合いで戦うのが一番いい。いずれは舞も避けきれなくなる。
 だが舞は久瀬にとって予想外の行動に出た。
 舞は風雅を横に構え、エアフィストを横薙ぎに切り払った。

「なに!?」

 久瀬は舞の行動に一瞬動きを止めてしまった。そして舞はその一瞬さえあれば久瀬との距離は容易に詰められる。
 舞は反応の遅れた久瀬に向かって思いっきり峰を返した風雅を叩きつける

「くっ」

 だが久瀬はそれをガントレットで横にはじき、さらに後ろに下がって距離をとった。さすがに隙をつかれての舞の打ち下ろしを防ぎながら反撃する余裕はない。

「驚ろいた」

 ひとまず安全といえるだけの距離を開けて久瀬は舞に話しかける。

「どうして風雅でエアフィストを切ろうと思ったんですか?」
「久瀬が言ってた」
「はい?」

 はたして自分は何を言ったのであろうか? 少なくとも久瀬自身には風雅について教えていることはないし、自分の風の能力についてもあんまり教えていない。いったい自分の言葉の何を聞いて風雅でエアフィストを切れると思ったのか、久瀬にはわからなかった。

「風雅は風の力を宿している」

 たしかに久瀬は舞に風雅を渡す時にそう言った。久瀬もそれは覚えている。
 だがそれでも

「たしかあなたは風雅の力をまだ満足に使えなかったのでは?」

 修行の間何度か舞が風雅を使っているところを見ていたが、久瀬は一度も風雅がその刀身に宿す風の力を働くところを一度も見たことがなかった。

「はちみつくまさん」

 舞もそれを認めた。

「もしかしてぶっつけ本番ですか?」
「はちみつくまさん」
「…………」

 久瀬は違っていたらいいなと思いつつもおそるおそる尋ねてみたのだがあっさりと肯定されてしまい思わず頭を抱えてしまう。

「久瀬?」
「…いやまあ、別にいいんですけどね」

 でももう少し考えて行動してくれないかともどうしても思ってしまう。まあ舞の判断が絶対に間違っているとは言えないだけに強くは言えないのだが。
 いささか不満はあるが、あえて黙殺して久瀬は再び構え、舞もそれに呼応する。
 この距離で先に動くのは遠距離まで届く攻撃を持つ久瀬、だがエアフィストはジャブから打ち出されるためどうしても軌道が直線になり、距離が開けばたとえ見えなくとも腕の動きで見切ることができる。しかも距離が伸びれば伸びるほど圧縮が弱くなり、圧縮されていた空気の塊が拡散してしまうので威力も弱くなる。
 だからいくら久瀬がエアフィストを放とうとも舞を捉えることはできない。舞もそれはわかっているので、あえて距離を置いている。

「このままじゃ埒があかないか」

 何十発目かのエアフィストを放った久瀬がめんどくさそうに呟いた。

「まさか川澄さんに相手にこれを使うはめになるとは」

 久瀬は左手をまっすぐ前に突き出し、そして右手を後ろに引いた。
 だが舞は気がついた。久瀬から今までにない風が吹いてくることに。
 舞は自分が久瀬に助けられた時のことを思い出した。たしかにあの時も久瀬は風を纏っていて、多少距離があった自分のところにまで風が届いていた。おそらくこの風を纏った状態が久瀬の本当の状態なのだろう。

「川澄さん、距離をとれば安全などという考えは危険ですよ。特に遠距離攻撃を持たないあなたには」

 久瀬の周りを流れる風が勢いを増していく。下手に近づけばたやすく吹き飛ばされ、吹き飛ばされなかったとしても体勢を崩し、隙を作ってしまうだろう。
 しかし脅威なのはそれだけでないと舞は気がついていた。
 本当に今脅威なのは後ろに引かれた右手、多くの風がそこに向かって集まっていく。しかもそこに集められた風は周りへと逃げていかず、その場所に収束していく。

「あなたがいる場所に打ちます。かわしてください」

 久瀬は後ろに引いた右手を舞に向けて思いっきり突き出した。

ストームジャベリン

 久瀬の右手から放たれた風は一本の槍としてエアフィストとは比べ物にならない速さで舞に向かって飛んで行く。しかも威力もエアフィストよりもかなり強力で、風雅で切り払うこともできない。
 舞の思考はそれに反応できていない。だが長年の魔物との戦いで積み重ねられてきた経験は舞の身体を横に動かし、ぎりぎりでストームジャベリンをかわした。しかしそこにさらにストームジャベリンが周囲に撒き散らす余波が襲い掛かる。
 舞はその衝撃波を風雅で切り払う。余波といってもそれはあくまで風、風であるいじょう何か特別な力で縛られていない限り風雅の力でどうにかできる。そして余波は久瀬の異能からすでに開放されている風にすぎない。
 余波は舞を避けて通るようになり、舞は久瀬が体勢を整えるまでにできる限り距離を詰めるために前に出る。あんな攻撃を何度もやられてはたまらない。
 久瀬は元の構えに戻っても風を纏ったまま何もしてこない。エアフィストを放ってこないことを不思議に思いながらも、舞はさらに距離を詰める。
 あと一歩というところで久瀬の周りを流れる風が舞に襲い掛かる。
 だが舞はそれを風雅を振り下ろして切り裂き、さらに踏み込み、振り下ろした風雅を切り上げる。

「なんの」

 久瀬は風雅の刀身の腹を叩き、新たに風を起こして舞の体勢を崩す。

「はっ!」

 さらにがら空きになった舞に脇腹に蹴りを放つ。

「――!」

 舞はそれを蹴りから逃れるように横にとびのくが、不安定な体勢からだったこともあり避けきれず、数メートルほど飛ばされた。
 だがそれでも直前で跳んだ方向と蹴り飛ばされた方向が同じだったので、距離は飛ばされたがダメージ自体はたいしたことはなかった。

「さあ、もう終わりですか?」
「…まだ」

 舞は全力でやっているのもかかわらず、久瀬はまだ少し余裕があった。
 舞はたしかに戦闘経験も豊富で、戦闘力も判断力もある。  しかし舞が今まで相手にしてきたのはあくまで強力ではあるが単調な攻撃しかしてこない暴走した自分の力によって生まれた魔物のみ。相手の動きに対する読みも、戦いの駆け引きも十分というには程遠い。しかも舞にある攻撃手段は風雅による接近戦のみ、戦い方に幅をもたせることもできない。
 そんな舞の行動を予測することなど久瀬にとってはたやすい。そして行動が予測できるのだから、舞の攻撃を防ぐこともたやすい。
 舞も自分の動きが読まれていることは気がついている。だが今の自分には近づいて攻撃する以外の選択肢はない。距離を置けば置くほど久瀬が有利になっていくことのだから。
 ならば勝つには近づいた上で久瀬の意表をつかなければならない。

「だったら」

 舞は風雅を頭上に振り上げる。

「何のつもりですか?」

 久瀬と舞の距離はおよそ五メートル。一息で詰めるには少々長く、だが久瀬にとってはエアフィストを放つ絶好の間合い。舞はその危険な距離で愚かにも無防備に身体をさらしている。

「今の私には久瀬を倒せるだけの力はない」

 舞の言葉に久瀬は眉を眉間に寄せる。

「だからこれは賭け、失敗すれば私の負け」
「そういうことはわざわざ口に出して言わないものですよ」
「かもしれない」

 呆れる久瀬に舞いは彼女をよく知る人間以外にはわからない微笑を浮かべ、意識を風雅に集中する。
 イメージして意識を集中させる、それは自分に向けられて言われた言葉ではなかったがそれを傍で聞いてはいた。そしてそれは自分の持つ風雅にもいえることなのだろうと舞は判断していた。
 風雅を扱うのに必要な力が何なのかはわからない。だがそれが魔力であろうと気の力であろうと、目に見えない力を感じることにかけては舞も自信がある。そして久瀬の風を散らすことができたのだから風雅の力を扱えないということもない。ならば今まで力を使えなかったのはしっかりとしたイメージができなかったからだろう。だが今ならそのイメージがある。もととなるのは久瀬のストームジャベリン。
 目を閉じて想像する。風雅の刀身にそって集まりだす風のイメージ、そして圧縮されていく空気のイメージ。
 もはや今の舞には目の前にいる久瀬のことすら頭にはない。そんなことを考えられるほどの余裕は今の舞にはない。
 風は舞のイメージどおりに風雅に集まり始めた。
 久瀬はその光景を驚きと共に眺めていた。だがそれなのに久瀬は無防備な舞に攻撃をしようとは思わない。むしろ久瀬の顔には徐々に喜びの色が浮かび上がってくる。
 事実、久瀬は思いもよらぬ行動をとり、そしてなおかつ成功させていく舞の行動に対して嬉しいという感情を持っていた。そしてここからどのような成果を出すのか楽しみでしかたがなかった。
 そんな久瀬の思いをよそに、風は順調に風雅に集まり、そしてその刀身に吸収されていく。風の力を操れる久瀬には刀身の中で風が圧縮されていくさまがよくわかった。
 十分なだけの風を集めて、舞は目を開いた。
 風雅を振り下ろすのと同時に思い浮かべていたもうひとつのイメージを集中する。それは風雅から解き放たれていく風のイメージ、されど圧縮され飛んでいくイメージ。
 それに応えるように風雅から圧縮された風は解き放たれ、衝撃波と姿を変えて久瀬に向かって飛んでいく。

「川澄さん、やはりあなたはたいした人です」

 久瀬は飛んでくる衝撃波を感じながら呟いた。そして、舞が衝撃波を放つ前に自分もためていた風を解き放つための準備に入る。
 舞の衝撃波はストームジャベリンと同じくらいの量の風の力が圧縮されていたが、舞にはまだ久瀬ほどの力はないのでその風の力の拡散は早く、久瀬の集めた風の力はストームジャベリンよりも少ないかったがそれで十分だった。

「はっ!」

 右手に集めた風の力をすぐ間近に迫った衝撃波に向かって叩きつける。
 二つの風はぶつかり合い、互いを打ち砕きながら拡散していく。その余波に巻き込まれて、体勢が揺らぐ。
 そこに舞が現れ、渾身の力を持って風雅を久瀬に向かって打ち下ろす。
 舞は最初から今の衝撃波で倒せるとは思っていなかった。それはあくまで囮、久瀬がそれに対処しているうちに距離を詰め、襲い掛かったのだ。
 それはもちろん久瀬も予測していた。だから余波で吹き飛ばされないように身体を押さえながらも舞の攻撃を迎撃するために動く。

「なに!?」

 だが次の瞬間には久瀬の動きが止まった。いや、止められた。
 久瀬の腕を何かがつかみ、動きを封じたのだ。

「――しまった!」

 久瀬が自分の腕をつかんだものの正体に気がついたが、時は既に遅く、風雅の峰が久瀬の肩に思いっきり叩きつけられた。

「ぐっ」

 久瀬がうめき声を上げると同時に、舞は風雅の切っ先を久瀬の首に添えた。

「これで私の勝ち」
「ええ、あなたの勝ちです」

 久瀬は顔を苦痛に歪めながらも舞の言葉に応えて見せた。

「それにしてもこの戦いだけでずいぶん成長したんじゃないですか? 風雅だけでなく、異能の力まで使って見せるなんて」
「かもしれない」

 舞が最後に使ったのは異能の力だった。自分の分身であるまいを出し、久瀬の腕を捕まえさせて動きを封じたのだ。
 さすがにそれは久瀬にも予想外のことで、反応が遅れてしまったのだ。

「まったく、苦戦するとは思っていましたがまさか負けるとまでは思っていなかったんですけどね」
「久瀬が手加減していたから」
「ま、そういうことにしておきましょう」
「はちみつくまさん」

 舞と久瀬は互いに苦笑を浮かべ、それぞれの場所に戻っていった。







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