第十二話・フォースノヴァ
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第十二話・フォースノヴァ






「やったな、舞」
「舞、大丈夫?」
 戻ってきた舞を迎えたのは勝ちを喜ぶ祐一と舞の怪我を心配する佐祐理だ。

「はちみつくまさん、大丈夫」
「そうか、それにしても本当に勝っちまうなんてさすがだな」
「うん、すごいね〜舞」
「二人とも言い過ぎ」

 舞は多少照れながらも言葉をかえす。

「おお、舞が照れてるぞ、佐祐理さん」
「はえ〜、照れてる舞もかわいいですね〜」
「うむ、かわいいぞ、舞」

   ビシッ

「ぐはっ」

 舞のチョップが祐一の脳天にきれいに入った。

「何をする?」
「祐一が悪い」
「なぜ?」
「私をからかったから」

 舞は祐一の問いをばっさりと切り捨てた。

「待て、佐祐理さんはどうなるんだ?」

 舞は佐祐理のほうをちらりと見て、

   ビシッ

「ぐはっ」

 もう一度祐一の頭を叩いた。

「これは佐祐理の分」
「な、なぜだ」
「いつまでふざけているんですか?」
「うわっ」

 急に後ろから話しかけられ、驚いて振り向くとそこには美汐が立っていた。

「なんだ天野、いきなり後ろに立つなよ。驚いたじゃないか」
「気づかなかった相沢さんに問題があると思いますが?」

 美汐ははっきり言い切ると、その言葉にショックを受ける祐一には目もくれずに俊彦のほうに向かっていった。

「それで、フォースノヴァについて何かわかったのですか?」

 美汐は俊彦がいるのを見てこっちにやってきたのだ。美汐の後ろには昇に煉、久瀬も続いている。

「いちおうはね。でも詳しいことは本人から聞いてよ」
「本人?」

 俊彦の変わった言い回しに美汐たちは首をかしげる。

「まあ見ればわかるよ」

 俊彦はなにやら不思議な箱を取り出し、床に置いた。その箱は横の面にひとつだけくぼみがあり、上の面には何かを入れるための穴がある。そしてその穴の周りには八つほど小さな噴出口がある。

「これは?」
魔導器(アーティファクト)に宿っている意識体に具象気体を持たせるための装置だよ。まだ完璧じゃないけどまあ使えるでしょう」

 上の穴にフォースノヴァを入れて、横の面のくぼみには白い魔封珠をはめ込んだ。

「出てこい、出てこい、でってこーい!」

 俊彦の掛け声に合わせるように箱の噴出口から煙が吹き出て、次第に形を成していく。

『うるさいぞ』

 煙が集まってできたものが声を発した。

「なっ!?」

 祐一たちはそれを見てあとずさった。
 そこに現れたのは白銀に輝く、おそらく西洋の甲冑だと思われるものだった。なぜおそらくなのかというと、その甲冑の大半は存在せず、兜と両腕の小手の三つだけが宙に浮いているからだ。兜の奥に見える二つの赤い光はおそらく目なのであろう。

「どうなっているんだ?」

 祐一が俊彦に尋ねる。

 明確な意識のある魔導器にはその魔導器の製造者が創った意識体が宿っているんだ。この装置はその意識体を読み取って、魔力のこもった煙でその姿を具象気体として現出させる力を持っているんだよ」
『もっとも我のような存在は持ち主たる者とはいつでも話すことができるのだから持ち主以外の者と話すための装置だな』

 フォースノヴァに宿っているモノが俊彦に続いて話す。
 祐一達新人組みは最初こそ驚いたが、まあそういうこともあるかと自分自身を納得させて今では落ち着いてそれと向かい合うことができた。

「なあ、おまえは何なんだ?」
『我の名はヴァル、フォースノヴァに込められし術式の鍵として存在する者だ。いと無能なる主よ』
「はぁ?」

 最後になんと言われたのかすぐには理解できず、祐一は固まってしまった。だがそれでもすぐに元に戻り、ヴァルを睨みつける。

「誰が無能だ!」
『ほかならぬ汝だ。我が無能なる主よ』

 火に油を注ぐがごとく、ヴァルは続ける。

『魔力を操作することもできず、一人では術式を発動することも出来ない。さらには自力で我が剣を取り出すことすらできぬ輩など無能と称して何が悪い。
 我の補助なくしてこの剣の力を発揮してこそ真の主、でなければこの剣の真価を導き出すことなど不可能。我とて創造主の頼みでもなければ汝を主になどしない。ああ、安心しろ、いざ戦いとなったら我が剣を出してやるし力も貸す。それが創造主から受けた命だからな。だがそれ以外のことでは一切手を貸す気はない。もし借りたいのならばせめて自力で剣を取り出せるようになるんだな』
「くっ、言わせておけば」
『言わせているのではなく言い返せないのだろ』
「ぐっ」

 悔しいがヴァルの言う通りなのだ。あゆが襲われたときはフォースノヴァの力で助かった。あの時は使い方こそ知っていたが自分の力でやっていたわけではない。強化も魔術防御も勝手に発動していたのだ。それ以来フォースノヴァを使えたこともないし、刃との修行で多少は強くなったとはいえ身体能力では舞に名雪、真琴にまで負けるしまつ。これでは何も言い返せない。少なくとも祐一には。

「相沢さんが無能かどうかはこの際どうでもいいことです」

 だが美汐にとってはどうでもいいことにすぎない。

「今大事なのはあなたを持った相沢さんが戦力になるかどうかです。相沢さんが無能であろうともあなたがそれを補えるだけの力があるのならば問題ありません。ですから訊きます。あなたは相沢さんを戦力にできるほどの力を持っているのですか?」
『それなりにはな』
「でしたらその力を見せてください。次は私と相沢さんの番ですから実際に見せてもらいましょう。まさかとは思いますが模擬戦は戦いではないなどとくだらない言い訳をしたりはしませんよね。もしそうでしたらしょせんあなたもその程度ということです」

 美汐のあまりにもあからさまな挑発に、その場にいた全員が驚いた。
 だが挑発された相手であるヴァルはいたって冷静だった。

『別にかまわん。修行を手伝うつもりはないが、この男の手助けを命じられているいじょう実戦だろうと模擬戦だろうとそれが戦いであるのならば力は貸す』
「でしたら結構です。このまま問答している時間も惜しいですからさっそく始めましょう」
『よかろう』

 美汐もヴァルもすでにやる気だが、その一方でそうでない者もいた。

「なあ舞、俺ってそんなに役立たずか?」
「ぽんぽこたぬきさん、祐一も十分強い」
「はい、祐一さんは無能なんかじゃないです。そんなこと気にしちゃいけません」
「祐一さんはもっと自信を持っていいと思いますよ」
「ううう、ありがとう舞、栞、佐祐理さん」

 無能呼ばわりされたあげくどうでもいいとまで言われた祐一はかなり本気でへこみ、励まされていた。

『何をやっている、早く我が本体を持て。これから戦いだというのに気がたるみすぎているぞ』
「相沢さん、早く支度してください」

 さらにヴァルと美汐の追い討ちをかけるような言葉に祐一は泣きたくなった。





「準備はよろしいですか?」
「おう、いつでもいいぞ」

 あのあとあっさりと立ち直った祐一はヴァルが出したフォースノヴァを右手に持って闘技場の中央で美汐と向かい合っていた。

「では、始めるといたしましょう」

 美汐は白鷺とは違う薙刀を構える。

「前見たのとは違うんだな」
「はい、これは安全のために刃を潰してある練習用の薙刀です。久瀬さんの篭手と同じ普通の金属よりも硬く強化してありますが、ただそれだけで普通の薙刀と変わりありません」
「なるほど」

 祐一は美汐の答えにとりあえず斬られる心配はしなくていいんだなと思い、少し緊張が緩んだ。

『気を抜くな、愚か者』
「わかってる」

 持ち主である祐一にしか話しかけられなくなったヴァルが気を緩めた祐一を叱責した。祐一もヴァルが言いたいことはいちおうわかっていた。
 今までの戦いを見る限り、舞と久瀬の戦い以外は明らかな実力差が出ていた。経験という点では真琴や名雪と祐一もあまり変わらない。二人と比べれば夜の学校の戦いにも参加したし、刃から戦い方を教わっている分上かもしれないが、美汐にとってそんなことは些細な違いに過ぎないこともわかっている。あとはフォースノヴァの力に期待するしかない。
 フォースノヴァの力が働き、祐一の身体に力が溢れていく。目には見えないし感じられないがレジストもすでに発動している。
 祐一は自分の体にパワードがかかったことを確認すると、美汐にむかって行く。
 その速さは真琴よりも上、一気に間合いを詰めて切りかかろうとする。
 だが先手を打ったのは美汐のほうだった。
 美汐は祐一の動きにあわせるように薙刀を振るった。
 その刀身はきれいな弧を描き、美汐の間合いに入った祐一に襲い掛かる。

「くっ」

 祐一がそれを防ぐとすぐに次の攻撃が、それを防いでもさらに次の攻撃がといくつもの弧を描きながら止まることなく美汐の攻撃は続く。
 しかもその一撃一撃が重く、祐一はパワードがかかっているにもかかわらず後ろへと追いやられていく。

『下がってもやられるだけだぞ』
「わかってる」

 祐一は薙刀を防ぐのではなく打ち払い、その隙にさらに前へと踏み込み、自分の間合いまでもっていく。
 だが美汐はそれにたいして薙刀から片手を離し、祐一のほうへと伸ばした。

サンダーボール
「うお!?」

 祐一の目の前に雷光をともなう球が現れ、すぐに消えた。だがそれだけでも祐一は驚きのあまり、後ろに下がってしまった。

「あの至近距離からでも防ぎますか。厄介ですね」

 美汐は今の雷球を牽制ではなく当てるつもりではなったのだ。たとえレジストでも至近距離からなら防げないかもしれないと思ってやったのだ。結果はあっさりと防がれてしまったが。

『あの程度ならば防ぐのはたやすい。魔法は気にせずにいけ』
「わかった」

 祐一と美汐は同時に前に出る。
 先手を打つのはやはり間合いの広い美汐で、祐一はどうしても受け手にまわってしまう。
 だが祐一もただやられるだけではない。先ほどとは違い、後ろに下がらずに少しずつ前へと進んでいく。
 剣の間合いまで近づけば自分のほうが有利と考えてのことだが、そこで美汐が祐一の思いもよらない行動にでた。

「近づけばどうにかなるとでも思いましたか?」

 なんと美汐は自分から前に出て、祐一の剣を上から押さえ込んでしまった。

「残念ですが相沢さんの腕ではどの間合いだろうと私のほうが上です」

 美汐は祐一の動きにあわせて力の入れ具合を変え、そして祐一の力が偏ったところにあわせて足を払う。

『下がれ』

 だがそれはいち早くそのことに気がついたヴァルの指示によって防がれてしまった。
 二人は再び距離をとり、向かい合うことになった。
 だが二人の状況は異なっている。
 祐一はすでに肩で息をしているにもかかわらず、祐一よりも動いていたはずの美汐はまるで息を乱していない。今のようなことを繰り返していては祐一の敗北はまちがいないだろう。

『このままでは負けは確実だな』
「まだまだ」

 淡々としたヴァルの物言いに、祐一はヴァルもまだ必ず負けるとは思っていないと思った。そして祐一もまだ手が残っていることを理解していた。
 祐一は腕輪から赤い魔封珠をはずし、刀身部分の根元にあるくぼみにはめこんだ。

「天野、これを受けられるか」

 祐一の言葉に呼応するようにフォースノヴァの刀身を炎が覆いだした。
 これがフォースノヴァの三つ目の能力、属性付加(エンチャント)である。

「…まさかそんな力まで持っていたのですか」

 それに驚いたのは美汐だけでなく、離れて見ていた零課のメンバーも同じだった。
 普通強力な魔導器というのは一つ、あるいは二つの力のみに特化している。わかりやすい例をあげると舞の風雅と真琴の狐人甲がそうだ。風雅はただ風の力に特化しているため、強力な風の一撃を放つことができる。それにたいして狐人甲は爪と盾の二つに特化しているがもともとたいした魔導器でもないため、真琴の力に多くを依存してそのもの自体にはたいした力はないし、盾と爪を同時に出すこともできない。
 だがフォースノヴァは違う。剣に炎を纏わしてなお祐一にかかっているパワードもレジストもなくなってはいない。つまり三つの力をそれぞれかなり強力なレベルで併用しているのだ。
 そしてそれはフォースノヴァがかなりとてつもない力を持った魔導器であることを示している。

「まだ驚くには少し早いぞ」

 驚いている美汐に祐一は笑みを浮かべながら告げる。そして剣を頭上へと振り上げる。
 すると刀身を覆っていた炎は剣先へと集まり、一つの大きな炎の塊になった。その大きさは直径二メートルほど、見るからに強力だとわかるものだ。

「いくぞ」

 祐一はそれを思いっきり振り下ろした。
 炎の塊は一直線に美汐に向かって進んでいく。
 それにたいして美汐の反応は早かった。

「荒れ狂う流水の力、我が意に従いてあらゆる物を打ち抜く力となれ」

 祐一が振り下ろすのと同時に詠唱を始め、魔力を紡ぐ。そして右手を前に出し、その力を解き放った。

ハイドロプレッシャー

 美汐の右手の先に突如陣が現れ、そこから祐一に向かってとてつもない勢いで水が吹き出ていく。
 祐一の放った炎の塊と美汐の流水が空中でぶつかり合う。流水はその大半が炎の放つ膨大な熱量によって蒸発していく。だがあとからあとから押されていく流水はそれでも少しずつ少しずつ炎を削っていく。
 そして、力負けしたのは炎のほうであった。
 しかし打ち勝った流水もその力をほとんど失っており、祐一に届いてもレジストによって全て防がれてしまった。
 そしてもともと今のだけでどうにかなると思っていなかった祐一はすでに次の準備を終えていた。

「いけ――!!」

 今度は剣先に黄色の光が集まっている剣を下段から、床にめり込ませながら振り上げる。
 祐一のすぐ前の床から壊れ始め、無数のコンクリートの塊が床から突き上がる。その現象は祐一から美汐に向けて突き進み、そして美汐のすぐ脇を通り過ぎた。

「…………」

 美汐は呆然と自分の横に現れたコンクリートの塊を見上げた。それは全てが鋭く削られていて、しかも美汐にとっては見上げなければならないほど大きい。まともにくらえばただではすまないだろう。
 美汐はその威力に、そしてなによりそれをやった祐一の行動に驚いた。
 祐一は最初の炎を放った後、それを美汐が防ぐかかわすかすると判断し、すぐに魔封珠を別のものに変え、すぐさま次の大地の柱を放ったのだ。
 残念ながら美汐は最初の炎に対して自分が使える中で最高クラスの魔法を放っていたのでこれに対抗することは不可能だった。もしこれが実戦で、この攻撃がはずされていなければまず間違いなく美汐はやられていた。
 美汐は大地の柱と祐一を見て、大きなため息を吐いた。そして

「私の負けですね」

 と告げた。





「はい、これでテストは全部終わりよ。ごくろうさま」

 最初に通された部屋で霧香が全員に告げた。

「とりあえず結果は後日天野さん経由で通達するから。とりあえず私の予想としては実戦テストを受けていない人はCランク、受けた四人はBランクになると思うわ。実際川澄さんと相沢君はAランクになってもおかしくないだけの戦闘能力を持っていると思うけど、それ以外の点はわからないからBランクで我慢してね」
『主に関しては妥当だ』

 霧香の言葉に答えたのは再び具象化したヴァルだった。

「そう? 最後の技なんかSランクでも通用するぐらいのものだったと思うけど」
『だが火と土の属性の技は当分使えん。魔封珠に込められていた魔力を全部使ってしまったからな』
「ぜ、全部ですか?」
『ああ、しかも主には魔封珠に魔力を込めることはできないからな。腕輪の持つ補充能力で回復させるには一つに一月はかかる。二つとも回復させるには二月だ。月に一度しか放てないようでは技としてあまりに不十分だ』
「なるほど」

 それを聞いて霧香は納得した。いつ必要になるかわからない技にそんな回数制限があってはあまり期待はできない。せめて一日一回ならば役に立つかもしれないが、月に一回、もし二回使えばその分回復が遅くなるような技では使いどころがかなり制限されてしまう。それならばないものとして考えたほうがよっぽどいい。

『だがな主よ』

 ヴァルは祐一のほうを向いた。

『汝は我が思っていたよりもやるようだ。この分ならば我の力の全てを扱えるようになる日もそう遠くはないであろう』

 終始祐一に向けて辛らつな言葉を吐いていたヴァルが突然祐一を認めたのだ。その言葉にはこの場にいる全員が驚いた。

「おまえ…」
『だが、それでも未熟であることには変わりない。少しでも早く我を扱えるように死ぬ気で精進しろ』

 その言葉に祐一はがくっとうなだれた。

「おまえな〜」

 それに合わせてその場にいた全員が笑ったのだった。







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