第十四話・初任務


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第十四話・初任務






 GWを直後に控えた4月28日、祐一たちは天野家に集っていた。

「そういえばこうして集るのも久しぶりだな」
「そういえばそうね」

 零課に行って以来全員をまとめて鍛えるのは効率も悪いし、名雪や香里は部活、久瀬は生徒会、佐祐理はバイトとそれぞれ用事もあるので天野家に来るのは週に二三回、それぞれ時間があるときに来ることにしたのでこうして全員が集るのは久しぶりのことだった。

「それにしてもどうしておじいさまは突然みなさんを集めたのでしょうか?」
「さあ」

 そう、今日こうして皆が集まったのは刃に呼ばれたからだった。
 それは本当に突然のことで、美汐でさえ今朝いきなり集るように伝えてくれと言われたのだ。

「それは本人に直接聞くしかないだろうな。まあ僕と天野さん以外に川澄さんたちまで呼んだとなるともしかしたら月宮さんの件で何らかの発展があったのかもしれない」
「たしかにそれだったらありそうね」
「まったくどうでもいい用件だったりしてな」


 ギロッ


 ぼそっと呟いた北川に八つの冷たい視線が突き刺さった。

「いや、だって刃さんだし」

 周りの反応が予想外だったらしく、北川は思わず隅っこの角のほうで小さく縮こまった。

「あのなあ北川」
「北川君、その言い方はひどいよ」
「いくらなんでもなあ」
「北川君、ふざけるのは時と場合をわきまえなさい」
「そうよそうよ」
「えぅ〜、北川さんひどいです〜」
「あんまりふざけないでくださいね〜」
「……………………」

 周りからは非難の嵐、しかしそれに加わらず真剣な面持で考え込んでいるのが二人いた。

「いやまさか……」
「ですがないとも……」

『ありえるのか』

 耳ざとく久瀬と美汐の呟きを聞いた一同はいっせいに二人のほうを向いた。

「ねえ、まさか本当にそんなことありえるの?」
「否定は……できない」
「…ですね」

 弱々しい久瀬の声と諦めたような美汐の声に一同の胸に不安がよぎる。

「おや、みんなして何を話しているんじゃ?」
「おじいさま、気配を消して近づくのは止めてくださいといつも言っているでしょう」

 突然現れた刃に美汐は驚くことなくその行いをたしなめた。

「美汐はいつもうるさいのう。年寄りの軽いお茶目じゃのに」
「お茶目じゃありません」
「わかったわかった。それと皆、今日は急に呼び出してすまなかったのう」

 美汐はまだ何か言いたそうだったが、皆が急な呼び出しにもかかわらず来てくれたことを知っているので刃が皆に話し始めたのならばそれを邪魔するわけにもいかずおずおずと引き下がった。

「実は皆に見てもらいたいものがあってのう」

 刃はそういうと今まで右手に持っていた物をテーブルの上に置いた。
 それはどう見ても植木鉢で、刃は部屋に入ったときからずっとそれを持っていた。皆、刃に気がついたときにそれに気がついたのだが、すぐに美汐が説教を始めたので今まで誰も尋ねられなかったのだ。
 そしてその植木鉢だが、中にはしっかりと土が入っており、小さい木も植えてあった。俗に言う盆栽というものであることはまず間違いなかった。だがなぜそれを見せるのか、それは誰にもわからなかった。

「これは何ですか?」
「盆栽じゃ」

 そういうことを訊いているんじゃない全員が心の中でつっこんだ。

「これは今朝剪定したものなのじゃが、これまでにわしがやった物の中でも三本の指に入るほどのできばえでの」
「……それが皆さんを呼んだこととどのように関係しているのですか?」

 思わずぞっとしてしまうほど冷たい声が美汐の口から発せられた。だが刃はそれに気がついていないのか、まったく気にしている風もなく答えた。

「誰かに見せびらかしたかったんじゃ」

   シュッ ゴスッ!

 瞬時に白鷺が抜き放たれ、石突きの部分が刃の頭を強く打った。

「いいかげんにしてください!」
「ちょ、ちょっとま」
「言い訳は結構です」

 まだ何か言おうとする刃の足を払うと、美汐は襟首をつかんで引きずっていった。

「今日という今日は許しません。たっぷりとお説教です」
「ま、まだ話は」
「問答無用!」

 ずるずるとなすすべもなく引きずられていく刃の姿は威厳のかけらもなく、あまりに情けなかった。

「俺ってあの人に鍛えられているんだよな」
「……そうだね」
「大丈夫でしょ、相沢君も似たようなものなんだから」
「俺はあそこまでひどくない」

 祐一は心外そうに言うが、それを認めてくれるような人はこの場にはいなかった。

「自覚がないのね」

 祐一、名雪、香里が連れて行かれた刃の話をしている横では何もなかったかのように話している者もいる。

「真琴さん、何を読んでいるんですか?」
「これ? 北川からもらった妖術の教本。これで勉強すれば真琴も魔法が使えるのよ」

 あくまで使えるは魔法ではなく妖術なのだが、真琴はその区別がついていないらしい。

「えう〜、羨ましいです。私にも見せてください」
「ダメ、これは真琴のよ」

 もちろん読んだところで栞には使えないのだが、栞にもその区別がついていないらしい。

「北川くん、少々彼女に与えすぎなのではないか?」
「うーん、でも必要な物しかあげてないんだけどな」
「というか俺らのほうには何かないのか? 都合のいいパワーアップアイテムとか」
「そうですね〜、佐祐理たちにもなにかくださいよ〜」
「はちみつくまさん」
「あっはっはっ、久瀬に頼んでくれ」
「おい」

 斉藤、佐祐理、舞の三人に詰寄られた北川がその矛先を久瀬にそらしたりと、各々の方法で時間を潰していた。





「さてこれからが本題じゃ」

 あれから一時間ほどしてようやく美汐から開放されて戻ってきた刃が真剣な面持で話し始めた。少々引きつっているような気もするが、その原因は少しでもふざけようものならば制裁を加えようと後ろで白鷺を持ったまま控えている美汐であることは間違いないので気にしないでおく。

「実は今朝朝一で他支部からの応援要請があった。どうもその支部の人間だけでは手に負えない事態になっているらしい。しかも最寄の支部も大きな事件を抱えているらしく、そちらにまわせる余裕がないらしい。そんなわけで比較的余裕があるうちから応援を出すことになった」
「そんなに切羽詰っているのですか?」
「うむ、どうも厄介な結界が張られているらしく中がどうなっているのかまったくわかっていないらしい。しかも今いる人員ではその結界を破ることができないそうじゃ。特に危険なことが起きているわけではないそうじゃが、現場が特別監査地域の一つなためできるだけ急いで対処する必要がある」
「そうでうか」

 事の次第があまりわかっていない祐一たちもとりあえず大変なことが起きていることだけはわかった。

「しかしどうするつもりですか? こちらも月宮さんと美坂栞さんの件がありますからあまり人員を割けないはずです」
「うむ、じゃがわしは結界さえ何とかできればそこまで厄介な事件ではないと思っている。じゃから」

 刃はそこで一度区切り、、後ろにいる美汐の方を向いた。

「美汐に行ってもらいたい。美汐ならば戦闘以外の技術にも長けておるから不測の事態にも対応できるじゃろう」
「わかりました」

 美汐が頷くと、今度は祐一の方を見て、

「それと相沢君にも行ってもらいたい」
「お、俺!?」

 いきなりの指名に驚いたのは祐一だけではなかった。

「待ってください、いくらなんでも早すぎます」
「そうです、相沢さんはまだ修行を始めて一月も経っていないのですよ」

 祐一がフォースノヴァを手にしてからまだ一月も経っていないのだ。久瀬と美汐が言うことはもっともなことだ。もちろん刃もそのことはわかっている。だがその上で刃は祐一を指名したのだ。

「今の相沢君に必要なのは実戦を経験することじゃ。今回の仕事は相沢君にとってかなりの肥やしになるはずじゃ。もちろん宗司君や美汐の言うことももっともじゃが、相沢君には高レベルのレジストもあるし、美汐にフォローしてもらえば大丈夫じゃろう」

 たしかにフォースノヴァのレジストがあれば生半可な魔法ではやられないだろうし、昇のように接近戦を得意とする相手であれば美汐に任せればいい。

「……わかりました」

 そこまで言われては久瀬も美汐も引き下がるしかない。

「相沢君は引き受けてくれるかの?」
「わかった」
「祐一、いいの?」

 あっさりと引き受けた祐一に名雪が心配そうな声で尋ねる。

「ああ、今の俺には実戦経験が必要なんだろ。それで強くなれるなら行くさ。俺はあゆを守りたいからな」
「……そうだね」

 あっさりと危険な場所に飛び込もうとする祐一に名雪は不安を感じずにはいられないが、祐一の思いの強さもわかるので止めることはできなかった。

「祐一、ファイトだよ」
「おう」
「では相沢君は問題なしだの」
「ああ、大丈夫だ」

 刃は祐一の意思を確認すると今度は真琴を見て、そして北川に向かって話し出した。

「北川君、真琴ちゃんの様子はどうじゃ?」
「そうっすね、一応最近は実戦的な訓練も混ぜてますがなかなかいいですね。接近戦なら相沢よりも強いと思いますよ」
「何!?」
「ふっふふーん」

 北川の言葉に祐一と真琴がすぐさま反応した。
 祐一はショックに顔を歪め、真琴はそんな祐一に対して自慢げに胸を張った。

「だけど真琴ちゃんは相沢みたいな技もないし技術もないから自分よりも強い力を持った敵と戦ったらまず負けるでしょうね」
「あう〜」

 しかし続く北川の言葉ですっかり小さくなってしまった。

「ふむ、まあその点は美汐に押し付ければいいからよしとしよう。では真琴ちゃん、美汐と一緒に行ってもらえるかのう?」
「行ってもいいの?」

 おそるおそる自信なさ気に訊いてくる真琴に美汐が答える。

「はい、かまいませんよ」
「じゃあ行くー!」

 ついさっきまで小さくなっていたのがまるで嘘のように真琴は元気よく答えた。

「では三人に行ってもらうとしよう。よろしく頼む」

 刃が言うと三人は頷き、そして祐一と真琴は互いに向き合った。

「ふっふっふっ、この仕事で俺が真琴よりも優れていることを証明して見せよう」
「ふーん、真琴が祐一なんかに負けるわけないじゃない」

 互いに対抗意識を燃え上がらせる二人をよそに美汐は大事なことを教えられていないことを思い出した。

「ところでおじいさま、現場はどこなのですか?」
「ああ言ってなかったのう。初音島じゃ」
「な!?」

 突然の大声に皆の目が大声をあげた者、北川のほうを向いた。そして少なからず驚きを覚えた。
 北川の目は大きく見開かれ、顔は驚愕に彩られていた。

「刃さん、本当に初音島なんですか?」

 そう尋ねる北川にはいつもの軽さは欠片も残っていなかった。

「ああ間違いない。特別監査区域に指定されている初音島じゃ」
「…………そうですか」

 刃の答えを聞いた北川はどこか遠くを見るようにして思索にふけりだした。その雰囲気に誰も声をかけることができなかった。
 そんななか刃は北川が過去に思いをはせているのだとかがついていた。北川と初音島の間に何があったのかは知らないが長い人生のなかで多くの人を見てきた刃にはそれがわかった。そしてそれが北川にとってけっして軽いものではないことも。
 誰もがまったく口を開かない中、北川は一度ゆっくりと目を閉じて、息を一つつくと目を開いた。

「刃さん、オレも行きます」
「しかしそれでは……」
「わかっています。相沢たちとは基本的に別行動、向こうで合流できるようだったらします」
「どうしても行かなければならんか?」

 詳細は別としてここにいる全員が北川が零課に命を狙われる立場にあることを知っている。北川がここにいるのは刃がかくまってくれているからだ。それなのにここから出て他の零課の人間とかかわる危険が高いことに首をつっこむことは避けるべきなのだ。

「あそこには行かなければならない理由がありますから」
「教えてはもらえぬか?」
「…オレが零課に追われる原因となった事件の後、俺を人間のままいさせてくれた恩人の一人との約束です」
「……すまん」

 その事件のことを知っている刃にはその人物が北川にとってどれだけ大切な人であるのかよくわかった。そして、止められないことも。
 一方祐一たちにしてみればものすご〜く気になる言葉があったのだがさすがにこの空気の中でそれについて訊くことは誰にもできなかった。

「では四人ともよろしく頼む」







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