第十五話・異変の始まり


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第十五話・異変の始まり






 またこの夢かと思わずにはいられない。他人の夢なんてもともと自己満足の産物なわけで見せられても俺の安眠を妨げるだけでしかない。
 ……たまにわかる夢を見せられても他人のプライバシーを覗いているみたいで困るが。
 だがこの夢はそういうものとは違う。
 幻想的な雰囲気を持った世界とその中心にある一本の桜。この世界は夢の行き着く場所、人の思いの集る場所。一人の魔女によって創られた魔法の世界。
 この世界に来れる人間は3人だけ。俺と従兄弟のさくら、そして―――

「こんばんは」

 桜のかげから一人の少女が現れた。
 金色の髪を頭の左右でくくってツインテールにした青い瞳を持つ少女。その容姿だけならばさくらにそっくりな少女。だけど彼女はさくらではない。

「もう桜もだいぶ散ったぞ、ばあちゃん」
「まあ本当ならもう来年まで会わないつもりだったんだけどね」

 さくらの姿をしているがこの少女は七年前に死んだ俺のばあちゃん。そしてこの世界を創った魔女でもある。

「ちょっと困ったことになってそういうわけにもいかなくなったのさ」
「どうしたんだ?」

 ばあちゃんは何も言わずにじっと俺を見ている。真剣な顔だ。ばあちゃんのこんな顔、俺はばあちゃんが死ぬ前も、死んだ後も見たことがない。

「私の家の物置におまえあての遺産がはいっている」
「はぁ!?」

 困ったことがあったから出てきたんじゃないのか? いやもしかして遺産がらみで困ったことがあったのかもしれない。

「いや、ていうか遺産の配分ならもうとっくに終わったしばあちゃんが死んでからもう七年も経っているんだから残っているわけがないだろう」

 あるとすれば俺宛であるのを見た両親が保管していてくれたかだから家の物置だろう。

「おまえにしか取り出せないように魔法をかけておいたからまだあるはずだよ」
「………………」

 まあ和菓子を創ることしかできない落ちこぼれの魔法使いの俺と違って立派な魔女であるばあちゃんならそんなことができてもおかしくないか。

「それでそれがどうしたんだ?」
「とりあえず今日中に受け取っておくれ。受け取ってくれればそれでいい」
「それだけでいいのか?」

 それだけなら別にそれほどかったるいことでもないだろう。

「ああ、受け取ってくれればそれでいい。それ以上は私から言うことではないからね」

 何かたくらんでそうな笑みを浮かべるばあちゃん。
 …………………………かったりぃ。





「なんちゅう夢じゃ」

 目を覚ましていざ鳴ろうとする目覚ましを止めた純一は今まで見ていた夢を思い返した。

 ――ばあちゃんが出てきて遺産について教えていった。

 あからさまにおかしい話である。この夢を見たのが純一、あるいはさくらでなかったらただの夢として切り捨てておしまいであっただろう。しかし純一はたかが夢と切り捨てるわけにはいかない。なぜなら純一は普通ではない力を持っているからだ。。
 その一つが他人の夢を見せられる・・・・・というものだ。
 この力は純一の力というよりも初音島の桜の力で実際には人々の想いの力を夢という形で集め、真摯な願いをかなえるという一人の魔女がこしらえた大掛かりな魔法なのだ。そして純一はその魔女の血を引く者であるがため、とある一点に流れていく夢の中に純一の意識が紛れ込んでしまうことがある。その結果、純一は他人の夢を見せられているのだ。
 そして先ほどまで純一が見ていた夢はその魔法の中心である世界、夢の集う場所。純一にとっては死んだ祖母に会うことのできる唯一の場所である。…………別にそれほど会いたいというわけでもないが。
 そこは夢の中であるが現実の一部である。それゆえにただの夢として切り捨てることはできなかった。

「まさか予言ってことはないよな」

 ないとは言い切れないところが困ったところだ。

「ま、どうにかなるだろう」

 純一はわずかに悩んだだけであっさりと思考を放棄して学校に行くための支度を始めた。





 放課後、純一は朝の夢のことを今年から風見学園の教師になり、しかも純一のクラス担任になった従姉、芳乃さくらに伝えると、恋人の白河ことりと桜公園にやってきていた。

「じゃあこの後芳乃さんの家に行くんですか?」
「ああそうなるな、ちょうど今日は同好会もないらしいから仕事が終わりしだい帰ってくるって。それでも一時間ぐらいはかかるらしいけどな」

 二人は公園のベンチに座ってクレープを食べながら今朝の夢のことを話していた。ことりは純一の能力を知る数少ない一人だ。というのもことり自身桜の力によって他人の心を読む能力を与えられていた時期があったからだ。

「う〜ん、じゃあ今日は一緒にいられるのはあと一時間だけか」
「俺は別にことりが一緒でもかまわないんだけどな」
「私も一緒にいたいけどもうすぐ聖歌隊のこともあるから練習しないと」
「ああそうか、今年も孤児院でやるんだっけ? しかもソロパート」
「そうなんですよ。だからがんばらないと」
「……ことりなら大丈夫だと思うけどな」

 歌の好きなことりは母親の勧めで聖歌隊に入っていてそこでもトップクラスの実力を持っている。だから純一もそのことに関しては心配はしていないが、去年のこの時期、ことりは人の心を読む力を失ったショックで失敗をしてしまっているからその分がんばらないといけないと思っているのだろうというのはわかる。ただ聖歌隊の練習が毎週日曜にあるためせっかくの休日をことりと一緒にいられないということに関しては寂しく思っているのだ。まあその分それ以外の日は毎日ベタベタしているのだが。

「じゃああそこに行く?」

 純一は林の奥を指した。

「うん」
「うし、じゃあ行くか」

 純一は立ち上がって食べ終わったクレープのゴミを捨てて、同じようにゴミを捨てたことりのと並んで林の奥へと入っていった。

 桜公園の林の奥には一箇所だけ開けた場所がある。
 そこには一本のひときわ大きな桜の木がたたずんでいる。一年ほど前までは枯れずの桜とも呼ばれていた純一にとっては小さいころから遊び場であった秘密基地であり、さまざまな思い出のある場所である。
 そしてその桜の木の下はことりの歌の練習場でもある。

「ん? 誰かいるな」

 だが残念なことにいつもは誰もいない桜の根元に今日は三人もの先客がいた。
 三人とも男でそのうち二人は黒い服装で、背中に何かを背負っている大男と手に荷物を抱えているのがいた。そしてもう一人の男だけは白衣のようなものを着ていて桜の周りを見てまわっている。時折何かを話しているようなのだが距離がありすぎて何を言っているのかは聞こえてこない。

「桜を調べに来たのかな?」
「それにしては他の二人は変じゃないですか?」
「荷物もちかもしれないぞ」

 もともと一年中桜が咲き続けているいうはたから見れば以上でしかない島であったため何度か調査に来ることもあった。桜が枯れてしばらくしたころはかなりの数が来ていたが最近はめっきり来なくなったので珍しいが、時折やってくることもある。

「暦先生は何か言ってた?」
「う〜ん、お姉ちゃんは子育てに忙しくて最近研究所のほうには行っていないみたいだから」
「それもそうか」

 純一の元担任でありことりの姉である佐伯暦は昨年の12月に出産して以来学校も所属している天枷研究所も休みを取っている。
 純一の知り合いの中でそういうことを知っていそうなのは暦とさくらの二人ぐらいでさくらからは何も聞かなかったし、暦も知らないとなると純一にもことりにも桜の根元にいるのが科学者なのかどうか知りようがない。わかることはとりあえず今日のことりの歌の練習は中止だということだ。

「とりあえず花より団子にでも行く?」
「私としてはクレープを食べたばかりですからちょっと」
「じゃあ散歩もかねて商店街に行くか」
「うん」

 予定を変更してその場から立ち去る前にもう一度だけ桜の方を見ると、黒い服の男のうち背中に荷物を背負った大男が純一たちの方を見ていた。
 純一たちはその男に頭を軽く下げて立ち去った。





「どうした?」

 白衣の男が後ろを向いた大男に声をかけた。

「人が入り込んでいた」

 大男が簡潔に答えると白衣の男は顔をしかめた。

「人払いをしているにもかかわらずか。やはり一筋縄ではいかないか」
「ああ、予定を変更するべきだろう」

 大男の言葉に頷き、白衣の男は再び作業に戻った。





「お兄ちゃん、見つかった?」
「いや、まだだ」

 純一とことりは商店街で時間を潰している途中でさくらと出会い、そのまま三人でさくらの家に行き、物置の探索を始めた。といっても探しているのは純一だけで他の二人は物置から出てきた物を揃えて並べているだけだ。
 そうしてかれこれ二時間になるがいっこうにそれらしいものは見つからないでいる。

「少し休みませんか?」
「そうだな」
 純一はことりの提案に従うべく物置から出ようとした。しかし純一は気がつかなかった。純一の足元には物置にあった縄が絡み付いていたことに。しかも縄の端は物置の柱につながっている。そんな状態で歩けばどうなるか?

「うわっと」

 もちろん転ぶ。それでも純一はとっさにドアをつかみ、足を引っ掛けながらも転倒はまぬがれた。だがその衝撃で物置の奥にあった山が崩れ、上のほうに積まれていた箱が純一の頭に直撃した。

「ぐ」
「朝倉君!」
「お兄ちゃん!」

 うめき声を上げて倒れる純一に駆け寄る二人は気がつかなかった。純一にぶつかった箱がわずかに輝いていたことに。





「――――――というわけでございます」
「おお、やっぱりセバスチャンの話はためになる」
「いえいえ、気に入っていただけて何よりです」

 純一の家の近所にある月城邸では執事の瀬場孝一郎(こういちろう)と一年前からよく遊びに来るようになった純一の悪友杉並(いさむ)の二人が話していた。杉並は元某国の諜報員であった瀬場の話をよく聞きに来るのだ。

「しかしセバスチャンを疑うわけではないが信じがたい話ではあるな」
「杉並様は信じられませんか?」
「いや、俺は魔法が存在していても受け入れることに何の抵抗もない。あくまで一般論の話だ」
「そうですか」

 瀬場が今日杉並に話したのは自分の過去の話の中でもかなり特殊な例の話で、とある魔法使いとの戦いの話であった。
 日のあたる世界では魔法などしょせんは夢物語にすぎないが、瀬場のいた裏の世界では当たり前というわけではないがそこまで珍しい話ではない。瀬場自身魔法を使うことはできないが魔法使いの類と戦ったことは何度かある。ほとんどはどうにもならないというわけではなかったが、時々とんでもない化物がいたことはよく憶えている。
 だが本当のところ瀬場は杉並に魔法使いの話をするつもりはなかった。ただなぜか今日はこの話をしなければいけないような気がした。そこに理屈はなかった。だが瀬場はその直感的なことの重要性を理解していたから話したのだ。俗に言う虫の知らせという奴である。
 そしてその感は正しかった。
 まさに今日、初音島は魔法によって危機にさらされていたのだから。

「――!」
「む!」

 朗らかな笑顔を浮かべていた瀬場となにやら考え込んでいた杉並が同時に何かに反応した。

「杉並様、今のに気がつかれたのですか?」
「うむ、だが今のは何だ?」
「どうやら結界の類を張られたようです。しかし普通は気がつかないものなのですが、杉並様はよく気がつかれましたな」

 瀬場が気がついたのは過去の経験があったからだ。しかし杉並にはそんな経験はない。それなのに気がついたことが瀬場には驚きだった。

「我ながら驚きではあるが、まあそういうこともあるだろう」
「そうですな」

 納得しがたいことではあるが現実としてそうであるし、瀬場は杉並の人格を信頼しているのできっと杉並は類まれな才能の持ち主なのだと思うことにした。

「しかしこうしていてもしかたがありません。お嬢様をお迎えに行きましょう」
「なるほど、たしかにこの状況では何があってもおかしくないからな」
「はい、そのとおりです」

 瀬場は車のキーを取りにいき、杉並は一足先に車庫に向かった。





 このとき異変に気がついた人間は他にもいた。その一人であるさくらはことりと一緒に純一を自分の部屋に運んだときに気がついた。
 さくらは縁側から庭に出て空を見上げた。するとさくらの目は空を覆うように広がるピンク色の幕が見えた。それが初音島を覆う結界であることはすぐにわかった。

「そんな……」

 さくらはこの結界を張っている魔力についても、結界の中心地がどこであるのかもわかってしまい愕然とした。

「芳乃さん、どうしたんですか?」

 いきなり庭に飛び出したさくらに驚いたことりが縁側から顔を覗かせて尋ねてくる。

「お兄ちゃんをお願い」

 だがさくらはそれには答えずそれだけを言って外へと飛び出していった。
 結界の中心地である祖母の形見の桜の元へ





 車に乗り込んだところで杉並は重要なことに気がついた。

「ところでセバスチャン、月城嬢がどこにいるのかわかるのか?」
「本日は天枷様と水越様とお出かけになるとうかがっております」
「ならば」

 杉並は携帯電話を取り出してどこかに電話をかけた。

『はいもしもし美春ですが』
「わんこ嬢、今どこにいる?」
『桜公園です……ってなんで杉並先輩が美春の番号知っているんですか!?』
「…ふ」

 プッ

「セバスチャン、桜公園だ」
「心得ました」

 美春に対して一笑をもって応えた杉並には何も言わずに瀬場は車を走らせる。

「ほんとに誰も気がついていないようだな」

 桜公園までの道のりにはまだちらほらと人がいる。杉並は窓から見える空に浮かぶピンク色の幕を見ながら呟いた。
 外を歩いている人々は誰一人としてその幕を気にしている者はいない。

「はい、普通ならば気がつけません。というよりは目には見えているのですがそれを認識できないのです」
「ふむ、見るのは目でも脳が認識しなければ見えていないのと同じことだからな」
「その通りです。ですがもしみなさんが見ていたら混乱してしまうでしょうな」
「たしかに」

 話しているうちに車は桜並木を迂回し、桜公園の入り口についた。

「さて、ここのどこにいるのでしょうか」
「なに、わんこ嬢の事だ、バナナンボーの近くであろう」

 杉並は人気の高いチョコバナナ兼クレープの屋台を探しながら歩き出した。バナナに目がない美春の性格を考えればまず正しい判断であろう。
 ほどなくしていつもと同じ場所にある屋台とその近くにいる美春たち四人を発見した。しかしどこか様子がおかしかった。

「お、いたな」
「あ――! 杉並先輩、なんで美春の番号を知っているんですか!?」

 最初にこちらに気がついた天枷美春が杉並の元に駆け寄ってくる。

「何を言っている。わんこ嬢が月城嬢に教えている時に俺もその場にいたではないか」
「あ〜〜そんなこともありましね……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが!」

 思い当たる記憶を見つけ、目を逸らそうとする美春を水越眞子の声がさえぎった。

「そうでした、月城さんと眞子先輩、それと鷺澤先輩の様子がおかしいんですよ」
「水越が?」

 杉並は眞子の方を見るが、これといっておかしな様子は見えなかった。

「特におかしいようには見えんが?」
「おかしいわけないでしょうが!」

 二人の会話に眞子が割り込んだ。そして眞子は杉並の首元をつかんだ。

「杉並、あんたの仕業でしょう?」
「何がだ?」
「あれに決まってんでしょうが!」

 そう言って眞子は空に向かって指を伸ばした。そしてその先にはピンク色の幕がある。

「さっきからこんな感じなんですよ」

 そんな眞子の様子に美春が溜息をはく。だが杉並は美春と違ってそんなことを言ってられなかった。

「たしか今、水越の他に月城嬢と鷺澤嬢もおかしくなったと言ったな?」
「え、はいそうです。月城さんも空を見上げて色がおかしいとか言っているんです」
「ふむ、水越、空に何が見える?」
「なんかオーロラみたいな感じの薄いピンク色した幕が一面に広がっているのよ。ねえ、これあんたの仕業なんでしょう?」

 どこかすがるような感じで発せられる言葉を聞きながら杉並は現状を把握する。

「セバスチャン、どうやら……」
「はい、お嬢様たちにも見えているようです」

 表にこそ出していないが瀬場はかなり動揺していた。杉並ばかりかアリスたちまで、瀬場の周りにいる人間ばかりが魔法の力を感じ取っている。幸いこの場にいる全員が見えているわけではないようだが、裏の世界を知っている瀬場にとっては何の訓練もせずに魔法の力を感じ取っている四人の身を心配せずにはいられなかった。

「あのー、何を話しているんですか?」
「なに、気にするな。それよりもセバスチャン、この後はどうする?」
「まずはお屋敷に戻るべきでしょう。この場ではもし何かあったときに対処できません」
「そうか、わかった。…む、あれは?」

 杉並の目に横向きに流れていく雷が見えた。

「い、今の何!?」

 同じようにそれを目撃した眞子が取り乱し始めた。

「落着け水越、ただの放電現象だ」
「ほ、放電現象って、あんなの雷じゃない」
「うむ」
「うむ、じゃないわよ」
「あれ、芳乃先生が来ますよ」

 杉並と眞子が美春が見ているほうを向くと桜並木の方からさくらがこっちに向かって走って来ていた。そしてその方向は先ほど雷らしきものが起きていた方向でもあった。

「あ、みんなこんにちは」
「芳乃さん、今そっちの方で何かなかった?」
「うにゃ? 何もなかったよ。ボクちょっと急いでいるからもういくね。バイバーイ」

 さくらは本当に急いでいるようで、さっさと立ち去ろうとする。

「待て、芳乃嬢。訊きたいことがある」

 だがそれを杉並が呼び止めた。

「う〜ん、明日じゃダメ?」

「なに、すぐに終わる」

 律義に止まって振り返るさくらに杉並は一つだけ訊いた。

「芳乃嬢にはあそこに何が見える?」

 空を指差して発した杉並の言葉を聞いた瞬間、さくらの表情が変わった。普段見せている無邪気な子どもっぽい部分は消え、学校では一度も見せたことのない真剣な表情に変わった。その迫力は眞子、美春、アリス、美咲の四人がただそれだけで気圧されてしまうほどだった。

「そっか、杉並君には見えているんだ」
「うむ、だが何がどうなっているのかはまったくわからん。芳乃嬢は何か知っているのか?」

 杉並はさくらの変化に何も思わなかったのか、気圧される様子も微塵も見せずに尋ねた。

「うーん、実はあんまりわかってないんだよね。でもこの結界の中心地はわかるよ。ボクはそこに行こうと思ってるんだ」
「ほう、それはどこなのだ?」
「ここ、桜公園だよ」
「あ、あの〜」

 真剣なさくらと真面目そうに見えながら楽しそうな杉並の間に猫を抱いた少女、鷺澤美咲が声をかけた。

「あ、こんにちは〜」
「あ、はい、こんにちは」

 ついさっきまでの真剣な表情が消えて、元に戻ったさくらが美咲に挨拶した。この二人は共に猫を飼っていることもあって仲がいいのだ。

「あの、もしかして結界の中心地というのは……」
「うん、あの桜だよ」
「うん? 桜がどうかしたのか?」

 二人の話についていけていない杉並が尋ねた。

「この公園には真摯な願いを叶えてくれる桜があるんです」
「その話なら俺も聞いたことがある。だがどの木なのかまではわからんだろう」
「いえ、どの桜かはわかっていますから」
「ほう、どこにあるんだ?」
「あの林の奥――!」

 美咲が見た方向、その桜のある場所へと続く林の手前には巨大な物体を背負った黒服の大男が立っていた。

「悪いがおまえたちには死んでもらわなければならないようだな」







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