第十七話・合流
WORLD FANTASIA
第十七話・合流
純一が目を覚ますと木目の天井が目に入った。見慣れたような見慣れないような天井だがとりあえず自分の部屋ではないことはわかった。
体を起こすとかかっていた布団が落ちた。そして周りを見回してみると見たことのある内装が目に入り、自分がどこにいるのかわかった。
「なんで俺はさくらの部屋にいるんだ?」
疑問を口にしてみると頭の中に記憶が戻ってきた。頭に何かぶつかったところまで思い出すと痛みが出てきた。さわってみるとたんこぶができていた。
このまま痛みがなくなるまで眠ってしまいたいがまだ頼まれたことも終わっていないし、ことりやさくらにも心配をかけているのだからこのまま寝るわけにはいかない。そして何より先ほどからやたらと騒がしい。
(騒がしい?)
純日本家屋のさくらの家は普段使っていない部屋のふすまを開けてあるので防音能力はほとんどない。だが今この家には純一を含めて三人しかいないはずである。だが明らかにここにはいないはずの声が聞こえてくる。
純一はその聞き覚えのある声に寝てしまいたいという欲求が膨らんできたが、それを何とか振り払い布団から出る。そして嫌な予感をしているにもかかわらず声のするほうへと進んでいく。
そして覚悟を決めて声のする居間のふすまを開けると…………
「お、朝倉、ようやく起きたか」
「おはよう、朝倉」
杉並と眞子がのんびりとお茶を飲んでいた。
「ん、どうした朝倉、まだ目が覚めていないのか?」
「覚めたわ。おいさくら、なんでこいつらがいるんだ?」
「外で会ったから連れてきたんだよ」
「ふっふっふっ、そういうことだ」
胸を張る杉並をよそに純一は考えた。
さくらは人懐っこいがそうぽんぽんと人を家に連れてこれるような奴ではない。それでも連れてきたのだからその必要があるということなのだろう。つまり…………
「………………かったりぃ」
ろくでもないことになったのだろうと思いそれ以上を考えるのをやめた。
「いったいどういうことなんだ?」
「私もまだ聞いてないよ」
「眞子は?」
「あたしに聞かないでよ」
ことりと眞子に訊ねてみたが二人ともわからないらしい。純一は事情を知っている奴はいないかと周囲を見回した。
「鷺澤は知っているのか?」
「え〜っと、さあ」
知らないらしい。
「月城は?」
「わからない」
「そうか」
わかりそうな連中には訊いたがそれでもわからなかったのだからしかたがない。杉並に訊くのも嫌なので勝手に話し出すのを待つことにした。
純一はことりが詰めてくれた場所に座り、ちゃぶ台の上にあるせんべいを取った。
「朝倉先輩、なんで美春には訊かないんですか!?」
「……かったりぃ」
「うわ〜、今のは本当にかったりぃって感じですね」
美春に訊かなかったのは訊いてもわからないだろうと思ったからだがさすがにそんなことは言わない。それに純一が訊く気がないとわかると美春の興味はよくわからない箱に移ったようだ。何の箱かはわからないが誰かが持ってきた物なのだろうと思い、純一はせんべいをかじってお茶がほしいなと思った。
「おや朝倉様、気がつきましたか」
湯飲みを乗せたお盆を持って現れた瀬場を見て、純一は目を丸くした。さすがに瀬場が来ているのはまったく予想できなかった。
瀬場は持ってきた湯飲みの一つを純一の前に置き、代わりのお茶をいれに戻っていった。
瀬場を眺めながら純一は本格的にかったるいことが起きていることは間違いないと確信してしまった。
純一はもう一度周りを見回してここにいる連中を見た。
純一の隣にはことりが座っていて、逆隣にはさくらがいる。さくらの先には杉並がいてそのさらに奥には眞子が座っている。ちゃぶ台から少し離れたところでは美春がアリスと美咲と共に木箱を囲んでいじっている。
美春とアリスの仲がいいことは美春自身の口から訊いて純一も知っていた。そして美咲と眞子が昔からの知り合いだということも聞いている。杉並はアリスに関わって瀬場に会い、瀬場を慕っていることも知っている。眞子と杉並は付属時代からまあいろいろとやっているし純一にとっても共通の知り合いである。そして詳しくは知らないが眞子とアリスが友人になったことも聞いている。詳しい話を知らないのはそのことを訊いた時に眞子がすごく嫌そうな顔をしたことから杉並が関わっているとわかったからだ。
というわけでこの六人にはつながりがあるから一緒にいることがあってもおかしくはない。だがなぜさくらの家に集っているのかは謎であった。
杉並が関わっているいじょうできることならば訊くべきではないとわかっているが、ほかの連中までかかわっているとなると訊かないわけにもいかない。ましてや純一やことりにまで火の粉が飛びそうならばなおさらだ。
「おい杉並、なんでみんなしてさくらの家に集っているんだ?」
「ここが一番安全だからだ」
「はあ?」
訳がわからなかった。そして訳がわからなかったのは純一だけではなく、ことりと眞子も困っている。
純一たちが困っていると瀬場が戻ってきてくれた。これ幸いと純一は瀬場に訊き直した。
「ここならば盗聴の心配も奇襲を受ける心配もないということでございます」
それでもわからなかったが瀬場は杉並と違いしっかりと補足してくれた。
「このことだけ話してもお分かりになられないでしょうから最初からお話いたします」
そして瀬場は今日あったことを最初から話し始めた。
「なあガーランド」
「どうした?」
桜の幹のもたれかかっていたがーランドは声をかけてきた男に応じた。
「なぜあの男達を見逃したんだ? あんたならあんな連中楽勝だろう」
「たしかに追えば倒せただろう。だが俺はここから離れるわけにはいかないからな。例えばもしあいつらが陽動で、俺が離れたところをあいつらと同じぐらいの強さの別働隊に襲われたらどうする?」
ガーランドの言っていることは正しい。もっとも重要なことはこの場所を守ることだ。必ずしもやってくる連中を倒さなければならないわけではない。男もそれをわかっている。そして自分はガーランドよりもはるかに劣るし、もう一人は今はあまり動けない。トラップもさほど役に立ってくれそうもない。ガーランドがここにいるのが一番いいことは間違いない。
だが男はそんな正論をまったく信じていなかった。
「それで本音は?」
「あのまま逃がしたほうが楽しめそうだ」
ガーランドは悪びれもなく言い切った。
「やっぱりそうか」
予想通り過ぎて呆れてしまう。
男は先輩に当たるガーランドも、桜を調べているもう一人の先輩も尊敬しているが、悪癖だけはどうにかしてほしいと思っている。
ガーランドは己の強さを追及し高め続けてきた戦士であるが戦いの中に喜びを見いだし、必要とあらば任務を放棄することもいとわないバトルマニアで、もう一人は好奇心を満たす過程で強くなった錬金術師で組織でもトップクラスの技術を持っているが、好奇心を優先させるため任務の達成率は高くない。本来ならばいつ放り出されてもおかしくないのだが、二人とも組織でトップクラスの実力を持っていることと、上司が幹部達の中でも発言権が強いおかげで放免されているのだ。
今回のこともその上司のおかげでやれるようなものだ。
今彼らが初音島に来ているのは任務のためではなく、まさに三人目の男の好奇心を満たすためだけに来ているのだ。まあその分失敗の可能性は低いだろうと男は考えていた。
「ところでこの島には結界が張られている場所があることに気がついたか?」
「いや、気がつかなかった」
男の感知力はあまり高くない。さすがに初音島を覆っているような大掛かりなものになればわかるが、小さな結界では目の前にあればともかく離れていてはわからなかった。
「一つは魔の力でもう一つは気の力のようだな。後々ためになるだろうから見てくるといい。ここは俺一人で十分だろう」
己の強さを高めると同時に強くなろうとする者の成長を促すことも忘れていない。この面倒見のよさも男にとって尊敬する点であった。
「わかった、行ってくる」
男は結界の大体の位置を教わると結界の外へと出て行こうとした。
「待て、零也」
男は名前を呼ばれて振り返った。
「もし途中であいつらを見かけたら教えてくれ」
「……わかった」
男は少し間をおいて考えてから答えた。
そして男――須藤零也は出かけていった。
「かったりぃ」
瀬場の話を聞いた後、縁側に出て空を見上げた純一が呟いた。
「やっぱり朝倉先輩にも見えるんですか?」
「見えるな」
「ううう、白河先輩にも見えたんですよ。なんで美春だけ見えないんですか?」
ここで集ったメンバーの中で唯一空を覆う幕が見えなかった美春が言うが、もちろん純一にわかるはずもなかった。だから純一はちゃぶ台を囲んでいる杉並たちの方を見た。
「わからん」
「私としてはなぜ天枷様以外のかたに見えるのかが不思議でなりません」
「そうだね」
杉並、瀬場、さくらの三人にもわからない以上子の場で説明できる人はいないことになる。
「まあそれはおいておこう。それよりも朝倉、理解したか?」
「……まあな」
ほんとは解りたくなかったが、さすがにこの場で白をきるのはまずいと思った純一はしぶしぶと頷いた。
「というわけで乗り込まねばならん。だがそのためには戦力を整えねばならん」
「まあそうだな」
風見学園一謎の男杉並、謎の過去を持つ瀬場、魔法使いのさくら。この三人が協力しても歯が立たないような障害があるのだからこのまま行くわけにはいかない。
「具体的にはどうするんだ?」
「うむ、やはり人員と物資を集めることになるだろう」
「人員はともかく、物資?」
純一の頭に真っ先に思い浮かんだのは食べ物だ。そしてその次が武器弾薬だ。だが食べ物は長期戦にならない限り気にする必要はあるまい。すぐ近くにはコンビニも商店街もあるのだから。
「武器でも集めるのか?」
「まあそれも必要だが、直接ぶつかっても勝ち目は低い。それよりも奴らを撹乱するための道具が必要なのだ」
「撹乱?」
純一の頭にことあるごとに行われる学園全体を舞台にした鬼ごっこが思い浮かんだ。
音夢がいなくなってからは杉並に渡り合えるだけの人材がいなくて美春とアシスタントのアリスに率いられた風紀委員および中央委員合同部隊の数に物を言わせた攻め手に智謀策謀をこらして逃げる杉並の姿を見ているから撹乱によって生まれる効果がどれほどかはわかる。だがそれはあくまで逃げることに関してである。今の状況で撹乱がどんな意味を持つのかがわからなかった。
「お兄ちゃん、ボクたちの目的はおばあちゃんの桜でしていることを止めることだよ。だから勝てなくても引き離すことさえできれば後はボクがどうにかするよ」
「どうにかって、できるのか?」
「たぶん、おばちゃんの桜ならきっとボクのお願いを聞いてくれると思うから」
桜公園の奥に植えられた一本の桜の木、それは純一とさくらの祖母である一人の魔女が植えた魔法の桜だ。人の真摯な願いを叶えてくれる魔法の桜は桜に対して過剰なまでの反応を見せるのだということは桜が枯れた後さくら自身の口から教わっていた。そして桜を枯らしたのもさくらで、魔法の桜がさくらの願いを聞いてくれたかららしい。そういう経緯があるからさくらは自分ならできると思っているのだろう。
「わかった」
だから純一もさくらを信じることにした。
「撹乱のための道具は俺とセバスチャンでどうにかする。後は人員だが、これは向こうが何人いるかわからんいじょうどれだけ必要なのかわからん」
「向こうの人数か」
杉並たちが会ったのは一人だけであったがそれ一人だけだとは思えない。
「あっ!」
今まで黙って話を聞いていたことりが突然声を上げた。
「どうしたんだ、ことり?」
「うん、ねえ朝倉くん、今日学校終わった後のこと憶えている?」
「学校終わった後? たしかクレープ食べてそれでことりの歌を聴こうと…………あっ!」
純一はことりの言いたいことに気がついた。
「おい杉並、向こうの数は多分三人だ」
「む、なぜだ?」
「今日俺とことりは桜公園に行ってその桜のところにいったんだ」
「うそっ!?」
「なに!?」
さくらと杉並が驚くがあえてそれを無視して続ける。
「だけどそこには先客がいたんだ。そこにいたのが三人だった」
「なるほど、それは有力な情報だぞ」
「すごいすごい」
「お見事ですな朝倉様、白河様」
純一とことりがもたらした情報によって状況は一気に変化した。
「朝倉の言うとおりならばもし仮にその場にいなかった者がいたとしても一人だろう。ならば四人と考えて準備しておけばいいわけだな」
「そうですな、わざわざ離れたところにおいておく必要はないでしょうからそれよりも多いということはないでしょう」
「ならばこちらも相手に気づかれぬように人数は絞るべきだな。俺とセバスチャン、芳乃嬢に朝倉、あとは水越にも加わってもらうとしてあとは誰がいる?」
「ちょっと、なんであたしも入っているのよ」
自分の名前が挙がったことに眞子が怒鳴りだすが、杉並も純一も当然だというように答える。
「水越には期待している」
「おまえなら大丈夫だ」
「は?」
二人の答えにあっけにとられた眞子を放っておいて相談に戻る。
「例の大佐殿たちには頼めないのか?」
「向こうは向こうで今特別任務についている」
「じゃあ運動部の連中にでも頼むか?」
「いえ、おそらく話自体を信じてもらえないでしょう」
「うむ、彼らを間接的に利用する案なら考えてもいいかもしれんが、やはり除外して考えるべきだろう」
「じゃああれが見える人を探すか、話を信じてくれそうなのを探さないといけないのか。こういうのは何だがこんな話を信じる奴がそうそういるとは思えないんだが」
「たしかに、では朝倉や芳乃嬢には同じように特殊な力を持った知人はいないのか? いればその人物の力を借りたいところだが……」
杉並は話している途中で頭に何かが引っかかった。そして純一とさくらも杉並の言葉に何かが頭が引っかかった。
「あ―――!!!」
三人は同時に思い当たり、慌てだした。
「さくら、電話借りるぞ」
「う、うん、でも環ちゃんの番号知っているの?」
「杉並」
「すまん、俺も知らん。そうだ鷺澤嬢、たしか胡ノ宮嬢と同じクラスだったな?」
「は、はい」
「では番号は覚えているか?」
「はい、憶えていますけど」
「よし、鷺澤、悪いが一緒に来てくれ」
「え? ええ――!?」
純一は美咲の腕を掴むと引きずるようにして部屋から出て行った。
困ったのは話から完全においていかれた五人であった。
「あのー、どういうことなんでしょうか?」
真っ先に尋ねたのは美春だった。他の四人もそれに続いてさくらと杉並の方を見る。
「セバスチャン以外は胡ノ宮嬢のことは知っているな?」
「はい、たしか巫女部の部長さんですよね。美春のクラスにも何人か巫女部に入っていますから」
答えたのは美春だけであったがことりも眞子もアリスも頷いた。
「ならば彼女についてまわる噂についても知っているだろう」
「はい」
これにも四人とも頷く。彼女についての噂は風見学園ではかなり有名だからだ。
「実はその噂に関してほとんどが事実なのだ」
それには四人とも目を見開いて驚いた。彼女についての噂はとてもでは信じられるようなものではなかったからだ。そう、魔法というものが存在することを知った今でもなお信じられないほど。
「申し訳ありませんが私にもわかるように説明してもらえないでしょうか?」
この中で唯一彼女を知らない瀬場が説明を求めた。彼にしてみればみんなが何を驚いているのかも解らないのだ。
「うむ、実はな……………………」
杉並は彼女――胡ノ宮環という少女について話し始めた。
胡ノ宮環は純一たちが付属を卒業する前に転校してきた少女で神社に父親と二人で住んでいること。
本人いわく純一の許嫁であったらしいが本人も純一もなぜなのかは知らないこと。
純一がことりと付き合い始めたことでそれがうやむやになったこと。
どうやら彼女には予知能力があるらしいこと。
彼女が必勝祈願した部活はなぜか実力以上の成績を残していること。
彼女は巫女に興味を持つ人が意外といたことで風見学園で巫女同好会を作ったこと。
なんやかんやと人数が増えて今年無事部に昇格したことなどを杉並は自分が知っている限りのことを瀬場に話した。
「なるほど、たしかにそれは信じがたい話ですな」
たしかにそれは瀬場でも信じがたい話であった。
「たしかにな、だが実在している以上それは事実だ。事実は事実として受け入れていくべきであろう」
「そうですな」
杉並の言葉に瀬場も頷く。瀬場も杉並のこういう懐の広さ、視野の広さ、柔軟な思考には尊敬をせざるを得ない。
「しかし盲点だった。胡ノ宮嬢ならばおそらくあの幕のような物も見えていることだろう。無事であるといいが」
純一と美咲は環のことを説明し終わってからあまり時間が経たないうちに戻ってきた。
「どうだった?」
元の場所に純一が座るやいなや杉並が訊ねてきた。
「ああ、大丈夫だった。まだ襲われていないそうだ。それに神社は昔からそういうものが寄りづらいところだから大丈夫だろうってさ」
「うん、大丈夫だと思うよ。あそこの神社は環ちゃんのおかげでボクの家と同じように一種の結界になっているから」
「そうなのか?」
「うん、だからたぶんあそこならあの黒い蜥蜴が出てくることもないと思う」
「なるほど」
だが彼らは知らなかった、その神社で何があったのかを。
話は少し前にさかのぼる。純一が環の家に電話をする少し前に
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